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新型コロナで人気沸騰の高級蜂蜜から発がん性疑惑農薬

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:アフロ)

日本でも人気のニュージーランド産高級蜂蜜「マヌカハニー」から、発がん性が疑われ各国が使用禁止に動いている除草剤グリホサートの成分が検出されたことがわかった。

「食べる抗菌剤」

マヌカハニーは、ニュージーランドに自生するマヌカの花蜜を原料とし、強い抗菌作用を持つ化合物のメチルグリオキサールを豊富に含むことで知られる。ニュージーランドの先住民であるマオリが、風邪や様々な病気の治療にマヌカハニーを利用していたことでも有名だ。

こうした「食べる抗菌剤」のイメージからか、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた今年初め以降、世界的に需要が急増。ニュージーランド政府の最新の統計によると、今年5月のマヌカハニーを含む蜂蜜全体の輸出額は、前年同月比53%増となった。政府の担当者は「人々の健康意識が世界的に高まったことで、自然食への関心がより強まったのかもしれない」と分析する。

マヌカハニーの大口輸入国である日本でも、「新型コロナの感染が広がり始めてから、引き合いが強まっている」と、ニュージーランド産蜂蜜を扱う業者は明かす。

2割から検出

そのマヌカハニーからグリホサートの成分が検出されたと7月下旬に報じたのは、ニュージーランドの国有テレビ局TVNZ。情報源は、同国の第一次産業省がまとめた調査報告書で、報告書の中身はニュージーランド政府のサイトで閲覧可能だ。

調査は、精製前の蜂蜜と同国内で販売されている蜂蜜製品を対象に、2015~16年と2019年の2回にわたって行われた。

1回目の調査では、全国から集めた300サンプルの残留農薬を検査。その結果、全体の22%にあたる67サンプルからグリホサートを検出。そのうち5つのサンプルは、政府が定めた国内向けの残留基準の上限(0.1mg/kg)を超えていた。いずれも精製前の蜂蜜だった。

300サンプル中、マヌカハニーと、マヌカハニーが含まれていると見られるブレンド品は合わせて116サンプル。その16%にあたる19サンプルからグリホサートが検出された。残留基準を超えたものはなかった。

2回目の調査は、国内向けのマヌカハニーの製品に絞って行われ、全60サンプル中、18%にあたる11サンプルからグリホサートを検出した。残留基準を超えたものはなかった。

汚染源は農場や牧場

報告書は、蜂蜜からグリホサートが検出されたのは、グリホサートを使用している農場や牧場の近くに巣箱を置いたことが原因と指摘している。グリホサートが検出された蜂蜜の多くが、農場や牧場に植えられることの多い、クローバーや牧草用の草花の花蜜を原料としたものだったためだ。

マヌカハニーに関しても、グリホサートが検出された製品は、マヌカの花蜜に他の草花の花蜜が一定量混入した「マルチフローラル」と呼ばれるブレンド品に多かったことから、やはり農地に比較的近い場所に巣箱を置いた結果、ミツバチがグリホサートのかかったクローバーや牧草の花蜜を集めてしまったためと推測している。

ミツバチが蜜を集めるために飛び回る範囲は半径2~3kmと言われており、グリホサートが検出された蜂蜜は、農地から巣箱までの距離がこれ以内だった可能性が高い。

「安全」も、消費者の反応を懸念

現地の事情に詳しい日本の輸入業者によると、農薬汚染に敏感な養蜂業者は、ヘリコプターを使うなどして、農薬汚染の心配のない山奥に巣箱を設置するという。逆に、安全意識が比較的低い養蜂業者は、農薬汚染のリスクを承知で作業が楽な場所に巣箱を設置し、結果的にグリホサートが蜂蜜に混入してしまうという。

消費者の懸念が強まっていることから、自主的にグリホサートの残留検査を実施し、結果を公表する蜂蜜メーカーも増えている。

報告書は、市販の蜂蜜製品からは政府の残留基準を上回る量のグリホサートが検出されなかったことから、同国産の蜂蜜の安全性に問題はないと強調している。しかし、報告書は同時に、グリホサートが残留している蜂蜜に海外の消費者が拒否反応を示すリスクも指摘している。

欧米で禁止相次ぐ

グリホサートは世界で最も使用量の多い除草剤。しかし、2015年、世界保健機関(WHO)の外郭団体である国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対しておそらく発がん性がある」との結論を下し、危険度を示す5段階評価で2番目に高い「グループ2A」に分類したのを機に、使用を禁止したり規制したりする動きが急速に広がっている。

食品の安全に敏感な欧州では、フランスが昨年、グリホサートを有効成分とする一部除草剤の販売を禁止。ルクセンブルクは今年中にグリホサートを全面禁止にする予定で、ドイツも2023年末までに使用禁止にする計画だ。

規制の波は欧州以外にも広がっている。米ニューヨーク州議会は先月、公園や学校など州の所有地でのグリホサートの使用を禁止する法案を可決。メキシコのロペス・オブラドール大統領は今月12日、同国内でのグリホサート使用を今後、段階的に規制し、2024年までに一掃する方針を表明した。

米国では、グリホサートを有効成分とする除草剤を使用した結果、がんを発症したと主張する患者らが開発元の独バイエル社を相手取った1兆円規模の巨額訴訟も係争中だ。

学校給食のパンからも検出

最近は、発がん性に加え、哺乳類の生殖機能への影響や人の発達障害との関連を指摘した研究結果も報告されるなど、研究が進むにつれ安全性に対する疑念が一段と強まっている。

日本でも、グリホサートは農業や公園の除草、ガーデニングなど様々な場面で使用され、学校給食用のパンや国産大豆などからの検出も相次いでいる。しかし、政府による使用規制強化や禁止の動きは今のところなく、消費者の間で不安の声が高まっている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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