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トランプ氏、形勢逆転に失敗か?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

11月3日の米大統領選を前に、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領による最後のテレビ討論会が現地時間22日夜、テネシー州ナッシュビルで開かれた。両者が司会進行を無視して罵り合いカオス状態に陥った前回とは打って変わり、終始、抑制の効いた討論会となった。現地メディアの間では、「トランプ大統領のパフォーマンスは前回よりはるかによかったが、選挙戦での劣勢を覆すまでには至らなかった」との評価が目立つ。

「冷静で非常によかった」

討論会は、新型コロナウイルスや、対中政策、経済、移民、人種、気候変動など重要な政策について、司会者の質問に両候補が順番に答える形で進行した。

トランプ氏に近く、討論会のアドバイスもしたクリス・クリスティ元ニュー・ジャージー州知事は、討論会後にテレビ番組に出演し、「大統領は、今回は熱くなり過ぎずに有権者に冷静に政策を伝えることができたし、バイデン氏にも発言の機会を与えることができたので、非常によかった」と評価した。

白人保守層を意識した発言は変わらず

ただ、各課題や政策に関するトランプ氏の発言内容はこれまでとは大きく変わらず、支持基盤である白人保守層を意識したものが目立った。このため、激戦州を制するのに必要な共和党穏健派、都市郊外に住む無党派層、女性、マイノリティなどの票をバイデン氏から奪い返すまでには至らなかったとの評価が多い。

例えば、司会者から、自身の不法移民対策によって、多くの幼い子どもが親と生き別れになったことについて意見を求められたトランプ氏は、「子どもたちはコヨーテ(メキシコ人などを不法に米国に入国させる密輸業者)に連れて来られた」などと、事実に基づかない発言を繰り返したり、米国内にとどまる不法移民は「レイプ犯」「知能指数が低い」などと決めつけたりした。

人種差別問題について発言した時も、「私はこの部屋にいる人の中で、人種差別主義と最も無縁の人間だ」と述べるなど、トランプ節を貫いた。

「選挙情勢は変わらず」

また、それぞれ、大統領に再選、当選したら個別の課題についてどんな政策を打ち出すかと聞かれた時も、具体的な数字を入れて答えるバイデン氏に対し、トランプ氏の政策は抽象的なものが目立ち、説得力に欠ける印象もぬぐえなかった。

討論会場からリポートした3大ネットワークABCニュースのジョナサン・カール記者は、「これで選挙戦の情勢が変わるか? 私はそうは思わない」と述べ、バイデン氏有利の展開が続くとの見通しを示した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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