変わる五輪 今や「SDGsの祭典」に 問われる橋本新会長の力量

(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子氏の就任が決まった。女性蔑視発言による前会長の辞任を受けたものだが、発言が国内外で激しい炎上を招いた背景には、五輪が担う役割の変化も見逃せない。五輪は、スポーツを通じて世界の人々が仲良くなることにより戦争のない世界を目指す「平和の祭典」と言われてきたが、最近は、貧困や差別、気候変動など世界的な課題の解決にその影響力を生かす場としての「SDGsの祭典」という意味合いが大きくなっている。

SDGsへの貢献を明記

SDGsは「持続可能な開発目標」を意味する英語の頭文字を組み合わせたもので、2015年の国連総会で採択された。わかりやすく言えば、世界のあらゆる国や地域、人々、組織が協力し、人類共通の課題である貧困問題やそれに由来する健康問題、根強い性差別や人権の問題、限りある地球資源の有効活用や全人類の脅威である気候変動の問題などの解決に取り組んでいきましょうという決意表明だ。全部で17の目標が掲げられている。

SDGsへの貢献は東京大会の基本理念でもある。実際、組織委員会の公式サイトには、SDGsの実現に向けた東京大会の果たすべき役割が次のように書かれてある。

日本は、気候変動や天然資源の枯渇、差別等の人権問題等、持続可能性に関する世界共通の課題に直面しています。

東京2020 大会は、「Be better, together /より良い未来へ、ともに進もう。」をコンセプトとし、持続可能な社会の実現に向け、課題解決のモデルを国内外に示していきます。

また、地球及び人間の未来を見据え、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献するとともに、将来の大会や国内外に広く継承されるよう取り組んでいきます。

森喜朗会長(当時)の発言の波紋が世界的に広がったのは、女性蔑視というだけでなく、五輪を開催する組織のトップという立場にありながら、五輪が貢献すべきSDGsの取り組みを真っ向から否定する言動だったからだ。

2大会連続でメダルをとったマラソンの有森裕子さんも、中国新聞の取材に「国連が掲げるSDGs(持続可能な開発標)などの問題提起をスポーツという手段を通し、感動と共にメッセージ性を持たせて浸透させるのが五輪の役割。なのに五輪をやろうとしている国の組織のトップが、開催する意味がないくらいのメッセージで全て台無しにした」と述べている。

五輪は、国連がSDGsを採択する前から世界的な課題に率先して取り組んできた。

商業主義への反省

国際オリンピック委員会(IOC)は、1990年代に環境保護重視の姿勢を打ち出し、1996年には五輪憲章に「持続可能性」を追加した。背景には、1984年のロサンゼルス五輪あたりから商業主義、儲け主義が顕著になった五輪に対する世界的な批判の高まりがあった。

中でも目立ったのは、会場の造成のために貴重な樹木が伐採されたり野生の動植物の生息地が埋め立てられたりしているとの批判や、五輪を開くことで大量のゴミや食品ロスが発生しているなどの批判だ。一部の人間や組織の金儲けのために人類共通の資産である自然や天然資源を破壊・浪費するのはけしからんという主張で、大企業や独裁的国家の政策に対する批判に通じるものがある。

憲章は大会運営にも反映している。2012年のロンドン五輪では、選手村の食堂で提供する魚介類は原則、「これは海洋資源の保護に配慮して捕獲した魚で、乱獲したものではありません」という認証を国際機関から得たものに限った。2016年のリオデジャネイロ五輪では、天然ものに加え、養殖の魚介類に関しても、国際機関のお墨付きを得たものが提供されたという。

リオ五輪では、表彰式でメダリストに花束を贈呈するのを止め、代わりに、リオ五輪のロゴマークを3Dプリントした手のひらサイズの記念品を渡したことも話題になった。花束はすぐに捨てられゴミを増やすだけとの考えからだ。ただし、記念品がプラスチック製だったため、かえって自然環境に有害だとの批判も浴びた。

LGBTも受け入れ

五輪は人権問題も積極的に啓発してきた。ロンドンやリオでは、出場選手があえて大会期間中に、自身が性的マイノリティーであることをカミングアウト(公表)する例が相次いだ。報道によれば、ロンドンでは少なくとも23人がカミングアウト。リオでは大会途中の統計だが、それでも複数のメダリストを含め、五輪史上最多となる49人がカミングアウトした。

7人制ラグビー女子のブラジル代表イサドラ・セルロ選手は、表彰式の場で、パートナーの女性から突然、マイクを通じてプロポーズを受けた。びっくりして感極まったセルロ選手の目からは涙があふれ、2人はフィールド上でしっかりと抱き合った。その場に居合わせた選手や競技関係者も、温かく祝福したという。

こうした流れがあるだけに、東京大会の環境問題や人権問題への取り組みには、これまで以上に期待が高まるのと同時に、一段と高い要求や厳しい注文も突き付けられている。

例えば、東京大会では、IOCが2014年に五輪憲章にLGBTなど性的マイノリティーへの差別禁止を加えたのを受けて、LGBTに関する情報発信や関連イベントを開く「プライドハウス」が設置される。プライドハウスは、2010年のバンクーバー冬季五輪から、開催地のNPOらが主体となって大会ごとに開設・運営されてきたが、東京大会では公認プログラムとなった。五輪期間中の常設も、東京大会が初めてだ。

こうした取り組みが進められてきただけに、森会長の女性蔑視発言は、社会的マイノリティー全体に対する配慮が欠けているとも捉えられ、それも国境を越えて炎上が広がる一因となった。

橋本新会長は期待に応えられるか

東京大会に対する高い要求や厳しい目はジェンダー問題に関してだけではない。

ロンドン五輪の銀メダリストを含む米国、カナダ、ニュージーランドなどのアスリートは、東京大会では、狭いケージ(檻)に閉じ込めて飼育した鶏の卵や、拘束飼育した豚の肉を提供しないよう、組織委員会などに要求している。選手らによると、ロンドン、リオ両大会では、アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮し、平飼いや放し飼いの鶏の卵が選手村で提供された。鶏がほとんど身動きできない設計の「バタリーケージ」は、欧州連合(EU)が使用禁止にするなど、先進国では廃止の動きが広がりつつあるが、日本は依然、バタリーケージによる飼育が主流だ。

また、投棄されたプラスチック容器による海洋汚染の問題への関心が世界的に高まっているが、この問題に対する東京五輪の姿勢にも、疑問が出ている。海洋汚染の最大の原因であるプラスチック製食品容器の使用を減らすため、繰り返し使用可能な「リユース容器」を普及させる取り組みが、世界各国で広がり始めている。そうした中、日本の環境NPOらが組織委員会に飲料用リユース容器の使用を打診したが、「容器はスポンサー企業が決めること」と言われ、実現しなかった。

橋本新会長は果たして、東京五輪・パラリンピックに対する世界の高い期待に応えることができるだろうか。