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発がん性疑惑の人気除草剤 日本の汚染度は?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
グリホサートの世界汚染地図(フェデリコ・マギー准教授提供)

発がん性が疑われ、日本を除く多くの国や地域で規制強化が進む農薬「グリホサート」の「世界汚染地図」を、オーストラリアの研究者が作成した。グリホサートの散布による土壌汚染がどの地域でどれくらい進行しているかを5つのレベルに分けて示したもので、日本は、西日本で比較的、汚染レベルが高いことがわかった。食品を選ぶ際の参考になりそうだ。

危険度で色分け

地図を作成したのは、環境工学が専門のシドニー大学のフェデリコ・マギー准教授らのチーム。独自のデータベースと統計手法を用い、散布されたグリホサートと、その代謝物(散布後、化学変化を起こして生成された物質)のアミノメチルホスホン酸(AMPA)が、土壌中にどれくらい多く蓄積されているか、微生物によりどれくらい分解されたか、地下の帯水層にどれくらい流れ込んだかなどを計算し、散布された地域の汚染度を総合的に評価した。

その上で、世界の農耕地を、危険度(ハザード)が「高」、「中から高程度」、「低から中程度」、「低」、「危険なし」の5つに色分けした。最も広い面積を占めたのは、薄緑色の「低」で全世界の59%、次いで肌色の「低から中程度」の40%。オレンジ色の「中から高程度」は1%で、茶色の「高」は0.1%未満だった。緑色の「危険なし」はほぼゼロ。程度の差こそあれ、事実上、世界の農耕地のすべてがグリホサートに汚染されている実態が明らかとなった。

汚染が目立つ西日本

地域別に見ると、比較的危険度の高い「中から高程度」の農耕地が目立つのは、フランス、ドイツ、米国、ブラジル、中国、インドネシアなどの一部。日本は面積が小さいため、世界地図の上ではわかりにくいが、拡大して見ると、東日本は「低」が目立ち、西日本は「低から中程度」の地域が多い。富山県や兵庫県、広島県、福岡県の一部と見られる地域は、「中から高程度」の色になっている。

マギー准教授は、土壌汚染がほぼすべての農耕地に及んでいるのは、グリホサートやその代謝物であるAMPAが土壌の微生物によって分解されにくい特徴を持ち、自然環境の中に長期間、滞留するためと説明。「平均的な危険度は低いが、長期間におよぶ汚染が地球規模で起きている」とグリホサートの問題点を指摘する。

さらにマギー准教授は、「AMPAは、グリホサートに輪を掛けて分解されにくく、また、自然環境や生態系への長期的な影響もよくわかっていない」と述べ、「グリホサートによる環境汚染の拡大を防ぐため、世界が協力して共通の規制やルール作りに取り組むべきだ」と提言する。

欧米は減らす方向

グリホサートは雑草を効果的に枯らす除草剤として世界的に人気が高い。しかし、2015年、世界保健機関(WHO)のがん研究専門組織である国際がん研究機関(IARC)が、危険度を示す5段階評価で2番目に高い「グループ2A」(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類したことで、その危険性が広く認識されるようになり、各国で規制強化が進み始めた

欧州では、グリホサートによる土壌汚染が目立つフランスが2019年、グリホサートを有効成分とする一部製品の販売を禁止。同じく汚染度の高いドイツも、2023年末までにグリホサートを禁止することを決めている。米国でも、カリフォルニア州やニューヨーク州など、グリホサートの使用を禁止したり制限したりする自治体が増えている。

また米国では、グリホサートを長期間使い続けた結果、がんを発症したとして、開発企業の米モンサント(2018年に独バイエルが買収)を相手に損害賠償を求める裁判が相次いでいる。原告数は5万人近くに膨らみ、米メディアによれば、バイエルは現在、原告側弁護士と和解交渉を進めており、和解金の総額は1兆円前後になるともみられている。

日本もグリホサートの使用量が多いが、政府は今のところ規制強化や使用禁止には動いておらず、消費者の間からは禁止を望む声が高まっている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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