職場でLGBTを生かす鍵は?

(写真:ロイター/アフロ)

性的マイノリティーLGBTが働きやすい職場づくりを目指す任意団体work with Pride(wwP)は、今年から、独自に作成した「PRIDE指標」に基づき、個別企業のLGBT施策を評価、優秀企業を表彰する事業を始める。狙いやポイントは何か。日本企業の課題はどこにあるのか。wwPで指標作成の責任者を務めた川村安紗子さんに聞いた。(聞き手はフリージャーナリストの猪瀬聖)

企業の底上げが目標

――指標を6月21日に公開し、評価を希望する企業の募集を始めましたが、企業の反応はどうですか。

「7月28日にPRIDE指標についての説明会を開くので、その説明を聞いてから応募しようと考えている企業が多いようです。初めての試みなので、企業も、自分たちの施策の中でどういったところが高く評価され、逆にどういったところがあまり評価されそうにないのか、ある程度の目星をつけてから応募したいと考えているのではないでしょうか」(注:説明会の参加申し込みは、定員に達したため、すでに締め切り)

――改めて、指標を作った狙いを教えてください。

「ここ数年、日本でもLGBT問題に対する世の中の関心が急速に高まり、LGBTという言葉自体もかなり浸透してきたかなと感じています。企業の間でも、LGBT社員に対する差別的な扱いを止めるなど、この問題に積極的に取り組み始める企業が目立ちます。しかし一方で、『LGBTって、テレビの中の話でしょ』とか『しょせん、外資系企業の間の話でしょ』と思い込んでいる企業も依然、多い。企業間の温度差が非常に大きいというのが現状です」

「wwPとしては、企業全体の底上げを目指しています。これから取り組みを始めたい、取り組みを強化したいと考えている企業にとってガイドライのようなものがあれば、意欲的な企業を支援できるのではないかと考え、指標を作ることにしました」

――LGBTが暮らしやすい社会を作るには、米国のように同性婚を認めるなど法改正が重要だと思いますが、あえて職場の問題から取り組み始めたのはなぜですか。

「wwP自体がもともとLGBTと職場をテーマに活動してきたということもありますが、会社は、多くの人にとって1日の中で最も長い時間を過ごすところです。ですから、誰もが会社では快適に過ごしたいと思っているはずです。ところが現状は、LBGTにとって会社は必ずしも快適に過ごせる場所にはなっていません。まずは身近な場所の現状を変えることが大切だと考えました」

「また、会社は働いて成果を出すところです。LGBTの人たちが職場の同僚と同様のパフォーマンスを発揮するためには、やはり職場環境をLGBTにとっても働きやすい環境に変えていかなければならないと考えました」

「企業は多くの人にとって身近な場所で、かつ社会的影響力も大きいので、まずは企業を変えるところから始めようというのが、この事業の趣旨です。社会全体をいきなり変えようとするのは、現実的ではありませんから」

川村安紗子さん
川村安紗子さん

24社が協力

――PRIDE指標は、具体的に誰がどうやって作ったのですか。

「wwPは、2012年から毎年秋に、企業のLGBTに対する理解を促すため、企業の人事担当者などを招いてセミナーを開いてきました。そうした中、セミナー以外にも何かできるのではないかという話がwwP内部から出て、指標づくりの検討が始まりました」

「昨年のセミナーの際に、指標を作る計画を公表し、一緒に指標づくりをしてくれる企業を募ったところ、24社が手を上げてくれました。その24社の人たちと共同で作り上げたのが、PRIDE指標です」

――指標の中身を見て非常に具体的かつ現実的な印象を受けましたが、企業の人事担当者という、いわば人事施策の専門家が指標づくりに参加していたからなのですね。

「そうですね。ただwwP内でも、ちょっと頑張れば達成可能な現実的なものにしようとの意識は、最初からありました。指標づくりをするにあたっては、米国や英国、オーストラリア、香港など、企業に対する評価制度をすでに導入している国や地域の事例を研究しましたが、やはり、欧米と比べると、日本はLGBT問題への取り組みが20年ぐらい遅れている印象です。欧米の基準をそのまま今の日本に導入すると、現実との差があり過ぎて、企業はどこから手を付ければよいかわからず困ってしまう。そうならないよう、PRIDE指標は、日本の事情に合わせ達成可能なものにしました」

