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半年で300店舗出店、中国の無人コンビニ「ビンゴボックス」。現地の状況は・・・

池田恵里フードジャーナリスト
「ビンゴボックス」を説明するCEOズリン・チェン氏(筆者撮影)

「ビンゴボックス」、半年で300店舗拡大「新しい小売り」

中国では無人コンビニを各社、手掛け始めている。アリババでは「Take Go」を試験的に始め、京東でも「D-Mart」を北京で開設。なかでも注目が集まっているのが半年で300店舗出店した「ビンゴボックス」。

先月、日本にて「ビンゴボックス」のCEOズリン・チェン氏(以下チェン氏)の講演、並びにお話を伺った。

そこで今回、「ビンゴボックス」を視察するべく上海に赴いた。

観光者にとって、中国のスマホ決済は大変!

池田「上海に行くつもりですが、「ビンゴボックス」はありますか」

チャン氏「勿論、「ビンゴボックス」はありますよ。だけど入店するためには中国のスマホが必要です!」

チャン氏はその後、アプリのダウンロードをその場で自分のスマホを使って教えてくださった。

さて「ビンゴボックス」はWeChatpayでの決済となっている。まずWeChatpay決済ができるようにするには、中国の銀行口座開設が必要で、開設する際、中国のスマホの番号が必要となってくる。そこで中国のSIMカードを空港で購入して、中国の携帯を登録、その後、銀行へ行く予定だった。しかし中国に精通している知り合いに聞くと、昨年の7月以降、外国人の口座開設は以前は滞在先のホテル名で良かったが今はダメとのこと。

海外からの旅行者にとって「ビンゴボックス」に入店することはほぼほぼ難しいことがわかった。

しかたなく今回は、中国の友人にお願いして入ってもらうことにした。

300店舗出店した「ビンゴボックス」、それを可能にした背景とは

「ビンゴボックス」は半年で29都市300店舗出店を可能にしたのは、急激に浸透した中国のスマホ決済が大きく後押ししたと考える。

中国ではスマホ決済が主流で98%となっている(日銀レポート2017年6月20日)。主に「WeChatpay」38%「Alipay」50%で占められる。既に都市部において、ほとんどの人が現金払いをしなくなっているのだ。無人コンビニでの決済はすべてスマホ決済であり、出店拡大するための素地が中国では出来上がっていたからこそ、無人コンビニ「ビンゴボックス」の出店加速の後押しとなったと言える。

ちなみにこのレポートによると、日本ではスマホ決済の普及率は6.0%にとどまっている。日本のスマホ決済遅れは、高齢化もありあまり期待できないように思う。

スマホ決済 中国8億人に ネット大手テンセント https://www.nikkei.com/article/DGXLASDX23H1S_T20C17A3FFE000/ スマホ決済 中国8億人に ネット大手テンセント(日本経済新聞)

「ビンゴボックス」の出来上がるまで・・・

チェン氏によると、リアルな店舗を展開しようとしたならば、2つの問題にぶち当たると言う。

・賃金の高騰では中国では毎年7%上昇している

・賃貸費用においても上昇中。

この2つの問題をクリアできるのが「無人コンビニ」であるときっぱりと言われる。

さて日本でもご承知の通り、人手不足から賃金が上昇している。

近々のデーターとしてリクルートジョブズでは

2018年2月度アルバイト・パート募集時平均時給調査

日本のパート・アルバイト2018年2月と昨年2月との比較

首都圏

1061円 前年同月(2月以下省略)より20円アップ

東海圏

964円 前年同月より22円アップ

関西

988円 前年同月より30円アップ

中国ほど急激ではないにせよ、賃金の上昇、人手不足により出店が滞っているのも事実で、10年間で全体の時給は約100円アップしている。

無人コンビニ「ビンゴボックス」が短期間でこの出店数は、日本の小売り業界にとって注目すべき業態と言える。事実、この3月にコンビニ各社はビンゴボックスを視察するべく中国に赴いているという。

「ビンゴボックス」の内容

次に「ビンゴボックス」がいかにしてランニングコストを下げたかについて述べたい。

その前に立地について。

「ビンゴボックス」の立地について

・中国では現状、コンビニは都市部、つまり人の多いところに移行しつつある。しかし都市部は賃貸が高騰しており、人件費もアップしているため、コンビニの出店を妨げている。賃金の上昇率は年7%という。

上海の友人によると、この7年で彼女が住んでいる上海ではほぼ倍の賃料となったと言う。

一方、「ビンゴボックス」の立地は後述するが店舗のコンパクト化から住宅立地、学校、そしてビル内の一角と縦横無尽に出店可能となっている。

「ビンゴボックス」の出店コストについて

・通常、出店するまでに数か月かかるとされていたが、イケアのような製品の組み立て式の簡易なものにすることで輸送費も大幅削減でき、数日でしかもコストは25%で店が出来上がる。105421.6元、日本円で一元16.6円(2018年3月25日調べ)で換算すると約165万で出来上がる。勿論、断熱効果のあるものを使用している。

