海賊版対策とソフトロー・アプローチ

文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)38p

 改正著作権法の今国会提出が見送られて、それでは「今年度の文化審議会著作権分科会での検討に基づく海賊版対策」は全て無くなったのかというとそうでもなく、実は一つだけ生き残っているのです。

 違法DLやリーチサイト等の論点に隠れて何となく忘れられた存在になりつつありますが、最近情報政策の文脈で活発に議論されるプラットフォーム政策との関わりでも重要な部分であり、忘れられてしまうのは非常に勿体ないと思っていました。報告書でいうと38-44p、「4.インターネット情報検索サービスへの対応について」。つまり海賊版対策のためにグーグル先生を規制するべきか、いわば「著作権版の忘れられる権利」を設けるべきか、というような論点です。本来的に僕、このあたりの問題対応と方法論をお手伝いするためにあそこに参加させて頂いたはずで、どこかで生存確認をさせて頂くのもお役目かと思いましたので、少し報告書からの抜粋をして個人的な理解に基づく解説を書かせて頂きます。

 

文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)38p~からの抜粋(強調筆者)

4.インターネット情報検索サービスへの対応について

(1)対応の必要性

 2.で述べた通り,インターネット情報検索サービスについては,サービスそのものは 中立的な目的で提供されているものの,利用者が特定の著作物のタイトルや海賊版に関連 するキーワードを入力することによって,侵害コンテンツのリンク情報を容易に取得させ る手段として機能しており,侵害コンテンツの拡散に相当程度寄与していると認められる。(...)インターネット上の海賊版による被害を軽減させるためには,インターネット情報検索サービスにおけるリンク情報の提供行為,とりわけリーチサイト や海賊版サイトのトップページについて,検索結果から表示されないようにする等によって,インターネット情報検索サービスを経路としたこれらのサイトへのアクセスを防止す るため,対応を行う必要性が認められる。

(...)

3 ソフトローなどによりまずは当事者間での解決を促すべきとの意見

(...)立法的対応をするかしないかだけではなくその間にあるオプションも検討すべきであり,例えば一定期間内に当事者が共同でアグリーメントを作ることとし,効果が出ているかを確認して効果が出ていなかったら具体的な立法を行う,ということを法制・基本問題小委員会として明示するといった方法や当事者の話合い のフォーラムに関することやアグリーメントをどのように作っていくかについて法制・基本問題小委員会で議論することも選択肢としてあり得るといった意見が示された。

(…)

(4)インターネット情報検索サービスへの対応の方向性について

ア.本課題の解決に資する対応の方法について

(…)本課題の解決に資する対応の方法についての検討を踏まえ,平成30年度第3回法制・基本問題小委員会において,以下のとおりの差し当たりの対応を示した。

・差し当たり,法制・基本問題小委員会としては,権利者団体及びインターネット情報検索サービス事業者に対し,速やかに協議の場を設定し,具体的な改善方策の検討に 着手することを求めるとともに,しかるべき時期にその検討状況の報告を求めること とする。具体的には,本課題(リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応)に関する検討の中間的なとりまとめを行う時期において,関係者から取組みの進捗状況の報告を求めたい。

・そして,法制・基本問題小委員会としては,その段階において,当事者間における取組みによって本課題の解決を図ることができるとの見通しが得られるかどうかを見極めた上で,立法的対応の検討を進める必要があるか否かについて判断を行うこととしたい。

 上記の法制・基本問題小委員会の対応を受けて,文化庁も交えて,グーグル合同会社・ コンテンツ海外流通促進機構(CODA)・出版広報センターの3者の間で,インターネット情報検索サービスにおける侵害コンテンツのリンク情報等の検索結果表示に関する取組みの進め方について協議が行われた。上記3者の間では,今後の進め方について概要以下の内容の合意がなされた。

(…)

