アーカイブサミット2016、あるいはナショナルデジタルアーカイブと呼ばれる概念について

デジタルアーカイブという分野が、情報政策の中でも大変重要になってきていますということは先日も書かせて頂きましたが、その分野の一大イベントである「アーカイブサミット2016」が6月3日に開催されましたので、ご報告と感想を少し書かせて頂きます。このイベント、もともとアーカイブ実務家・研究者の小さなグループとして勉強会や研究会をやっていたものが、だんだんと大きくなって年に1回「サミット」をやろうということになり、2015年1月に1回目が開催、今年は第2回になります。僕も運営お手伝いさせて頂いており、アーカイブに関わる多くの実務家・研究者、企業や政策担当者の方々にもご来場頂き、大変貴重な議論の機会になりました。

アーカイブサミット2016の動画アーカイブ

運営サイドの想定を上回る参加申込を頂き、全日参加は受付開始から2日間で満員御礼という状況だったのですが、急遽ニコニコ生放送で中継頂けることになり、なんと述べ3万人近くの方々にご視聴頂くことができました。このアーカイブという分野自体、世の中的にはまだまだ「渋い」分野だと思うのですが、社会的な関心の高まりを強く感じます。

当日の模様はニコ動のアーカイブ以外にもyoutubeでご視聴頂くことができまして、当日特別ゲストとしてご来場頂いた馳大臣からの冒頭ご挨拶、中山信弘先生の基調講演、吉見俊哉先生・福井健策先生・生貝の基調報告までの動画はこちら。僕は1時間17分くらいのところから、「ナショナルデジタルアーカイブ」と呼ばれる概念について、少しお話をさせて頂いています。動画が埋められるようなので埋めてみます。

平田オリザ先生、CCJPの野口祐子先生、青空文庫の大久保ゆうさんが登壇されたシンポジウムの動画はこちら。→「特別企画シンポジウム「著作権消滅。―社会資本としてのパブリックドメイン―」」

漫画家の赤松先生、写真著作権協会の瀬尾先生、ヤフー宮本さんが登壇された夜のシンポから、もと京大総長・国立国会図書館長の長尾真先生による閉会宣言までの動画はこちらです。最後には実行委員長の長尾先生から、来年のサミットは京都でやるとよいのでは、というお言葉も出ております。京都楽しみです。→「シンポジウム『アーカイブ資本論:「本当に使えるアーカイブ」を求めて』、閉会宣言【アーカイブサミット2016】」

ナショナルデジタルアーカイブという概念・試論

なお、僕が基調報告のところでお話した「めざすべきナショナルデジタルアーカイブの機能イメージ全体像」スライドは報告直前にウェブにULいたしました。「ナショナルデジタルアーカイブ」という概念についてまだ広く共有された明確な定義は存在しませんが、これまで関係各所と続けさせて頂いてきた議論を、僕なりに一旦試論的に具体像をまとめてみたという位置付けです。「公共政策、あるいは情報政策としてのデジタルアーカイブ」の一つの中核となるであろうこの概念、引き続き建設的かつ批判的に詰めて参りたいです。なおこのスライドでお話ししたようなことは、近く金沢21世紀美術館の研究紀要に掲載頂ける予定でして、公開されたらまたご案内させて頂きます。

そしてこのスライドの中でも紹介させて頂きましたが、サミット前日の6月2日には、知財本部で少しお手伝いさせて頂いている「デジタルアーカイブの連携に関する実務者協議会」の中間報告が公表されおり、発表内容と関連する内容が多く含まれています。日本のデジタルアーカイブにアクセスするための統合ポータル、メタデータやコンテンツのオープン化と利活用、そして日本における地方や分野ごとのデジタルアーカイブ連携・推進拠点になる「アグリゲーター」的なるものの実現に向けて、大変重要なことがたくさん書かれていますので、アーカイブご関係者のみなさまに限らず、情報政策全般にご関心のある方々にも、ぜひ広くご覧頂けると望ましいように思います。→「デジタルアーカイブの連携に関する実務者協議会 中間報告

同日には3月10日に開催された第3回協議会の議事概要も公開されてまして、テキストアーカイブの形になると謎の長文を掲載して頂いている部分がありますが、口頭ではいつものペース(早口なのです)でお話しておりますので、あんまり実際の時間はとっていないはず、です。

デジタルアーカイブと社会的課題の解決

さて、今年のサミット参加の成果といいますか、僕自身が学ばせて頂いたことというのはあまりにも多く、どこかの媒体で改めてまとめさせて頂ければと思いますが、どうしても今書いておきたい、自分的に非常に大きかった学びは、下記の2つでございました。

