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ポテサラ100gが55円 スーパーとドラックストア、低価格路線で熾烈な戦いに

池田恵里フードジャーナリスト
ヤオコーの新業態「フーコッド」(筆者撮影)

低価格化へ ディスカウントスーパー 歴史は繰り返される

2021年は、コロナ禍で先行きが不透明のなか、食品スーパーも従来の売り方で良いのか、模索し始めた。この30年を見ると、日本人の年収は増えることなく、物価が上がっていることから、実質、賃金上昇率はマイナスとなっている。その為、スーパー各社は、これまでの全商品における惣菜の構成比もさることながら、新しい一つの流れとして、ディスカウントスーパーという新しいスーパーを出店し始めたのが2021年である。

ヤオコーが手掛けるディスカウントストア「フーコット」

ヤオコーは、埼玉県を中心に首都圏にも出店し、関東圏におけるスーパーのなかで最優良企業と言われ、32期連続増収増益で全国のスーパー各社は、ヤオコーの動向に注目している。

そのヤオコーがEDLP(Every Day,Low Price)の新業態「フーコット」を2021年8月3日にオープンさせた。1号店の出店先は、西武鉄道池袋線「飯能駅」。正直言って、都心から非常に遠く、都心からゆうに2時間はかかる立地である。

周辺には隣接する形でドラッグストアの「マツモトキヨシ」があり、時代を象徴している立地とも言える。売完全子会社化したEDLPとカイゼンを強みとする「AVE」の売り場を基に、「フーコット」は作られている。惣菜商品は、それほど力んでいるような印象はない。実際、関係筋から聞くと「惣菜に力をあまり入れていない」と言った声も聞かれた。

しかし比較されやすい商品は、徹底した価格戦略がとられている。

牛カルビ焼肉重298円321.84円(筆者撮影)
牛カルビ焼肉重298円321.84円(筆者撮影)

今や不動の人気を誇る牛カルビ焼肉弁当。多くは498円前後、もしくは500円以上の設定が多い。それを298円というこの商品としては破格の価格で打ち出している。

イオンが手掛ける新業態ディスカウント「Palette!」

イオンが手掛ける新業態「Palette!」(筆者撮影)
イオンが手掛ける新業態「Palette!」(筆者撮影)

「Palette!」は、イオンが手掛ける新業態ディスカウントストアで2月5日に開店した。近隣にはドラッグストアのツルハ、そしていなげやがあり、ここでもドラッグストアとのしのぎを削っている。

惣菜は外注である。

「鶏めし弁当 198円」(筆者撮影)
「鶏めし弁当 198円」(筆者撮影)

ドラッグストアの台頭

勿論、景気の不透明さからこのような新業態が出現している。

しかしそれだけではない。

ドラッグストアの台頭である。

2020年-2021年のドラッグストア業界の業界規模(主要対象企業25社の売上高の合計)は7兆5,439億円。

ドラッグストアが食品分野に参入 中食においても大きな変革期に突入か?

進化するドラッグストアの「食品売り場」 コロナ禍でも売上堅調な背景は

今やドラッグストアは食品の構成比率は全体の3割を占め、さながらスーパーのようだ。

そして惣菜も陳列しているのだ。これらはすべて外注、もしくは自社のセントラルキッチンでの製造になっている。

店舗内の負担軽減による低価格化、長期的に見て支持されるのか

ディスカウントスーパーもセントラルキッチンへの移行、もしくは外注することで店舗にとって負荷は少なくなる。

そして大量に製造することでスケールメリットで原価を下げることが出来るのだ。

しかし同じやり方だとドラッグストアとの差別化ができにくく、リピートにもつながりにくくなる。リピートについては最後で述べよう。

そして、これは過去にもよく似た現象が起こっているのだ。それが2008年のリーマンショック後の2009年低価格弁当競争である。

2009年に起こった低価格弁当競争勃発!

2009年にスーパーで298円の低価格弁当が陳列されるようになった。

2008年秋にリーマンショックが起こり、これにより翌年の2009年の日本人の年収は大幅ダウンし、平均年収が430万円から409万円に下がった。

景気が悪くなったということで、大手スーパーは低価格弁当を売り場に並べるようになったと言われている。

確かに、要因として大きいがそれだけではない。

その背景に100円の生鮮コンビニの台頭がある。

当時、生鮮コンビニで商品価格がすべて100円である「ローソンストア100」(SHOP99から転換)が出現した。「ローソンストア100」の2008年7月から売り上げを見ると、前年より1割の伸びが続いたのだ。

