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なぜミャンマー人は日本で抗議デモを続けるのか

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
駐日ミャンマー大使館前をデモ行進する在日ミャンマー人ら(筆者撮影)

ミャンマーで軍が市民への弾圧を強める中、大勢のミャンマー人が暮らす日本では、在日ミャンマー人による抗議デモが毎週のように開かれている。彼らはなぜ、祖国から遠く離れた日本でデモを続けるのか。

若者がほとんど

「ミャンマーを解放せよ」「アウン・サン・スー・チーを解放せよ」「ミャンマーには民主主義が必要だ」——。

東京都内で11日午後、ミャンマー軍のクーデターに抗議する「恒例」の抗議デモが開かれた。カラフルな民族衣装やスー・チー氏の顔写真がプリントされたTシャツを着た在日ミャンマー人らが、昼頃からJR山手線五反田駅近くの公園に続々と集合。その後、1キロメートルほど離れたところにある駐日ミャンマー大使館前まで、英語や日本語でシュプレヒコールを上げながら、警察車両に先導されて行進した。

新型コロナ対策でマスクをしているため顔がよく見えないが、数百人とみられる参加者のほとんどは、20代や30代とみられる若者だ。話を聞くと、日本で働いている人がほとんど。流ちょうな日本語を話す人も多い。デモ開催などの情報は、フェイスブックを通じて共有されているという。

行進中はみな、声を上げると同時に、片手の人差し指、中指、薬指をそろえてピンと立て、頭上や顔の前にかざし続けた。平和を訴えるサインだ。

祖国の仲間を応援したい

デモ隊はほどなくして門の閉まったミャンマー大使館の前に着いたものの、立ち止まらずに歩き続け、少し先にある公園に再集合し、そこで解散した。日曜日、しかも新型コロナによる外出自粛ムードの中とあって、デモ行進を行った通りは人影も車もまばら。大使館を目指したからと言って、大使に面会を求めたわけでもない。彼らの狙いはいったい何なのか。

デモに参加していた何人かに話を聞いた。

ミャンマーの主要民族の1つ、カチンを象徴する赤と緑色のシャツを着た26歳の女性は、「ミャンマーでは自分たちと同じような若い人達が、民主主義のために軍と命懸けで戦っている。その人たちを応援するために参加した」と話す。別の若い男性も、「ミャンマーの人たちを勇気づけたいから」とデモに参加した理由を語った。

デモ行進では、何人かのミャンマー人とおぼしき人が、行進の様子をビデオカメラで撮影していた。デモの動画は、SNSや動画投稿サイトなどを通じて世界中に拡散されるに違いない。ミャンマーでは、軍が市民に暴力を振るう様子を市民が密かに撮影した動画が世界中に拡散され、軍の非道ぶりを国際社会に印象付けている。ミャンマーから遠く離れた日本での抗議デモは、ミャンマー国内の民主派勢力を勇気づけると同時に、国際世論の喚起を狙ったとみられる。

日本政府は民主派への支援を

日本でデモを続けるもう1つの狙いは、日本政府への圧力だ。デモ行進では、スー・チー氏の解放要求などと共に、「日本政府はミャンマーの民主主義に協力しろ」といった日本語でのシュプレヒコールも聞こえてきた。デモの参加者が手にしていたシュプレヒコール用のメモを見せてもらうと、「日本政府はミャンマーテロ軍事を認めないで」(原文ママ)という文章が、他の文章と共に、英語のアルファベットを添えて印刷されていた。

日本政府は、ミャンマー国軍とスー・チー氏ら民主派勢力の両方に太いパイプがあると繰り返し強調しながら、事態の収拾に積極的に動いている様子は今のところ見えない。軍によってすでに700人以上の市民が殺害されたとの報道があるにもかかわらず、日本政府は事実上、軍の弾圧を黙認し続けている。

先月26日には、「在日ミャンマー市民協会」などが外務省に公開質問状を提出し、日本政府がミャンマー国軍の関連企業に経済制裁を行わない理由をただすなど、動かない日本政府に対し不満を募らせている。

デモに参加していたカチンの30歳の女性は「日本政府はもっとミャンマーの民主主義を応援してほしい」と訴えた。 

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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