情報政策としての書籍「自炊代行」問題(今日6/10の19:30からニコ生です)

By K.Louie http://flic.kr/p/eaGPCC

さて今日からさっそく日米欧の情報政策に関わる「最新の話題」に入らせて頂きますが、まずはシンポジウムのご紹介がてら、今日本でとても大きな話題になっている、「書籍の電子化(自炊)」について少し触れさせて頂きます。シンポジウムは下記ご案内の通り今日6月10日19:30からニコ生なのですが、2時間の枠で荘厳な登壇者が多くいらっしゃいますなか詳しいお話は厳しいと思いますので、この難しい問題、誤解を避けるためにも(笑)少し先出しで簡単な解説+「情報政策研究者としての僕自身のポジション」を書かせて頂きます(ちなみにこのURLにある通り、6/1付けで僕はこの「デジタルアーカイブ研究所」の「所長」になっているのですけれど、さすがに僕自身にこれだけの面子を集められる神通力はなく、僕は実質的にいち登壇者です、本当に笑)。

シンポジウム『蔵書電子化(自炊)を考える -健全な市場形成は可能か-』

1、まず第一に、この問題僕自身ずっと興味を持って見てきたのですが、いわゆる書籍電子化(自炊)の「代行」については、著作権法30条の「私的使用のための複製」に該当するのはどうしても難しいと思っています。いわゆる私的複製は、基本的にそれを利用する本人が複製行為をすることで初めて適用される権利制限規程なので、業者さんに依頼したりするとどうしてもこの規程は使えません。これには色々な意見があるところだとは思いますが、少なくとも今の法律には「そのように裁判所が解釈しそうに」書いてあるので、法律をちゃんと守ってこのビジネスを進めていくのであれば、ちゃんと著作権者さまからの「許諾」を頂くことが前提として必要になります。

2、とはいっても、この「自炊代行」というのは本好きの人たちにはとても便利ですよね。僕たち研究者は月に10万円以上本を買うことも少なくないので(特に若手は本代のためであれば食費だって削ります!)、すぐに家の中が本で一杯になってしまいます。実際僕も家の本棚キャパシティは10年くらい前に超えてしまって、大体常時ベッドの半分くらいは本が積まれています。そうすると何が困るかというと、これ以上本が買えなくなってしまう。かといって捨てるわけにもいかないし、自分でスキャンするのも簡単じゃないので、「代行」のニーズがあるのはよく理解できます(でも上記の著作権法の理由もあって僕はまだ使ったことないです)。「最近増えてる電子版に買い替えればいいじゃん」というのも確かにそうなんですが、ほとんど全ページに引きまくったアンダーラインをどうするかという問題もあります。

3、プラス僕はまだ目がよく見えるんですが(視力0.1以下のため常時コンタクトですが)、これから先何かの拍子で「目が見えなくなってしまった」ときに、電子化してテキスト化までできると、最近は機械が音声で読み上げられるので、それでも読書ができます。特に今日のシンポにも登壇される静岡大学の石川准先生(全盲の天才社会学者さんです)や東洋大の松原聡先生たちが研究されているような、視覚障害者の方々の読書、ひいては情報社会の「アクセシビリティ」の向上にとっては、非常にお金とコストがかかる点字を使わなくても本が読めるというメリットは非常に大きいです。これはむしろ、政府が音頭をとって「情報政策」として進めていくべき性質のものだと考えています。

4、こういった中で、すでに最近ニュースになっているように、著作権者の方々が「蔵書電子化事業連絡協議会(Myブック変換協議会)」を立ち上げて、さらに自炊事業者の方々が「日本蔵書電子化事業者協会」を立ち上げて、「ちゃんと著作権者の許諾を取った形での自炊代行ビジネス」を進めるための協議を進めていることは、とても素晴らしいことだと考えています。一冊・一回あたり何十円かを権利者さんに還元することも考えておられるみたいですね。権利者さん一人一人から個別に許諾を得るのは大変ですが(僕も何冊か本書いてますが、色々な自炊代行事業者さんから許諾確認メールが送られてきたら対応し切れません汗)、こういう形で「この団体に参加している権利者さんは、こういう条件で自炊代行許諾してますよ」と決めることができれば、合法的な書籍電子化を進めることは非常にやりやすくなるはずです。音楽分野なんかでは、JASRACさんとかをはじめこうした「集中権利管理団体」の活動が非常に活発に進められていますね。

5、ただひとつだけ僕自身、上記のような「集中権利管理」の議論の進展で気がかりなのは、著作権者さんと自炊代行事業者さんの間では話が進められているものの、そこに本を作る「出版社」さんたちがあまり関与されていないように見えることです(僕自身この辺の交渉の詳しいところは存じないので、もしかすると偉い人たち同士ではちゃんと話が進んでるのかもしれませんが、、)。少なくとも現時点では「出版社」さんは基本的に本の内容について著作権等の権利を持っていないので、「法律的」には上記のようなやり方で大丈夫かもしれません。けれど本を読む人も書く人もよくご存知の通り、出版社さんたち、そして編集者さんの人たちは、その「本を作る」ことに対して非常に大きな貢献をされていますよね。僕自身これまで書いてきた本も、出版者さんや編集者さんたちなしには絶対に完成しなかったものばかりです。これからインターネットによって「出版」という業態も大きく変わってくるのは間違いないですけれど、それでもやはり、出版社さん、編集者さんという方々は、僕たちの読書にとって欠かせないプレイヤーであり続けるはずです。

6、まだ本コラムではきちんとご紹介できていませんが、僕が専門としている「共同規制(co-regulation)」という概念は、ひとことで言えば「環境の変化で新しいルールが必要になったときに、国家にルール作りをお任せするんじゃなく、産業界や消費者の側が自主的にルールを作り、それを政府に支援してもらう」というルール形成の手法を指します(簡易な説明についてはこちらの記事などをご覧ください)。そしてその「産業界や消費者の側が自主的にルールを作」るプロセスは、「マルチステイクホルダー」、つまりそのルールに影響を受ける多様な関係者=ステイクホルダーの話し合いによらなければいけないというのが大原則です。そこには企業や権利者さん、消費者の他、「必ずしも法律的な権利を持っていないけれど重要な貢献をしている人たち(=ここでは出版社さんや編集者さんですね)」も、当然に含まれます。今回「自炊代行」という難しい問題について関係者が採ろうとしている方法は、まさにこの「共同規制」に他なりません(だから僕がシンポに呼ばれました汗)。しかるべきマルチステイクホルダーのプロセスによって、必ずしも法律に頼ることのない「合法な書籍の電子化」が可能になって、また沢山本を買えるようになるといいなあ、、というのが、僕の考えです。

以上、「簡単に僕自身のポジションを」といった割には少し長くなりました。今日のシンポは2時間で終わっちゃいますが、この議論はまた長い時間をかけて色々なところで進められていくはずなので、「情報政策」の重要な問題として、ぜひ引き続き要チェック!、です。