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吉野家のベジ丼530円を食す、新しい試み、 はたして商機はあるのか?

池田恵里フードジャーナリスト
吉野家のベジ丼を食す

これまでもFFの野菜導入、その目的とは

最近のファーストフードの野菜のメニューから健康訴求している企業が多く見受けられる。

過去には、モスバーガーのレタスバーガーで一世風靡し、サブウエイの「野菜のサブウエイ」と銘打ったことで起死回生となった。

これにより, いずれも売上,イメージアップにも大いにつながった。

厚生省の「健康日本21」で一日350gから400gの野菜摂取が望ましいということで、嘗ての30品目より、メニューとして織り込みやすくなったのも追い風の一つ。

そして今、ファーストフード企業は、野菜を銘打ったメニューがまたまた投入されてきている。

先月発売の吉野家のべジ丼を頂くことに・・・。

2012年のアメリカの大干ばつ 値上げ断行

吉野家は、2012年のアメリカでの大干ばつのよる穀物の被害から、牛の出荷が減少。これにより昨年、12月。価格を300円から380円にアップすることに踏み切った。今後もしばし牛肉の高騰は続くとされる。理由として、穀物はようやく持ち直しつつあるが、アメリカは干ばつにより草地も傷んでいること,そして何といっても、牛はすぐに大きくならないからだ。

牛の成長期間は長く、それに伴い、飼料のコストもかかり、そして1頭から生まれる子牛の数が少ない。

牛について、そして豚、鶏との比較

''牛は1頭、成長するまで'''

・牛29ヵ月から30ヵ月

・豚6ヵ月

・鶏55日

必要穀物量は勿論、多い。

・牛10キロから11キロ

・豚3キロから4キロ

・鶏ブロイラーだと2キロから2・3キロ

その後、1頭にあたり産子はというと

・牛0・9頭

・豚20頭

・鶏225頭

つまり牛はコストが最もかかり、生産性も低い・・・

成長期間で金利もかかり、その間に為替も変動する。

その上、アジア市場の牛の消費は増加している。

いずれもコンビニ、スーパー価格 牛丼390円

さて他の業態、中食を見ると、コンビニ、スーパーの「牛めし」「牛丼」とネーミングされた商品は、いずれも同価格か10円の差で打って出ている。他の丼は高価格設定であっても、なぜか牛丼だけはコンビニ、スーパーは同一価格390円、もしくは僅差で明らかに外食を意識している。

ということで、すでに外食、中食のボーダレスな牛丼戦争となっている。

このような状況下、吉野家の牛丼1本勝負では難しい。顧客はさまざまなところでの購入可能であり、その上、コンビニの商品力はめまぐるしく進化している。そのため、全方位で顧客を奪取する必要がある。13年からヒットしている「牛すき鍋膳」は、中食では真似できない提供により、シズル感を出し、その上、高級感もあり、成功商品と言える。「牛すき鍋膳」630円を投入したことにより、昼食が主体であるFF(ファーストフード)のこれまでとは違って、スピード提供に重視していない。真逆路線の「ゆったり」と食べることで、これがデイナーにもつながる。本来、昼食は圧倒的な力をもっている吉野家。次にデイナーに注力すれば、より強い企業となる。現状においても、ファミリー層、女性客にも支持され、売上はすこぶる好調という。

事実、客数は減少しているものの、客単価アップさせたことで、売上増となっている。

吉野家月次報告 
吉野家月次報告 

とはいえ、ここでも商品の原料は、やはり「牛」であり、高騰を考えると、違った素材でもって、次なる手を打つのは火急である。

そこで出てきたのが健康訴求の野菜。野菜中心の丼登場ということとなる。いわば、これまでの定番の具材とは真逆の商品で、たとえ売上に直結しなくても、目に入ってくる色とりどりの野菜により、ブランドアップができ、イメージ効果は抜群と踏んだのであろう。

そこで今回、吉野家のべジ丼530円を食べることにした。

気になる点は、価格設定530円であること。日本人のランチの平均昼食価格は、良く言われるワンコイン。

顧客に受けられるのであろうか?

そこでもう一度、サラリーマンのお財布事情を調べることに・・・・。

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新生銀行の調べ

お小遣い2年ぶり上昇39572円

そして平均昼食代541円

女性は29円低い512円

年齢層でみると、もっとも昼食にかける層は50代 614円

昼食にかける時間平均22・1分

出典:新生銀行サラリーマンの昼食事情

確かに昼食の時間は多少、長くなったものの、やはり22分すべてが食事にあてるわけではない。そのため、オペレーションがきちんと回るような提供方法がカギとなってくる。

さて吉野家のベジ丼を注文。

入店すると、男性ばかりの中で注文となった。

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提供時間などは、温野菜ということもあり温め、上に塩だれをかけて出来上がり。スムーズな提供である。

食べやすい味付けではあるが、香ばしさなどがあれば、なお良い。

とはいえ、現状のオペレーションを見ると、香ばしさ、そして香りを出すには難しいようにも・・・

価格・食べ応えを考えると、若い男性には、やはり物足りなさが残るかもしれないし、年齢別の平均昼食代を考えると、おのずと顧客層が見えてくる。一般に、野菜といえば、安いというイメージがつきものであるが、天候に影響されやすいため、乱高下しやすく、非常に難しい食材である。

利点として、組み合わせを調整すれば、牛肉1本というより融通が利くのも確か。

そして何といっても、これまで茶色一色であった、どんぶりが色鮮やかになった。

いろいろと課題も多く、大変と印象を受けた。しかし過去の幾度か難関を乗り越えてきた吉野家である。更なる磨きこみがされていくだろう。

皆さま

前回、間違えて公開となっており、気が付き、慌てふためき、クローズしましたこと、深くおわびいたします。

次回から、このような失敗がないようにしたいと思っております。

池田恵里

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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