これらが相まって半年で29都市300店舗出店を可能にした所以の一つとなったのである。

「ビンゴボックス」のコンパクト化

・コンビニの坪数は標準化しており、それ以上でもそれ以下でもない状況のなか、無人化によってより坪数を細分化することが可能となる。

実際、ビンゴボックスは店舗規模は15平方メートルと通常のコンビニの約半分となっており、非常にコンパクトな設定で商圏は半径500メートルで1500人で出店が可能と言われる。

中国はこのところ急激に人口が増加しているものの、一人っ子政策により、人口のピラミッドはおのずと歪になっている。将来、辿る道として急速に人口が減るとされ、つまり今、日本でも起こっている人口減による人手問題もさることながら個人の高齢化により行動範囲が狭まっていく問題も中国にあてはまるのだ。

上海の「ビンゴボックス」

上海の「ビンゴボックス」を2店舗視察。フランス系スーパー「欧尚(オーシャン)」と台湾系スーパー 「大潤発(RT-MART)」の合弁会社が運営をサポートしている。

その一つはオーシャンと提携している「ビンゴボックス」。駐車場の一角にポツンと置かれている。

「オーシャン」と提携した「ビンゴボックス」(筆者撮影)
「オーシャン」と提携した「ビンゴボックス」(筆者撮影)

まず入店する前に顔認証される。これがその動画(筆者、講演会にて撮影)

顔認証は99%認識されると言われているがまだまだ安定したレベルではないと言う。

とはいえ、指紋認証より衛生的だとも言える。

QRコードのIDスキャン認証をして入店。

店舗内の商品内容は歯磨き、飲料水、スナック、バナナ、そしてサンドイッチなどが陳列。この他にバナナ2.98元、中国のコンビニではよく見かけるコーン8.3元。

飲料水については、他店と比較して通常の価格だと友人は言う。ちなみに水は2元から。サンドイッチは7.9元。しっかりとした甘味のある味付けのサンドイッチである。そのためもあって賞味期間3日となっている。

アイテム数(SKU)は全部で500から800数である。

そして商品をコードで認知し、スマホ決済への動画(筆者撮影)はこれ。

隣接しているスーパー「オーシャン」の駐車場にあるため、スーパーとバッテイングするのでは?と思い、スーパーの店舗内を見てみることにした。

欧尚(筆者撮影)
欧尚(筆者撮影)

ここ「オーシャン」は巨大スーパーであり、中に入ると品ぞろえに驚かされる。

「オーシャン」の店舗内(筆者撮影)
「オーシャン」の店舗内(筆者撮影)

乾物類も量り売り。

乾物類も量り売り(筆者撮影)
乾物類も量り売り(筆者撮影)

思わず白きくらげを購入。

果物売り場、ここでも量り売り(筆者撮影)
果物売り場、ここでも量り売り(筆者撮影)

写真の通り「オーシャン」の特徴は、大胆な品揃えと、店舗内を歩くだけでも結構時間がかかること、その一方で、「ビンゴボックス」では決済までを3秒で終えるとされ、顧客の来店動機の違いがはっきり分かれていると思う。

次に訪れたのがここ

大潤発「RT-MART」の「ビンゴボックス」(筆者撮影)
大潤発「RT-MART」の「ビンゴボックス」(筆者撮影)

台湾系のスーパー大潤発「RT-MART」の実験店舗とのこと。

スマホでドアを開ける(筆者撮影)
スマホでドアを開ける(筆者撮影)

鳴り物入りのビンゴボックス、果たして・・・

「ビンゴボックス」は入店する際、スマホ一台につき一人が想定されている。しかし一人がドアを開けた状態で2人、3人でも入店が可能のであり、セキュリテイは完璧とは言えないと思えた。次に購入する際、スキャンする機械の上に一つ一つ商品を置き、スマホにその商品の合計の支払い価格が提示される。

「Amazon Go」ではそのような手順もなく決済が済むとされる。入店して、棚から商品を出した瞬間、既にカウントされ、戻すとカウントはゼロになる。そして自分のバッグに商品を入れて店から出るといつの間にかカウントされ決済がすんでいるのだ。「まるで泥棒をしたような変な気分」とさえ言う人もいるほどだ。

問題は「Amazon Go」は出店するに際し、相当なコストがかかることだ。

しかしこれまで誰も想像をしえない革新を遂げてきたアマゾンは、無人コンビニ「Amazon Go」においても同様の力を発揮すると思われる。

一方、「ビンゴボックス」の現状は、これまでの技術の延長線上であり、斬新さに欠ける印象を受けた。

とりあえずスタートし、問題があれば、その場その場で直していく、悪く言えば突貫工事のような印象を受けた。事実、住民のクレームで閉店した店舗もあると言う。

しかしこのような出店方法こそがスピード出店を可能にし、日本の「石橋をたたいて渡る」ようなスピードでは急激に変化している社会についていけないのかもしれない。

いずれにせよ中国の強靭で旺盛なパワーを感じ、将来、どのように変貌していくのか興味深い。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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