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NY州、知事が大麻合法化に並々ならぬ意欲 バイデン政権の対応は?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
11日、施政方針演説をするニューヨーク州のクオモ知事(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

米ニューヨーク州のクオモ知事が大麻合法化に並々ならぬ意欲を見せている。同州が大麻解禁に踏み切れば、国内での合法化の流れがさらに加速するだけでなく、世界的な観光地や金融センターを抱え留学生や企業の駐在員も多いだけに、日本を含めた外国への影響も大きい。合法化の気運は連邦レベルでも高まっており、20日に就任するバイデン新大統領や上下両院とも民主党が多数派となった議会の出方が注目される。

施政方針演説で決意表明

クオモ知事は11日の施政方針演説で「われわれは他の15州に追随し、成人が娯楽のために大麻を吸うことを合法化する」「合法化は、州の税収増につながると同時に、有色人種に対する大麻を理由とした過剰な取り締まりに終止符を打つ」と述べ、早期の合法化を目指す決意を表明した。

米国では、先の大統領選と同時に各州で行われた住民投票の結果、ニュージャージー州など新たに4州が大麻の娯楽使用を解禁。これにより、一定の条件付きで大麻を合法的に吸える州の数は、米全体の3割にあたる15州に拡大した。

新型コロナで財政が悪化

クオモ知事が大麻合法化を急ぐ理由の1つは、新型コロナウイルスの感染爆発で大きく悪化した州財政の立て直しだ。ニューヨーク州は、新型コロナによる死者が全米最悪となる4万人に達し、感染拡大を抑え込むために都市封鎖も行うなどしたため、経済が大打撃を受けている。

合法化すればタバコやアルコール類と同様、課税を通じて3億ドル(約300億円)の税収増が見込める他、州全体で35億ドルの経済効果、6万人の雇用創出効果があると知事は説明する。

昨年1月に娯楽用大麻を解禁したイリノイ州では、1年間で6億7000万ドルの売り上げを記録し、税収は9月時点で1億600万ドルに達した。

マイノリティの人権問題も絡む

クオモ知事のもう1つの動機は黒人などマイノリティの人権問題だ。大麻の所持や使用で逮捕・起訴され有罪となるのはマイノリティが圧倒的に多く、白人は大麻を吸っても罪に問われないとの不満が、マイノリティやリベラル派の白人の間に強い。有罪になり職を失うと本人も家族も困窮状態に陥り、その結果、白人との経済格差が一段と広がるとの指摘もある。全米規模で合法化が進んでいるのも、同じ理由からだ。

民主党のクオモ知事は以前から大麻合法化を政策に掲げており、民主党議員が多数を占める州議会も合法化に原則、賛成している。だが、税収の使い道をめぐり知事と議会の折り合いがつかず、合法化にいたっていない。

バイデン氏勝利で大麻株が値上がり

連邦レベルでは、大麻は依然、非合法だ。しかし、合法化に寛容な民主党が11月の選挙で大統領、議会の上下両院をおさえたことから、いずれ連邦レベルでも解禁になると見る向きは多い。実際、先の大統領選でバイデン氏の勝利が濃厚となった際には、株式市場で大麻関連企業の株価が大幅に上昇した。

ただ、バイデン氏は新型コロナ対策や、新型コロナの感染拡大で大幅に悪化した経済の立て直し、指名した閣僚候補の議会による承認などを、就任後の最優先課題に掲げている。上院によるトランプ大統領の弾劾裁判の行方も不透明で、かりに上院が弾劾裁判を進めることになると、すでに議会に提出済みの大麻関連法案も含めた他の法案の審議に、ますます手が回らなくなる。このため、連邦レベルでの早期解禁の観測は、後退している。

北米は「大麻大陸」へ

とはいえ、米社会の基本的な流れは合法化だ。ニューヨーク州以外にも、バージニア州やネブラスカ州など合法化に向けた議論が進んでいる州は多い。合法化は、当初は民主党の強い州に限られていたが、昨年11月の住民投票でサウスダコタ州とモンタナ州も解禁に踏み切るなど、合法化の波は共和党色の濃い州にも及んでいる。全国規模の世論調査でも、合法化を支持する声が反対派を上回っている。

また、商務省の国勢調査局は15日付の連邦官報で、同局が定期的に収集している経済データに、各州の大麻関連税収のデータを新たに加えると発表した。連邦政府が大麻の売買を事実上、容認していることを示すものだ。

北米では、カナダがすでに2018年に大麻を解禁しているが、メキシコも近く、大麻を合法化する法案が国会で可決される見通しだ。合法化の背景はそれぞれ異なるが、北米大陸は「大麻大陸」と化しつつある。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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