 上記イ.のとおり,インターネット情報検索サービス事業者と権利者団体との間で本課題の早期解決に向けて定期的・継続的に協議を行う場を設けることについての合意がなさ れていること,既に海賊版サイトトップページの検索結果表示についての改善の取組みの検討がなされており当該取組みについての協議が今後も進められること,今後も実効的な防止方策について継続的に検討・協議を行っていく旨が示されていることを踏まえると,現時点においては,当事者間における取組みによって本課題の解決を適切に図ることができる可能性は十分にあるものと考えられる。

 そのため,本分科会としては,現時点において直ちに立法的対応の検討を進めることは せずに,まずは当事者間の取組みの状況を見守ることとし,協議が一定程度進捗した段階で進捗状況等の報告を受け,必要に応じ対応を検討していくことが適当であると考える。

 

 見る人が見ると一発で分かると思うのですが、いわゆるEU流の自主・共同規制アプローチ、あるいは「規制の影」に基づくソフトローの方法論(*)そのものです。それが関係者のご努力によって実際に対応が進んでいると。EUでいう勧告recommendationや政策文書communicationに基づく「非立法的(non-legislative)」アプローチなので、法改正legislationの有無とは関わりなく、この部分はちゃんと生きている。施策を進めることができる。誤解を避けるために付言すると僕自身はこの協議自体には直接関わっていないのですが、良い成果を心から願っています。

 

 今改めてこのことを考えると、反射的にEU情報政策に対する自分自身の理解も深まった気がします。日本より立法行為の難易度自体が非常に高いEUで、自主規制や共同規制アプローチが洗練される理由。何一つするにも独仏はじめ加盟国が色んなことを言ってくるEUでは、do-nothingとgovernment-regulationの間に色々な選択肢を作っておかなければ、実際問題政策形成がままならないという、切実な理由があるように思われてなりません。

 なるほどそれは、optimal-delayの探求というか、合意しない合意の知恵という側面もあるのでしょう。ステイクホルダーの流動性・多様性の拡大、あるいは空間的な意味でも合意形成自体の困難さが増していく中での、自主・共同規制をはじめとするソフトロー・アプローチの役割というのは、新しい光が当てられる必要があるような気がしています。

 いずれにせよ、最近色々なところで言っていますが、それらの戦略の全てを支えるのは、そうした自主・共同規制が本当に上手くいっているのかを継続的かつ専門的に検証する、monitoring体制の強化に他なりません。現代の情報政策全てに関わることであるので、やっぱりそれはEUプラットフォーム経済監視委員会や英国のDigital Authorityなりを参考にして頂くだけの価値があるように感じています。何しろ今後はモニタリングの対象が思いっきり外国だったり、アルゴリズムの挙動それ自体だったりするわけですから、どう横断的にモニタリングしていくのか、そのこと自体が大変重要な情報政策の課題であるように感じています。

 

 個人的には、今回生き残ったこれが、パンドラの箱の一番最後に残った希望、と表現したいですし、そうなってくれることを願っております。

 

(*)こちらの文書の脚注5で「‘Soft law’ instruments refers to co-regulation and self-regulation.」と書かれる通り、しばしばこれらは互換的に用いられます。

 

 

●当日追記:

 ところでついでに今考えると、リーチサイト規制についても、SNS等に関わる部分(SNS等のリーチサイト該当可能性については報告書25p等を参照)については本記事と同様のアプローチを用意しておく選択肢はあったように思います。これはリーチサイトのハードロー改正がああいうことになるとは誰も予想できなかったから仕方ないですが、、やはり欧州のように、規制無し・自主規制・共同規制・政府規制等からなる複数のオプションを最初から検討(規制影響評価)しておく価値を強く感じております。同じ一つの問題系の中においても、ここはハードロー前提で、ここはソフトロー度を強めに、というカスタマイズは全く成立するのですよね。むしろそういう「ソフトローが機能するプレイヤーとそうでないプレイヤーへの対応の区分け」もソフトローでは大変大事です。しかしそう考えると、今から、次の立法に合わせて考えるのも全く遅くないというか、むしろ必要なことであるとも言えそうです。少しよく具体的に考えて参ります。

