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「ロシアは米大統領選に介入するな」バイデン氏の疑惑巡り歴代CIA長官らが共同声明

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

米大統領選で、民主党の大統領候補バイデン氏と同氏の二男に対する「ウクライナ疑惑」が浮上する中、歴代の米中央情報局(CIA)長官ら50人以上の元米情報機関幹部が、ロシアによる米大統領選への介入を激しく非難する異例の共同声明を出した。

50人以上が署名

バイデン氏と二男のハンター・バイデン氏をめぐるウクライナ疑惑は、大衆紙のニューヨーク・ポストが14日に大々的に報じたが、情報源がトランプ氏の顧問弁護士であることなどから、直後から記事の信ぴょう性を指摘する声が主要メディアを中心に相次ぎ、「ロシアがトランプ大統領を勝たせるために裏で糸を引いているのではないか」との見方が広がっていた。

共同声明は、「ハンター・バイデン氏のメールに関する公式声明」というタイトルで、19日付。

声明に署名したのは、国家情報長官(DNI)を務めたジム・クラッパー氏、いずれも元CIA長官のマイク・ヘイデン氏、レオン・パネッタ氏、ジョン・ブレナン氏ら、元米情報機関幹部の51人。他に匿名の9人が、メッセージの内容に支持を表明したとしている。

「選挙結果を決めるのは米市民」

声明は、ロシアはこれまでも米国の安全保障や民主主義を弱体化させるべく様々な手段で政治に介入してきたと指摘。そして、ハンター・バイデン氏の疑惑に言及し、「トランプ大統領の顧問弁護士であるルドルフ・ジュリアーニ氏からニューヨーク・ポスト紙に提供された(ハンター・バイデン氏のものとされる)メールが本人のものかどうか、われわれには判断できないし、われわれはロシアの関与を示す証拠も持っていない。しかし、われわれは、経験から、今回のケースにロシアが重要な役割を果たしているという強い疑念を抱いている」と、ロシアの関与を断定している。

声明はまた、「選挙戦でトランプ氏の劣勢が続く中、モスクワには何としてでもトランプ氏に勝たせたいという動機がある」とし、それが、真偽の定かでないメールの公開につながったとしている。

有権者に対しては、「われわれの見方が正しければ、ロシアは今回の大統領選で有権者の投票行動に影響を及ぼそうとしており、有権者はそのことに気づくべきだと、われわれは強く信じている」「選挙結果を決めるのは米市民であり、外国の政府ではない」などと、冷静な判断をするよう訴えている。

報道の動機に憶測

バイデン親子の疑惑を報じたニューヨーク・ポスト紙の親会社は、主要メディアの中では唯一、トランプ氏寄りの報道を続けているフォックス・テレビの親会社でもあるニューズ・コーポレーション。同紙への情報提供には、ジュリアーニ氏に加え、トランプ大統領の元側近のスティーブ・バノン氏もかかわっている。このため、大統領選を控えたこの時期に記事を掲載した動機について、様々な憶測が飛び交っていた。

また、ワシントン・ポスト紙によると、米情報当局は以前から、ジュリアーニ氏がロシアの諜報機関によって情報操作されているとの強い懸念を抱き、国家安全保障問題担当のロバート・オブライエン大統領補佐官にも、そのことを伝えていたという。

さらに、ニューヨーク・タイムズ紙によると、記事を書いたニューヨーク・ポスト紙の記者は、自分の名前を記事に付けることを拒否したという。米国では、執筆した記事に記者の名前を付ける「署名記事」が普通だ。スクープ記事であればあるほど、それによってジャーナリストとしての名声を高めることができるからだ。にもかかわらず、署名を敢えて拒んだということは、記事が組織の上からの指示で書かれたものであり、書いた記者自身、持ち込まれた情報の信ぴょう性に強い疑念を抱いていた可能性を示唆するものだ。

最後の討論会で追及か?

トランプ大統領の選挙陣営は、22日に開かれるバイデン氏との最後のテレビ討論会で、外交問題を討論のテーマの1つとするよう、討論会の主催者に急きょ、要求したという。要求が受け入れられれば、トランプ氏がバイデン親子の疑惑について追及するのは間違いない。

ただ、今回の元CIA長官らによる共同声明で、逆に、バイデン疑惑はトランプ陣営による「でっち上げ疑惑」だったとの見方が広がる可能性もあり、仮に追及したとしても、形勢逆転につながるかどうかは不透明だ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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