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立川市を皮切りに2年半ぶりの大相撲夏巡業がスタート 感染症対策の規制厳しくも活気あふれる

飯塚さきスポーツライター
立川巡業で胸を出す大関・貴景勝。8月5日は26歳の誕生日(写真はすべて筆者撮影)

徹底した感染症対策で巡業再開

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2年半以上開催が見送られてきた大相撲の巡業。専門家の目を通した厳しい感染症対策の下、東京都立川市を皮切りに8月5日より夏巡業が始まった。通常であれば朝はまばらな客足だが、この日は会場の朝9時前から多くの人が詰めかけた。それほどまでに、ファンは巡業を心待ちにしていたということの表れだろう。

ここ最近また感染者数が急増している実態や、多くの休場者が出た名古屋場所を受け、今回の巡業では本場所以上の厳重な感染症対策がなされている。巡業部副部長の入間川親方(元関脇・栃司)は、専門家の意見をもとに対策を講じたことを強調した。

「協会員以外の方は、記者の皆さんも含めどなたも支度部屋には入れません。また、ファンサービスも非接触型で、握手や赤ちゃん抱っこはなし、決まった時間帯での写真撮影会のみ行います」

感染症対策について説明する巡業部副部長の入間川親方
感染症対策について説明する巡業部副部長の入間川親方

さらに、稽古は5~6人一班と少人数にし、土俵下の力士たちにはマスクの着用を求める。相撲甚句(力士が歌う民謡の一種)を含む一部の催し物では、土俵上の力士もマスクを着用するなど、本場所よりもさらに徹底された対策がなされていると言っていいだろう。力士とのふれあい、距離の近さが巡業のよさであり、その醍醐味のほとんどが失われてしまっていたのは残念だが、この状況では致し方ないというほかあるまい。

照ノ富士と若元春のぶつかり稽古に武者震い

横綱として初めて巡業に参加した照ノ富士は、稽古前、記者の囲み取材に応じ、「開催できたことは一つでも二つでも前に進んでいるのかなと思っています」と、多くの制限がある巡業も前向きに捉えた。

取材で、特に誰と稽古したいか尋ねられたときには明言しなかった照ノ富士。しかし、実際の稽古では先場所死闘を繰り広げた若元春を「かわいがり」。疲労困憊で何度も倒れる若元春に、「一気に走る!」「もっと腰を落として!」などと具体的な声がけをしながら、何度も何度もぶつからせた。最後まで食らいついていった若元春。先場所の一戦で大きく自信になっていたであろうが、この日の稽古でさらにひとつ大きな経験が積めたに違いない。来場所は、その強さが結果につながることを祈ろう。

若元春(左)と照ノ富士のぶつかり稽古
若元春(左)と照ノ富士のぶつかり稽古

照ノ富士 - 若元春のぶつかり稽古を含め、相当久しぶりに力士たちの稽古風景を見た筆者。そのときは夢中になって食い入るように見ていたが、終わった後にかなり心臓が高鳴っていたことに気づいた。左手のスマートウォッチは、心拍数が100超だと訴える。それだけ興奮していたのだ。

通常の巡業を知っているばかりに、ふれあいのない今夏の巡業を、ファンの方がつまらなく感じてしまうかもしれないと当初は思っていた。しかし、ふたを開けてみれば、ふれあい以外にも多くの楽しみがあった。甚句や初っ切り(相撲の禁じ手を面白おかしく紹介する見世物)といった、花相撲ならではの催し物にも館内は大盛り上がり。横綱が口にした通り、開催できたことだけでもプラスだと思い知らされたのである。

夏巡業はあと4日。足を運ばれるファンの皆さんは、体調や感染症対策に十分留意しながら、ぜひ久しぶりの巡業の雰囲気を楽しんでいただけたらと思う。

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スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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