日本はこのままでは「選ばれない国」に あるレズビアン・カップルがカナダに移住したわけ

スキー場で休暇を楽しむ川村さん(左)とパートナーのルエーガーさん(川村さん提供)

2年前、日本からカナダに移り住んだ日本人とカナダ人のレズビアン・カップルがいる。普通の幸せな家庭を築くことを夢見ていたが、同性婚を認めていない日本で暮らす限り、夢はかなわないと悩んだ末の決断だった。実は、彼女たちと同じような悩みを抱える働き盛りの同性カップルは多い。識者らは、このままでは優秀な人材が次々と海外に流出し、日本の国際競争力にも影響を及ぼしかねないと、警告を発している。

「ビジョンが描けなかった」

「いつになったら法律で同性婚が認められるかわからないし、今のままだと、子どもができても、その子の親になれるかどうかもわからないなど、不安がたくさんあった。とにかく、将来のビジョンが描けないのが、一番の理由だった」。カナダのオンタリオ州トロント市で、カナダ人の同性パートナーと暮らす川村安紗子さんは、2018年8月にカナダに移り住んだ理由を、オンライン取材で、こう語った。

日本では、大手外資系コンサルティング会社で、シニアコンサルタントとして働いていた。そのかたわら、ボランティアで、LGBTなど性的マイノリティーの人権問題にも熱心に取り組み、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の「未来のLGBT+リーダー・トップ50人」に、2017年から2年連続で選出されたこともある。

ちなみに、同じくFTが選ぶ「LGBT+エグゼクティブ・トップ100人」の1位は、2017年がオーストラリア・カンタス航空のアラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)、2018年が米ダウ・ケミカルのジム・フィッタリングCEOで、ランキングには、世界的な企業のトップや幹部の名前がずらりと並んでいる。

一方、川村さんのパートナーのアデール・ルエーガーさんは、長年、日本で英語教師をしていた。もう少しで永住権が取れたというが、2人とも子どもが欲しかったため、30代という年齢的なことも考えて、ルエーガーさんの故郷カナダに移り住むことにした。日本で生まれ育った川村さんは、日本を離れることに不安もあったが、「それよりも、2人の将来を考えると、期待や楽しみのほうがはるかに大きかった」と振り返る。

同性でも配偶者

カナダでは法律で同性婚が認められているが、英国系の国に多い「コモンロー」(判例法)によっても、実質、結婚と同等の権利が得られる。コモンローも、同性、異性に関係なく適用されるため、結婚せずに「コモンロー・カップル」として暮らすカップルは、異性カップルも含めて多い。川村さんたちも、「今のところ特に不都合を感じないので」、コモンロー・カップルとして生活している。

コモンロー・カップルは、互いに配偶者として扱われる。このため、川村さんは、カナダ人であるルエーガーさんの配偶者として永住ビザを取ることができ、その結果、すんなりと移住ができた。現在は、大手コンサルティング会社のトロント・オフィスで、シニアコンサルタントとして働いている。ルエーガーさんは、フランス語を教える仕事に就いた。2人とも、努力して築いてきたキャリアと、同性婚を認める国の制度のおかげで、順調な再スタートを切ることができた。

川村さんは、性的マイノリティーに対する偏見の多い日本と比べると、カナダでの生活は「楽だし、楽しい」と語る。「日本では、役所の窓口から旅行の予約まで、いろいろな場面で、いちいち2人の関係性を説明しなければならず、説明しても通じない場合もあった。カナダでは性的マイノリティーは社会に完全に受け入れられているので、いちいち説明する必要はないし、周囲の目を気にすることもない」

経済的なメリットも多い。例えば、同性パートナーも配偶者と見なされるため、どちらか1人が医療保険に入っていれば、もう1人が被保険者となれる。実際、川村さんの会社の医療保険で、処方薬代など州の基礎保険ではカバーされない支出を、ルエーガーさんの分まで、カバーしているという。