第一に、上記パブリックドメイン・シンポで平田オリザ先生が仰っていた、「デジタルアーカイブと格差問題や社会的包摂(ソーシャル・インクリュージョン)」の関係性です。文化資源へのアクセスや利活用を促進するデジタルアーカイブの拡大はきっと色々な面でそういう社会的課題の解決に資するはずですし、むしろそうでなければ、公共政策としての(ナショナル)デジタルアーカイブのようなものは成り立ちえないはずです。僕自身、2年ほど前の「なぜ、日本版ヨーロピアナが必要なのか?」という拙稿などでも書いている通り、もともとはそういうところへの関心からデジタルアーカイブの研究をはじめたはずが、今回の基調報告で触れることができなかったのは、当日の時間的制約という言い訳をさておいても痛恨と言わざるをえず、平田先生にはまったく頭が上がりません。これから先当面の僕自身の研究の焦点は、このあたりになりそうです。

上記基調報告のスライドでは、ナショナルデジタルアーカイブの条件として「1.それぞれの文化分野や地方が有する多様性・固有性・自律性・専門性を最大限に擁護し、強化すること」、「2.利用者の知的・創造的自由を最大限に拡大すること」、「3.文化の創出と蓄積の双方を接続し、智慧継承の媒介者としての役割を果たすこと」を挙げさせて頂きましたが、4番目の条件として、「4.格差や社会的排除といった、重要な社会的問題の解決に資するものであること」を加えさせて頂きたいと思います。

アーカイブの面白さを広く伝えること

第二に、動画は載っていませんが、パブリックドメイン・シンポ後のフォローアップ・ブレストで出席者から言及のあった、「パッション」あるいは「面白いこと」の重要性です。これは情報政策分野の研究者としても積年の課題なわけですが、(デジタル)アーカイブに関しても全くそうで、どうしても各分野の理論や実践の専門性が深まっていけばいくほど、一般的な意味での「面白い」ものではなくなり、その価値を専門分野外の人達に伝えるコストも(時には禁止的に)高くなります。むろん専門性は学問やアーカイブに関わる多様な専門分野にとって絶対的に重要なのですが、しかし我々は、広く社会、あるいはもっと若い世代にもその専門性の価値や面白さを伝えていかなければならない。それができないと、実践にせよ理論にせよ、専門性が深まるほどに深まる社会との溝が、実践や理論の専門性を再帰的に追い詰めていくことにすらなりかねない。専門性のサステナビリティのためにも、「決して我々がやってることは無味乾燥なものではなくて、すごく面白いのですよ」というパッションを伝えていくことが重要なのだと思います。このコラムでも、デジタルアーカイブを含む情報政策のさまざまな分野について、そういうことをお伝えしていけたらよいなと思っています。

他の情報政策分野、たとえばこれまでご紹介してきた著作権やプライバシーなどの分野は、経済的にも最低限必要な部分は今後も大きくなるので、いわば「面白さ」をそんなに意識しなくても、色々な意味で拡大は続くのだと思います。しかしそれ自体が「文化的」活動としての性質を強く持つデジタルアーカイブに関して、僕たちは「最低限必要な部分」さえ残れば良いとは思っていないはずです。おそらくデジタルアーカイブに必要な人材として、常に議論の中心になるデジタルライブラリアン・アーキヴィスト・キュレーター、そして技術者や法律家に加えて、サイエンス・コミュニケーターならぬアーカイブ・コミュニケーターという存在を考える必要があるのだと思います。これはデジタルアーカイブを支える「人材育成」それ自体にとっても重要なところで、「その分野に人材が集まるか、育つかどうか」の要素は、極論すれば「お金になる=生活できる」ことと、「面白い」ことの二つしかないはずです。どう頑張ってもアーカイブ分野は(少なくとも平均的水準を超えた意味で)お金はあんまり期待できないわけですから、面白さの面を真剣に考える必要性は、その分だけ相対的に高くなります。

畢竟ナショナルデジタルアーカイブの5番目の条件として、「5.アーカイブの持つ専門的価値や面白さを、広く社会や次の世代に伝える役割を果たすこと」を加えなければならないということを学んだ次第です。

、、このような雑駁な記事の最後に恐縮ですが、今回ご来場・ご視聴頂いた皆様、ご登壇頂いた皆様、そしていつもボランティアで多大な尽力をされている運営サイドのみなさま、貴重な勉強の機会を本当にありがとうございました。おそらく「ナショナル」以前のデジタルアーカイブという言葉の意味自体、こうした様々な言説の積み重ねの中で徐々に明らかにしていかなければなりませんところ、引き続きこうした機会を頂ければ大変幸いです。ひとりの社会科学者として、少しでも現実のお役に立つことができますよう、一生懸命研究を深めて参りたいと思います。そして何より、僕自身含めてこの分野、おそらくは社会的な価値という以上に「面白いから」取り組んでいる部分が大きいと思いますので、これからもこの分野、さらに「面白く」、して参りましょうー。