「例えば、米国のNPOが実施している企業評価法は、非常に細かく厳しい採点基準を設け、企業に100点満点で点数を付けます。企業名も公表します。これに対し、私たちPRIDE指標の採点基準は、まだ始めたばかりということもあり、ある程度緩く設定しています。点数は5点満点。優秀企業は会社名を公表しますが、企業が望めば公表は控えます」

「ただし、基準が緩いといっても、一部の項目は少しだけハードルを高く設定し、企業のさらなる努力を促すような仕掛けも入れています」

――企業間で温度差がかなりあるということですが、温度差ができる原因はどこにあるのでしょうか。

「積極的に取り組んでいる企業には、いくつかの共通点があります。まず、旗振り役がいること。旗振り役はLGBT当事者でもアライ(ally=支援者)でも、どちらでもよいのですが、やる気があり、周りを上手く巻き込む能力のある人です。会社のトップである必要はありません」

「また、LGBT問題を人権問題と認識しているかどうかもポイントだと思います。LGBT問題はよくダイバーシティーの問題としてとらえられていますが、日本企業の場合は、人権問題としてとらえると、会社として取り組まなければならないという意識が強まり、取り組みが進むようです」

「一般には、LGBT問題への取り組みというと、外資系企業が積極的とのイメージもありますが、必ずしもそうとは言い切れません。実際、指標づくりに参加した24社の内訳をみると、日本企業の数のほうが勝っています」

――いくら指標に沿った立派な制度を作っても、その制度がきちんと機能したり、制度を気軽に利用できる文化がなかったりすると、絵に描いた餅で終わってしまいます。例えば過去によくあったのは、制度面だけの比較で「女性が働きやすい会社」のランキングを作ってしまい、実際にその会社で働く女性の多くが違和感を抱いたというケースです。PRIDE指標には、そうした懸念はありませんか。

「まさにそうした懸念を払しょくするため、PRIDE指標は、ハード面とソフト面の両方を評価できるデザインにしてあります。具体的には、5つの基本的な評価指標(http://www.workwithpride.jp/pride.html)のうち、Policy (行動宣言)と Development (人事制度・プログラム)の2つは、主に制度面の評価。他の3つの評価指標――Representation(当事者コミュニティ)、Inspiration (啓発活動)、Engagement (社会貢献・渉外活動)は、継続的に啓発活動をしているかどうか、管理職研修を実施しているかどうかなど、ソフト面に焦点を当てています。5つに指標すべてに合格しないと5点満点はとれません。満点をとるのはそう簡単なことではないと思います」

誰もが快適に働ける環境を

――最近は、企業で働く一般の人の間でも、LGBTであることをカミングアウトする人が増え、それがLGBTへの理解を促すことに一役買っている面もあります。やはり、当事者が声を上げることが必要なのでしょうか。

「確かにそういう面はあります。LGBTは昔からずっと、一定数、職場の中にいるのですが、周りはその存在に気付かないため、人ごとに感じ理解が進まない。テレビなどの影響を受けた偏見も、抱いたままです。するとLGBT本人もカミングアウトしにくい。カミングアウトしないから、周りの理解が進まない。まさに鶏と卵の関係です。そうした中、勇気を持ってカミングアウトする人が徐々に増えてきました。そうしたケースが増えれば、『なんだ、LGBTも普通の人じゃん』というふうに、LGBTに対する偏見が取り除かれ、職場も変わっていくと思います」

「ただし、これは強調しておきたいことですが、私たちはけっしてカミングアウトを勧めているわけではありません。これまでカミングアウトしてきた人たちは、たまたま、恵まれた職場環境だったという要因もあります。また、カミングアウトするかどうかは、極めてプライベートな話です。自分の中にとどめておきたいというLGBTも少なくありません。大事なのは、カミングアウトしたくてもできない人たちがカミングアウトできるよう、職場環境を整えることです。カミングアウトするかどうかは当人たちの選択。私たちは、そうした選択ができるようになる職場環境をつくることを目指しています」

「私たちは、LGBT個人の選択が認められる職場というのは、LGBTに限らず、女性や外国人、障害者、育児をしたい男性など、様々な属性の人たちにとって快適な職場なんじゃないかと思っています。今後、wwPの目指す理想の職場が広がっていけば、より多くの人たちが気持ちよく仕事のできる環境が生まれるのではないかと期待しています」