ゲノム食品解禁、笑うのは米企業? 

(提供:アフロ)

 動植物の遺伝子を意のままに操作し、自然界にはない特質を持たせた「ゲノム編集食品」の流通が今月、解禁になった。しかし、対象となる食品を厚生労働省に届け出た国内企業は今のところゼロ。一方、トランプ米大統領に近い米企業が年内にも届け出る見通しで、米国勢が先陣を切る可能性も高い。安全性を懸念する消費者が多いにもかかわらず政府が解禁を急いだのは、トランプ政権への忖度との見方があったが、そうした見方を裏付けることになりそうだ。

コスト低下で開発に拍車

 ゲノム食品は、遺伝子を操作する点では従来の遺伝子組み換え食品と同じ。だが、従来の技術では、意図した形質を発現させるのに何度も実験を繰り返さなければならず、成功は偶然性に頼るところが大きかった。これに対し、最新の遺伝子操作技術を駆使したゲノム編集は、標的とする遺伝子の位置を最初からほぼ正確にとらえることができる。このため、短期間、低コストでの商品化が可能になり、開発に拍車がかかった。

 しかし、まったく新しい技術を使っていることから、人が長期的に摂取した場合、どんな影響が出るかはわかっていない。米国は特に規制していないが、欧州連合(EU)は従来の遺伝子組み換え食品と同じものとして規制する方針だ。

 こうしたなか、厚労省は約1年前の昨年9月、ゲノム編集食品の規制のあり方に関する本格的な議論を始め、今年3月、従来の遺伝子組み換え食品のような特段の安全性審査はしないことを決めた。一方、消費者庁は6月、販売に際し「ゲノム編集食品」であることを消費者に知らせる必要はないとの結論を出した。厚労省はゲノム編集食品の開発企業に同省への届け出を求めているが、これも義務ではなく任意だ。結果的に、米国と足並みをそろえた格好だ。

米企業が届け出第1号?

 届け出があった場合、厚労省のサイトで情報が公開されることになっているが、現時点で「届出されたゲノム編集技術応用食品等」の欄は、空欄のまま。一方、日本経済新聞によると、米国の種子開発大手コルテバ・アグリサイエンスが、同社のゲノム編集トウモロコシを年内にも厚労省に届け出る見通しだ。このトウモロコシは菓子など加工食品の原料になるため、コルテバが届け出ても、店頭ではどの加工食品にそのトウモロコシが入っているのか、消費者はおそらく知らされない。

 コルテバは化学大手のダウ・ケミカルとデュポンの合併・再編で誕生した農業分野に特化したテクノロジー企業だが、米メディアによると、トランプ大統領に非常に近い企業だ。

 米国では、選挙で大統領が変わると省庁の幹部クラスが総入れ替えとなり、大統領に近い人物が各省庁に送り込まれるのが普通だ。リボルビング・ドア(回転ドア)とも呼ばれるこの仕組みは、企業や団体が時の大統領の政策に影響を及ぼす手段ともなっている。

 トランプ氏が2017年に大統領に就任してからは、コルテバに関係する人物が少なくとも3人、農務省に入った。まず、2017年10月、ダウに19年勤務しロビイストの経験もあるテッド・マッキニー氏が貿易担当の次官に就任。翌3月にはダウ、ダウ・デュポン、コルテバ時代を通じ、計29年同社に仕えたケン・アイズレー氏が、農産品の輸出促進を担う海外農務局のトップに任命された。

 さらに、今年1月には、コルテバとその前身企業に30年以上在籍したスコット・ハッチンス氏が、研究部門を率いる次官代理の職に就いた。ハッチンス氏は博士号も持つ農薬の専門家で、同氏が農務省に入れば農薬の規制緩和が進んで食の安全が脅かされるとの懸念から、環境団体が同氏の農務省入りを強く反対した経緯がある。

偶然ではない

 また、米メディアによると、コルテバは前身のダウ・デュポン時代、トランプ大統領の就任式に100万ドル(現在のレートで約1.06億円)を寄付。その見返りかどうかは不明だが、環境保護庁のプルイット長官(当時)は、就任早々、同庁の科学者が安全性に問題があるとの報告をまとめていた農薬「クロルピリホス」の使用禁止を見送ることを発表した。クロルピリホスは、ダウ・ケミカルが開発し米国で最も使用されている殺虫剤の一つだ。

 さらに、トランプ大統領は今年6月、大統領令を出してゲノム編集食品の開発と輸出に力を入れる方針を掲げた。これもコルテバなどバイオ企業にとって強烈な追い風となっている。こうして見ると、あくまで報道ベースではあるものの、コルテバがゲノム解禁を受けて真っ先に手を挙げたのは、まったくの偶然ではないようだ。

日本の消費者が犠牲に

 日本国内では、ゲノム解禁を控えた9月下旬、国会議事堂近くの衆議院第2議員会館内で、ゲノム編集食品の規制と表示義務化を求める消費者団体らが勉強会を開き、出席した厚労省、農林水産省、環境省、消費者庁の担当者に、ゲノム食品が安全だとする根拠や規制しない理由を問いただした。

 各省庁の担当者の、のらりくらりの受け答えに、消費者団体らに交じって参加した社会民主党の福島瑞穂参議院議員が、「説明を聞いてもまったく納得がいかない。厚労省はなぜ届け出を義務化しないのか。任意だったら誰も届け出ない。消費者は食品をスーパーで選ぶことができなくなる」と声を荒らげる場面もあった。

 説明の中で、厚労省の担当者は、米国からの圧力や米国への忖度で解禁したとの見方は完全否定した。だが、今回の規制なき解禁が、結果的に、福島議員らが指摘するように自国の消費者の「知る権利」を犠牲にし、トランプ大統領の意向や同氏の背後にいる米企業の利益にぴったり沿う形となったことは、否定できない事実だ。日本の官僚は、いったい誰のために働いているのだろうか。