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新型コロナの重症化リスク、肥満要因が鮮明に

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
緊急治療室に運び込まれる新型コロナウイルス感染患者(ニューヨーク市))(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスの重症患者に肥満症患者が多いことが欧米各国の医療現場からの報告で次第に明らかになってきた。肥満症患者は普通の人に比べて免疫力が低いため、感染や重症化のリスクが高い可能性をもともと指摘されてきたが、データや治療に当たる医師らの証言で裏付けられた格好だ。肥満人口は世界的に増大しており、新型コロナの被害が各国で深刻化する一因となっている可能性もある。

重篤患者の3人に1人が糖尿病

新型コロナの感染者数、死者数ともに世界最多となった米国では、重症の新型コロナ患者と肥満とを結びつけるデータが相次いでいる。

政府の疾病対策センター(CDC)が基礎疾患の有無も含めた基礎疾患情報を確認できた新型コロナ感染者7162人(3月28日時点)のデータを分析したところ、最も多かった基礎疾患は糖尿病の784人で全体の10.9%だった。次に多かったのが慢性肺疾患の656人(9.2%)、3番目が心血管疾患の647人(9.0%)だった。

これを入院患者に絞ると数字は大きく跳ね上がる。新型コロナに感染して入院した1037人のうち、糖尿病は251人(24%)、慢性肺疾患は152人(15%)、心血管疾患は242人(23%)となり、比率は約1.6倍から2.6倍に上昇。集中治療室(ICU)に運び込まれた重篤な患者457人に限ると、比率はさらに高まり、糖尿病が148人(32%)、慢性肺疾患が94人(21%)、心血管疾患が132人(29%)となった。

因果関係が明白に

CDCは報告書で、「糖尿病や慢性肺疾患、心疾患などの基礎疾患を持った人は、そうでない人より、新型コロナで重症化するリスクが大きいように思われる」と結論づけている。糖尿病や心血管疾患は肥満が原因となる場合が多い。CDCは以前から新型コロナの感染で重症になりやすい要因の1つとして肥満を挙げているが、今回のデータで肥満と重症化の関連がより一層明白になった格好だ。

同様の傾向は州レベルでもはっきりと表れている。10日現在で新型コロナの死者数が全米で3番目に多い755人となったルイジアナ州は、州保健省の発表によると、死者の66.4%が高血圧症、43.5%が糖尿病、25.1%が慢性腎臓病、22.7%が心臓病を患っていた。すべて肥満と関係の深い病気だ。

ミネソタ大学感染症研究政策センターのマイケル・オスターホルム所長は数日前、地元のラジオ番組で「米国は肥満という米国特有の要因のために、すでに多くの犠牲者が出ている他の国より新型コロナの致死率が高まるだろう」と述べ、肥満と新型コロナ患者の重症化との因果関係を明確に指摘していた。その予言通りになりつつある。

英国でも

欧州でも、新型コロナ患者の重症化と肥満の因果関係を示すデータが出ている。

英国のICUの監査・調査機関であるICNARCは、英国各地のICU施設に運び込まれた新型コロナの感染者672人のBMI値を公表した。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った肥満指標で、世界保健機関(WHO)はBMI値25以上を「overweight」(太り気味)、30以上を「obesity」(肥満)と定義。40以上は「severe obesity」(深刻な肥満)などと呼ぶ場合が多い。

ICNARCによると、672人中、太り気味が231人(34.4%)、肥満が208人(31.0%)、深刻な肥満が45人(6.7%)となり、あわせて72%が肥満あるいは肥満傾向の患者であることがわかった。さらに、BMI値25未満の患者は33人が生きてICUを出ることができ死亡した24人を大きく上回ったが、BMI値40以上の深刻な肥満の患者では、逆に、生きてICUを出られたのは18人と、死亡した28人を大きく下回った。

英国の新型コロナの死者数は10日現在で9875人となり、欧州の中ではイタリア、スペイン、フランスに次ぐワースト4位。しかし、米ワシントン大学の研究チームは、英国の死者の増加ペースはすでに他国を上回っており、8月上旬には欧州最悪となる約6万6000人に達するとの予測結果を、7日に発表した。

肥満は「エピデミック」

米英に共通するのは、国民の高い肥満率だ。経済協力開発機構(OECD)の2017年の報告書によると、世界の主要国の中で肥満率(人口に占める肥満の人の割合)が最も高いのは米国で38.2%。2位メキシコの32.4%を大きく引き離している。そのメキシコも、新型コロナで死亡した最初の5人の患者のうち、4人が糖尿病患者だったとの報道がある。英国の肥満率は26.9%で6位。欧州の中ではハンガリーの30.0%に次いで高い。

ただ、肥満は米英など一部の国の問題ではなく、今やアジアやアフリカ諸国にも蔓延する世界的な現象だ。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の発生源となり多くの死者を出した中国は肥満人口が急増しており、絶対数で見れば世界最大の肥満大国になっている。世界保健機関(WHO)は肥満を世界的な「エピデミック」(流行)と表現し各国政府に対策強化を促している。

WHOによれば、世界の肥満人口は1975年に比べて約3倍に増えており、2016年時点の肥満人口は推定6億5000万人。増加の背景には高カロリー食の摂取や運動機会の少ないライフスタイルの広がりがあると指摘し、また、心疾患、糖尿病、筋骨格障害、子宮がん、乳がん、肝臓がんなど様々な病気の主要なリスク要因になると警告している。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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