 また本日聴講に伺っていたシンポジウムで、検索エンジンに関しては「法規制をするべき」という会場からのご意見もございましたが、これは「もし」本当にハードローでやろうとすると、これこそかなりちゃんとした検討が必要になります。なので本年度いまいまの対策としてできたのは、いずれにしても現実的にこの手段しかなかったのだと思っております。

 

 

 

 

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※ソフトロー・アプローチというのはあまり馴染みのない方も多いと思いますので、以下は文脈を補完するために、議事録からの関連発言抜粋コピペとなります(発言の著作権は譲渡していないはず?)。

第2回(2018年7月27日)

http://www.bunka.go.jp/…/bunkashing…/chosakuken/hoki/h30_02/

【生貝委員】ありがとうございます。今の森田委員の御意見とかなり関連する部分があるかと思うんですけれども,やはり僕自身,この解釈論としての著作権法というところというよりは,インターネットに関わる広く政策論というか,ルール形成を研究対象にしている中でも,やはり今様々な問題についてグローバルな自主規制で問題が平準的にもしある程度解決されているという事実があるのであれば,それはやはりインターネットのフラグメンテーションを避けるという意味からも,ある程度の尊重という部分は立法政策上,ある程度すべきという部分が殊この分野に関しては一つの向きとしては働くんだろうと思います。なのですけれども,しかし,やはりそこに,グローバルに共有されたルールの中に,日本という局面において運用の不十分がある,使いづらさがある,あるいは当然,日本独特の事情,漫画に関わる対応といったようなところを含めて問題があろうといったときに,やはり法としてのグーグルというのに全く口を出す方法がないというのは,これは恐らく望ましくはないといったときに,その継続的な是正の方法論というのをどのように図っていくかというのがやはり実質的な論点として大きいのかなと思います。ですので,今回の結論としても,やはり法を作る,あるいはdo-nothingという,1対ゼロというのではなくて,やはりその間にあるオプションというのも,これは複数考えた上で結論の議論というのは出していくべきではないか。これ,よく僕の分野ですと,ソフトローを用いた規制政策ということで,共同規制という表現で,これはヨーロッパのこのプラットフォーム政策の分野でも広く用いられているものでございますけれども,例えば著作権分野だけをとっても,今様々な意味で議論になっているデジタル単一市場のための著作権指令案,あれは13条のかなり議論があって,いわゆるコンテンツ検出技術というところに関して,権利者との協力によって,アグリーメントに基づいてYouTubeのようなプラットフォーム事業者が対策を行うということを,そして必要な情報を権利者の側にしっかり提供していくといったようなことも含めて法定するといったような,まさに法の関与が強いような共同規制のアプローチをとっていたり,あるいはグーグルさんが,特にもともとあれはイギリスでやられていたと思うんですけれども,Follow the Moneyのアプローチのような,政府の後押し,各国の規制当局の後押しを受けながら,やはりアグリーメント,自主規制ルールというものを共同で作って,そこにみんなでサインするというような方法もあるといったときに,恐らく4段階ぐらいの方法論が多分オプションとして考えられるんだろうといったときに,しかし,やはりこの分野は自主的に物事を解決してくださいというだけではなかなか進まないところ,ヨーロッパの方法論ですと,例えば3か月以内にアグリーメントを作る。そして,1年以内に効果がしっかり出ているかどうかというものを確認する。その効果が出ていなかったら新しい立法を行うということを,これ公式な立場として明示する。そういった時間と方法を区切っての対応というのが,やはり自主的な努力を促していくための立法政策的な方法論としては極めて重要であろうかと。日本でどうするかというと,例えばでありますけれども,例えばこういったような基本委員会の場所で,来年の何月までに問題が対応されていなければ,そのときは具体的な立法をしよう。それまでのまさに話し合い,フォーラムというか,アグリーメントをどのように作っていくのかといったような形の議論をするというのも一つのオプションとしては例えばあり得るのかと考えたところでございます。

 

第3回(2018年9月10日)

