アメリカとEUの情報政策の違い(基本編)

By K.Hutchinson http://flic.kr/p/bZQq

前回の記事で、このコラムでは「アメリカとEUの情報政策を日本と比較します」と書きましたが、具体的な内容に入る前にすこし、その前提となる「アメリカとEUの情報政策の違い」について簡単にご説明させて頂きたいと思います。インターネットに関わるプライバシーや著作権といった同じ政策問題を扱っているのに、その法律や政策には国によって少し、あるいは相当程度大きな違いというのがあったりします。そうした異なる情報政策同士を「比較」するということは、外国の法制度を単に「知る」こと以上に、どういう社会的背景や経済状況の下では、どういう情報政策が機能するのか(あるいは機能しないのか、そもそも不可能なのか)ということに対して、とても重要な知見を提供してくれます。

まず前提として、アメリカとEUの情報政策を知るためには、その全体的な公的機関の構造を復習しておく必要があります。アメリカというのは国としてはひとつのUnited States of America=U.S.A.として機能していますが、その構造は基本的にカリフォルニア州やニューヨーク州といった50の「州(state)」の連合体です(+ワシントンDC)。みんなで共通して政策を作ったりした方が何かと便利なため、東海岸のワシントンDCに置かれた「連邦政府」がアメリカ全体に適用される法律や政策を作っていますが、連邦政府ができることは合衆国憲法(「修正」と付かない方)に規定された事項に限られます。

この合衆国憲法の中でも情報政策にとって重要なのが、1編8節3項に書かれているいわゆる「州際通商条項」、州を跨いだ取引については基本的に連邦政府が管轄するという規定です。インターネットはどうしても州を跨いでしまうためこれに基づいて連邦政府が米国のインターネット全体に適用される多くの法律や政策を作っているのですが、それでもプライバシーやセキュリティ、刑法などの領域では今でも各州の法律が重要な役割を果たしています。

重要な法律は沢山あるのでここでは省きますが、ぜひ押さえておきたい行政機関としては通信政策全般を所管するFCC(Federal Communication Commission、連邦通信委員会)、プライバシーを含む消費者保護行政や競争法の一部を所管するFTC(Federal Trade Commission、連邦取引委員会)を挙げることができて、これらは日本でいうところの公正取引委員会に近い「独立行政機関」というもので、政治からは距離を置いて独自にその権限を行使できる工夫がされています。あとは商務省の中にあるNTIA(National Telecommunications and Information Administration、米国電気通信情報庁)がいわゆる国際的なインターネット・ガバナンス(ドメインネームのICANNや国連のネット関連会議など)で重要な役割を果たしているため頻出組織です。

一方でEU(European Union、欧州連合)は、2013年現在27カ国で構成される欧州諸国の比較的緩やかな連合体でして、アメリカのようにEU自体が主権国家としての機能を持っているわけではありません。ただこちらもみんなで共通で政策を作ったりした方が便利なので、EU全体に共通する法律を作ろうということが合意できた場合には、「指令(Directive)」や「規則(Regulation)」といった「EU法」を採択し、加盟国はそれに従う必要があります。他にもEU法にはいくつかの種類がありますが、「規則」は発効した途端にEU政府や市民に直接適用されるものである一方、「指令」というのは、EUが定めた指令を反映する形で各国政府が国内法を作ったり改正したりして初めて効力を持ちます。

ときどきまじめに指令に基づいた国内法を作らない国がいたりして、EUに怒られたりもします。ネット分野だとアメリカとの仲の良いイギリスが、フランスやドイツ主導で作られたルールに反発することが多い印象。いわゆる「ヨーロッパ」の国全部がEUに加盟しているわけではなく、スイスやノルウェーなどは未加盟なことにも注意が必要です。EUの主な組織としては加盟国のトップによって構成される「欧州理事会」、日本でいう国会にあたる「欧州議会」、裁判所にあたる「欧州連合司法裁判所」、そしていわゆる政府(霞ケ関)にあたる「欧州委員会」がありますが、なんだかんだ政策分野ではやっぱり欧州委員会が一番頻出です。

欧州委員会の中にもいわゆる省庁みたいな「総局」が沢山あって、情報政策に関わりの深いところでは「通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局」「司法総局」「保健・消費者保護総局」あたりでしょうか。「通信ネットワーク~」は最近まで「情報社会メディア総局」で、日本の省庁みたく時々名前が変わるので注意です。

ざっくり比較しますと、アメリカは州同士の「強固な連合体」で、EUは国同士の「緩やかな」連合体。それぞれの法律は、連邦政府やEUが作る事もあるけれど、各州や各国が作る事もあるわけです。こうした基本的な背景を押さえておかないと、「EUが法律を作っていないから、ヨーロッパにはサイバーセキュリティの法律が存在しない!(国ごとにあったりします)」というような誤解をしてしまったりするんですね。なのでEUでウェブサービスを提供したりしたい人は、本当は英語で書かれたイギリスの法律の他にも、ドイツ語のドイツ法やフランス語のフランス法やイタリア語のイタリア法を理解して、各国の公的機関の構造を理解したりしないと、、本当はいけないんですね(これは後述しますが、実際には2000年の「電子商取引指令」などでEU域内の「発信国主義」の原則が定められたりして、もう少しわかり易くはなっています)。

、、、と、本当はプライバシーや著作権など各論の違いのお話にも入りたかったんですが、これだけで結構長くなってしまったので「各論編」を別の記事に分けることにしました(汗)。それではまた、あらためまして。