ちなみに「ローソンストア100の日販」は、本家であるローソンより売り上げが高かったことも大きな特徴だ。その上、顧客層も変化したのだ。

コンビニでは取り込みが難しいとされていた30歳から50歳の取り込みも成功し、比率は50から60%を占めるようになった。

これらの動向を見たスーパーは、低価格設定で生鮮食品が揃っているコンビニ、つまり「ローソンストア100」が今後、スーパーにとって脅威になるだろうと考えたのだ。ちなみに当時のスーパーの売り上げはというと、2008年と2009年を比較すると、マイナス月が5か月続いた。

そこでスーパーの打開策として、個人店で全国に100店舗ほどあった低価格弁当専門店の成功に注視したのだ。大手スーパーだと、個人店と違い、セントラルキッチンで一括で低価格弁当を製造することが可能であり、スケールメリットで個人店より利益が生まれると考えたのだ。

まず口火を切ったのが、西友の低価格弁当である。

西友「サケ弁当298」298円(筆者撮影)
西友「サケ弁当298」298円(筆者撮影)

後発組として、セブン-イレブンの「ザ・プライス」も297円という低価格弁当を並べるようになったのだ。

ササミマヨネーズカツ弁当297円(筆者撮影)
ササミマヨネーズカツ弁当297円(筆者撮影)

さて2009年に起こった低価格弁当は結果として、客単価は下がり、売り上げは上がらず、むしろ大量に低価格弁当は残った。「安かろう、まずかろう」では長期的に支持されないことは当然であり、工場製造にはもう一つ弊害もあった。これについては後述しよう。

今回の低価格化 ドラッグストアの「FOOD&DRUG」

ということで、今回の2021年ディスカウントスーパーの背景と2009年に起こった低価格弁当の類似点とその違いをもう一度、まとめてみる。

日本人の年収について

2009年

リーマンショックにより日本人の年収が2008年の430万円から2009年406万円激減した。

2021年

コロナ禍で日本人の年収は2007年の437万円より低い2021年436万円となった。

図では2020年までとなっているが21年も同じ436万円となった。

国税庁『民間給与実態統計調査』(筆者作成)
国税庁『民間給与実態統計調査』(筆者作成)

客層の変化

2009年

生鮮コンビニの出現によりコンビニがこれまで取り込めなかった客層30代から50代を取り込めた。

2021年

ドラッグストアはコスメテイックを購入する女性が主要顧客であった。しかしコロナ前の2019年より生鮮を扱ったことで男性顧客の週1回以上のリピート率が女性より高い。コロナによりドラッグストアでマスク、うがい薬などを購入することが増え、追い風になった。

つまり・・・

2009年は、スーパー対100円生鮮コンビニであった。

2021年は、スーパー対低価格生鮮食品を扱うドラッグストアに取って代わったと言っても良いのかもしれない。

ドラッグストアとスーパーは既に熾烈な戦いになっている。同商圏にドラッグストアがあれば、零細のスーパーは閉店に追い込まれ、「傷を負わないところはない」とさえ言われている。

そして2009年に起こった生鮮コンビニの台頭より2021年以降、さらに厳しさが増すであろう。

さて、ここからその理由を述べてみると

坪数の違い

まずドラッグストアの坪数を見ると、ゲンキーだと約300坪以上、コスモス薬品は約600坪となっている。コンビニの大きさが約50坪から60坪と見て、ドラッグストアの坪数は約5倍から6倍の大きさとなる。そしてドラッグストアの全商品のおよそ3割は食品を扱っている。中でもEDLPと言われているゲンキー、そしてコスモス薬品は5割以上の食品を扱っているのだ。

つまりドラッグストアの売り場面積の広さからも多様な食品の品揃えが可能であり、以前の100円生鮮コンビニより脅威となる。

製造方法 進化するドラッグストア

ドラッグストアの売り場は、生鮮食品の扱いが多く、まるでスーパーのような売り場となっている。では惣菜はどうだろうか。多くのドラッグストアの惣菜は、外注、もしくは自社工場での製造であり、新業態のディスカウントスーパーも自社製造、もしくは外注で同じやり方であるため、差別化が出来ない。そしてこれは2009年の低価格弁当と同じ轍を踏むことになる。

さらに言うと、ドラッグストアのなかには、スーパーと比較すると来店頻度が低いことから、生鮮食品、チルドでの弁当を提供していないところもあり、冷凍と窒素充填での提供を提案している。