広がり始めた法改正運動

川村さんたちのように実際に移住まで決断する例はそれほど多くはないが、かつての川村さんたちのように、同じ人間なのに性的指向が違うというだけで人並みの人生を送ることが許されないことに悩み苦しむ同性カップルは、日本には大勢いる。そうした同性カップルを含めた性的マイノリティーの人権を守るため、同性婚が可能となるよう法改正を目指す運動も広がり始めている。

11月には、一般社団法 Marriage For All Japanなど同性婚の実現に取り組む3団体が、同性婚の実現に賛同する企業を募り、賛同企業を応援するキャンペーン「Business for Marriage Equality」を立ち上げた。

3団体は、企業が同性婚への支持を表明することは、企業が社会的責任を果たすことを意味すると強調。同時に、企業イメージがアップすることによって企業価値の増大や優秀な人材の採用につながり、さらには、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)に記された「ジェンダーの平等」「不平等をなくす」の達成にも貢献すると指摘する。

3団体の狙いは、賛同企業を増やすことで法改正の気運を経済界にも広げ、法改正の早期実現につなげることにある。キャンペーン発足時時点で、すでに46社が賛同を表明。外資系が目立つが、パナソニックや富士通、資生堂など多くの日本企業も名を連ねる。

G7で認めていないのは日本だけ

同性婚を法律や判例で認める国は世界で急速に増えており、3団体によると、同性婚やそれに準ずるパートナーシップ制度が国レベルで整備されていないのは、主要7カ国(G7)の中では日本だけだ。経済協力開発機構(OECD)が今年公表した各国のLGBTに関する法制度の整備状況に関する報告書でも、日本は35カ国中、34位と、他の主要国に大きく後れをとっている。

同性婚の問題は第一義的には人権問題だが、放置すれば、企業の競争力、ひいては国としての競争力にも響いてくると、識者や関係者は警告する。

ゲイであることを公表しているパナソニックのローレンス・ベイツ取締役は、2年前、筆者とのインタビューで、次のように語っている。(以下、「ITmedia ビジネスオンライン」に掲載された記事より抜粋)

「少子高齢化が猛スピードで進む日本は、労働力不足が大きな問題となっています。企業が優秀な労働力を確保するためには、女性や障害者、性的マイノリティーなど多様な人たちが気持ちよく安心して働ける職場環境を作ることが大切です」

「彼ら彼女らは、自分がLGBTであることを知られたらどうしようと常に怯えながら働いています。(中略)そんなふうに怯えながら働いていれば当然、仕事の生産性は上がりません。もっと働きやすい職場を求めて転職したり、自分で会社を始めたりする人もいます。企業にとっては人材の損失になります」

こう語ったベイツさんは、「一番の問題は欧米の多くの国では認められている同性婚が認められていないことです」と述べ、自身の日本での体験を明かしながら、日本における同性婚制度の早期実現に期待を寄せた。

このままでは「選ばれない国」に

2018年9月、在日米国商工会議所(ACCJ)など5カ国の在日商工会議所は、「日本はLGBTカップルにも婚姻の権利を認めるべきだ」という内容の共同提言をした。

ACCJによれば、外国企業が自社のLGBT社員を日本に長期派遣しようとする際、社員のパートナーにビザが発給されず、派遣を断念することがある。長期派遣の対象となるのは替えの効かない幹部クラスや専門職が多く、外国企業にとって看過できない問題になっているという。

提言は、日本は今のままでは、海外の優秀な人材の獲得競争で後れをとり、かつ、国内の優秀な人材の海外流出を招き、その影響は国としての競争力にも及びかねないため、同性婚を認めることは日本にとっても利益になると強調している。

移動や通信手段が昔に比べて飛躍的に発達した現代は、外国に住む物理的、心理的なハードルが大きく下がり、どの会社、どの国でも通用する優秀な人材ほど、住みたい国を自由に選べる時代になった。このままだと日本は、「選ばれない国」になりかねない。