【生貝委員】ありがとうございます。今,お話がありましたように,事務局の方から41ページ以降おまとめ頂きましたとおり,ソフトローによる対応というのは一つの非常に重要な選択肢であろうかと思います。その上で,3点ほど。一般的に,このようなソフトローを用いた立法施策の方法論というものを考える上で,3点ほどコメントというか,言いたいところがありまして,一つは,前回森田委員からも御言及のあったところかと思いますが,今回,検索エンジン事業者というところと,それから権利者の側というところで,利害の一致というものが比較的見やすいところであり,であるが故にソフトローによるアグリーメントというものを期待できるという部分が確かにある。

しかし一方で,今回影響を与える範囲というのも,考えようによっては非常大きいところです。例えば,利用者をはじめとする第三者の利益といったようなものが,必ずしも反映される保証というのはここにあるわけではございません。それから,加えまして,こちらは表現の自由にも関わるところというものを,本来民主的なプロセスで定められるべき法といったようなものを,ある意味では,民間のプレーヤーに権限を委譲するといった側面もあろうというところ。当然当事者というのは検索エンジン事業者と,それから権利者というところが前提にはなりましょうけれども,そこに本小委員会の議論を適切に反映いただくという観点からも,例えば政府関係者であるとか,あるいは独立した第三者であるとか,そういったところが適切に関与することは求められてしかるべきなのかなといった点が一つでございます。

それから2点目といたしまして,例えば今回の差し当たりの対応という形でソフトローという対応を選択するに当たっても,一般論として,こちらも事務局が適切におまとめ頂いたことの繰り返しとなるのだと思いますけれども,これは例えばハードローによる立法,例えばトップページへの対応をどのように求めるかといったようなことについて,それを排除するわけでは全くないということ。もちろん自主規制でも自主的な対応によって問題が解決されるようであれば,その分立法事実というものが縮減しましょうし,あるいは今回そのような形でトライをしてやってみたところで,もし自主的な対応によってうまくいかないということであれば,それはハードローによるしかないのだということで,それは少なくとも部分的には立法事実というものが高まるところはございましょう。

ある意味では,正に今回お示しいただいているように,ある種,いってみれば立法の予見可能性というように申しますか,経済学的にいうと,そのようなコミットメントというものをある程度明確に示すことによって,当事者同士での問題解決というものを正しく促進するという機能が,適切な関与の仕方によってはあり得るだろうということです。

そして三つ目に,今回仮にここで提示された期間と方法に基づいて一定の対応がなされるとなったとして,一方で,引き続きそれはその場限りというわけではなく,そのソフトローによる対応というものが適切に機能しているのか,し続けているのかということは継続的にチェックをしていくことが必要というのは,どうしてもあろうところ。当面の期間というものが重要ではありましょうけれど,その後も含めたチェックと,そして関わり方というのが非常に重要になろうかと思います。

 

第7回(2018年12月7日)

【生貝委員】ありがとうございます。41ページ,42ページの部分に関してでございます。検索サービスに関わるこういった海賊版への対策につきまして,こういった当事者間での協議,一定の公の関わりを伴うソフトローでの対応の協議が進められているということは非常に望ましいことだというふうに存じました。

そしてこの中で,特に注の35のところで,やはり第三者の利益ですとか,表現の自由への適切な配慮ということについても追記いただいているところでございますけれども,このことは,やはり非常に情報流通のインフラとして機能している検索サービスの在り方というものに対して,ある一定の変化を及ぼそうといったようなところ,非常にやはり広く社会に与える影響というところも多いところとは存じますので,特に強くこだわるところではないのですが,やはりこういったプライベートなルールの在り方に対して,一定の透明性の在り方という観点から評価や理解をしていくということも重要なのかというふうに考えているところです。もちろん,商業的,技術的な観点からこういった協議の全てについて透明というものを求めるということは,これは逆に適切ではない部分もあるかというふうに存じますが,もし例えば35のところの,協議を行う当事者以外の第三者の利益の反映や透明性の確保,表現の自由への適切な配慮の観点からといったような形で,どういったような観点からこういった取組を見ていくのかということで,一言追加するということが例えばあり得るかと考えた次第です。