コスモス薬品では窒素充填、冷凍の総菜で塩分問題を解消

コスモス薬品では、生鮮食品、常温の惣菜はロスの発生から陳列していない。

一括製造された惣菜は、冷蔵だと、物流、店舗に着くまでの日にちを考慮し、日持ちを良くするために塩分濃度が高くなる。

これだとリピートしてもらえない味になる。

そこでコスモス薬品では、窒素充填、もしくは鮮度のある段階で冷凍にした惣菜を製造しているため、塩分は日持ちのために高くする必要がない。

つまりスーパーより一歩進んだ提供となっている。

その上、これらの惣菜商品は、弁当に仕上げていない。

今、在宅ワークが増えているなか、炊飯器は各家庭にあり、弁当に仕上げるより、おかずのみの単品で販売することで価格設定も低くしつつ、無理のなく原価を抑えられる。

人気のあるピザ、餃子などは容量を大小にし、それぞれの味を変えて陳列している。つまり世帯人数を考慮していることがわかるのだ。

On365 「4種チーズのマルゲリータ」内税398円トマトの酸味が効いた本格的な味(筆者撮影)
On365 「4種チーズのマルゲリータ」内税398円トマトの酸味が効いた本格的な味(筆者撮影)

「たっぷりチーズのミックスピザ」198円甘く仕上げ生地もふんわりとした食感で老若男女が好む味(筆者撮影)
「たっぷりチーズのミックスピザ」198円甘く仕上げ生地もふんわりとした食感で老若男女が好む味(筆者撮影)

ではこのようにドラッグストアの商品が進化しているなか、今後、ディスカウントスーパーはどのような提案が求められるのだろうか?

次に従来のEDLPのオーケー 大黒天物産を取り上げよう。

店舗内調理の商品をきちんと外さないオーケースーパー

オーケーは、最近、関西スーパーの買収劇で一躍有名になったEDLPスーパーであり、関東一円に130店舗以上あり、出店先の地域で一番安いということを目標にしている。売り上げは2629億円(2021年9期)。

「ロピアよりオーケーのほうが関西進出はやめてほしい」と関西のスーパー関係者が言うほどだ。

「ロピア」破竹の勢いで関西出店、競合に衝撃、躍進の背景に圧倒的な価格戦略

予てよりオーケーの「ロースかつ重」299円は定評がある。

ロースかつ重299円(322.92円)(筆者撮影)
ロースかつ重299円(322.92円)(筆者撮影)

試食した多くのスーパー関係者からは「パン粉が多いですよね」という意見が多い。

しかし、煮汁がパン粉に浸透することで、煮汁が米にまで浸透することを米がつぶれない程度に仕上げている。

口に入れると、パン粉の油がうまく煮汁と融合しているのだ。

煮汁には出汁が入っており、油と出汁は病みつきになる。

人口減であるため、一人ひとりの顧客を取りこぼさないようにすることが大切であり、病みつきになるような仕上がりが求められているのだ。

現状、畜肉が高騰しているなか、美味しさを違った視点で追求する時代に突入していると言える。

あまりの安さに驚く大黒天物産

岡山中心に関西、四国に出店しており、地域で圧倒的な低価格で勝負をかけるとされている大黒天物産

2022年5月期第1四半期の連結売上高は553億9300万円。店舗数は191店舗(2021年5月31日現在)。

惣菜商品の安さは定評があり、二度見してしまうほどである。

2年ほど前より定点観測しているが、店舗内調理をきちんと残しつつ、唐揚げの衣なども随分、改善されているのがわかる。

100gで見ると驚くような価格でポテトサラダなどは55円である。

「美味しいポテトサラダ」100g55円(筆者撮影)
「美味しいポテトサラダ」100g55円(筆者撮影)

オーケー、大黒天物産の商品を見て分かるのは、以前からEDLPスーパーでやってきたスーパーは低価格であることが企業文化として既に根付いており、そこには簡単に踏み込めないノウハウがある。そしてそこに集まってくる従業員一人一人は、EDLPの商品はどうあるべきかをよく理解している。店舗内調理を残しながらドラッグストアに挑んでいるのだ。

日常、求められた惣菜商品は、決して派手ではない。地味であっても、いかにリピートしてもらえるか、それがとても大切である。塩分濃度を高くすれば日持ちするがリピートしない。オーケー、大黒天といった以前からあるEDLPのスーパーは、ロスも考慮しつつ、ドラッグストアではできない店舗内調理を残し、商品を選択と集中し、陳列している。それぞれ違えども、EDLPの考え方、方針が従業員にまでいきわたっているといえよう。

今後、EDLPスーパーの出現が増えるかもしれない。コロナ禍でタイ産の鶏の輸出がストップする事態が起こり、その他の畜肉系までも価格が高騰している。そして油、醤油も高騰している。この状況は、2009年の低価格弁当の時より厳しい。しかし、ドラッグストアに対し生き残るには、スーパーがロスと店舗内調理をうまくコントロールすることが大切であり、それが出来るか否かで熾烈な戦いに挑むことができるのではないだろうか。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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