データポータビリティの権利について

Martin Schulz, Photo by European Union.

 ここのところだいぶご無沙汰してしまっておりましたが、だんだんと再開していこうと思います。先般日本の個人情報保護法の改正がひとまず行われて、そしてEU一般データ保護規則案もそろそろ最終結論だということで、またプライバシー・パーソナルデータ関連面白くなってきています。しばらく盛り上がってる忘れられる権利関連はなんだかここでは書きづらい気もするのですがそれはさておき(そのうち書きます)、EU規則では含まれることになりながら、日本の改正法では未着手になっている将来課題も満載なので、そろそろそういうことも考えたい頃合いです。

 積み残された課題の中で個人的にもっとも関心が強いのが、EU一般データ保護規則では18条に含まれることになっている、「データポータビリティの権利(The Right to Data Portability)」です。端的には「個人が事業者等に提供した個人情報は、本人が扱いやすい電子的形式で取り戻したり、他の事業者(プラットフォーム)に移して乗り換えることを可能にする権利を設けよう」という話です。

 技術的側面などお話ししだすとすごく長くなるので、ここではそれについて取り扱った報告書がひとつ公開されたのをご紹介です。産業競争力懇談会(http://www.cocn.jp)というところの「IoT 時代におけるプライバシーとイノベーションの両立」プロジェクト。東大産学連携本部でやっていた「集めないビッグデータコンソーシアム」の続編的な位置付けでもあります。NECさんリーダーに日本の伝統的大企業(主に技術系・ビジネス系)の方々との膝を詰めての議論、とても楽しかったです。

http://www.cocn.jp/thema84-L.pdf

 上の報告書はざっと読むには長い+かなりのマルチディシプリンなのですが、僕なりにこれを要約したようなお喋りを最近あっちこっちでやらせて頂いてますので、ご参考まで先週に日経ビッグデータというところでお話したスライドを。20人くらいのクローズド会議だったのですが、企業側も政府側も参加者すごい豪華で楽しかったです。代理機関構想がどうなるのかは僕に聞かないでください涙、とは言いながらいろいろ言いたいこともあって盛り上がりました。本題はそこではないですが。

http://ikegai.jp/nikkeiBD_ikegai160317.pdf

 データポータビリティとPDS(Personal Data Store)。発想は上のスライド見て頂ければシンプルな問題だと思うのですが、もちろん実現に向けた課題も山積みです。1月末に行ってきた下記のCPDP2016@ブリュッセルでもポータビリティをテーマにしたセッションは小会場ながら盛り上がっていて、ストラスクライドに移ったLillian Edwardsがモデレータ、会場からはオックスフォードのIan Brownがガンガン発言していて、やっぱり我々はこれが気になりますよね感満載。

http://www.cpdpconferences.org

 マイクロソフトからは標準化の担当者、米国からは競争政策の関係者がいらしていたようで、やはり標準化政策との連携や競争当局とプライバシー・コミッショナーの連携のあり方などが焦点だと認識されているようです。むろん反対意見としては競争法でやればいんじゃない?というかイヤ競争法で勘弁してよという辺りが議論の中核です。スタートアップの負担という論点もよく言及されますが、それは運用や規則レベルのさじ加減だという認識です。ちなみにEdwardsの論点紹介スライドではアマゾンがたくさん例に挙げられていて、例えばレビュー情報はポータビリティの対象にすべきかなど。あちらではもちろんこれも文化の問題でもあります。

 僕のスライドの中でも欧州議会議長Martin Schulzの講演はパンチが強いので紹介してますが、別に面白がって紹介してるだけでもないです。Schulzのいう「自身のデータに対する個々人の所有権を強化すること」がEUプライバシー法制度改革の眼目なのだとしたら、それを実現するツールの中核は一般データ保護規則案でいえば忘れられる権利でもなくプロファイリングでもなく、この「データポータビリティの権利」に他ならないと理解してよいでしょう。

 そろそろEDPBに看板替えすることになる29条作業部会も、2016年のプライオリティとしてデータポータビリティ権のガイダンス作りを挙げているようです。水面下含めいろいろ紆余曲折は想像されますが、まずはどの辺りから取り掛かるのか。

http://www.bna.com/eu-regulation-breach-n57982067649/

 あとデータポータビリティに関してはデジタル単一市場政策における「コンテンツのポータビリティ」、これは主に著作権の方の問題になりますが、これとパーソナルデータのポータビリティの不可分性というのも議論になり始めているようです。今はコンテンツだってパーソナルデータとセットじゃなきゃ意味がなくなりつつあったりもします。競争法とプライバシーだけでなく、プライバシーと著作権の学際領域という意味でも面白くなりそうです。データポータビリティの権利。

#ところでトップの写真は欧州議会のホームページ、CPDP2016の欧州議会議長講演全文「Keynote speech at #CPDP2016 on Technological, Totalitarianism, Politics and Democracy」が載ってるページからの「引用」です。そもそも日本法32条の要件は満たすと思いますが、EUのホームページ素材は相当程度再利用可能のようです。この講演自体ものすごく面白いので時間があれば読んで頂きたいのですが、そのうちすこし詳しくご紹介もできたらと思っています。