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若隆景と高安が1敗でトップを走るも「大関の意地」に背筋が凍る優勝争いの行方

飯塚さきスポーツライター
写真:毎日新聞社/アフロ

大相撲春場所は、“荒れる春場所”の名の通り、非常に面白い展開。一人横綱の照ノ富士が不在のなか、役力士たちを含め、多くの力士が活躍している。

1敗を守った新関脇と大関経験者

12日目。注目は、1敗でトップを走る新大関の御嶽海と、新関脇の若隆景、そして大関経験者である7枚目の高安だ。若隆景は、2敗で追いかける琴ノ若戦、御嶽海と高安は結びで対戦した。

若隆景は、立ち合いから低く当たり、相手に一度土俵際まで押し込まれるもなんなく堪え、右を深く差しながら頭をつけ、低い体勢のまま寄り切った。今場所は特に、もともと得意のおっつけ・ハズ押しの技術が抜群に光る。今日の相手は御嶽海。このまま千秋楽まで三人の大関戦が組まれると思われる。自身初優勝の栄光まで、この大きな3つの壁を越えていくことができるか。

これまで、御嶽海との対戦成績は19勝8敗と優勢の高安。プレッシャーのかかる場面でも本来の力を発揮できるかがカギだった。

しかし、その懸念は吹き飛ばされた。立ち合いから踏み込んで左上手を取る高安。御嶽海は終始苦しい体勢だ。そのまま高安が右の前まわしを引くと、一気に引きつけて寄り切った。落ち着いた相撲で、文句なしの一番であった。

福島に希望か、32歳の悲願か、大関の意地か――

これで、1敗は若隆景と高安の二人。2敗力士は消えた。3敗には大関・御嶽海、平幕の琴ノ若が続く。優勝争いの中心は、この4人。

高安と若隆景の直接対決はすでに終わっており、先述の通り、若隆景は今日から3日間は大関戦の予想。対する高安は、昨日御嶽海と対戦したため、今日の貴景勝戦を終えたら、残りは例えば逸ノ城(2枚目で勝ち越し)、正代などとの対戦が組まれるだろう。対戦相手だけを見ると、高安のほうが有利に見える。

筆者としては、同学年の高安に頑張ってもらいたい気持ちに若干傾く。しかし、ここまでの若隆景の安定感を考えると、彼の初優勝も十分に現実的といえる。特に、場所中に震災のあった福島県出身の新関脇は、故郷を思い、なんとしてもという気持ちがあるだろう。

この二人の場合、どちらが勝っても印象的な場所になることは間違いない。ただし、ここに「大関の意地」が入ってくるだろう(願望も含め)と思われるのが、今場所の面白いところだ。

3敗で二人を追いかける御嶽海は、新大関での優勝をまだ諦めてはいないはず。カド番脱出を決めた貴景勝の意地も見たい。さらに場所を面白くするのは、なんといっても1勝5敗から6連勝中の正代である。まだ勝ち越し(カド番脱出)はかかっているものの、優勝などの大きなプレッシャーがないいま、思い切りのいい相撲で連勝を重ねる正代はかなり不気味だ。この勢いで、千秋楽までのびのび取り切ってしまうかもしれない。そうなると、優勝争いもさらに読めなくなるだろう。考えただけで背筋が凍る(いい意味で)。

優勝に多くの力士が絡むほど、場所が面白くなる。この稀有な場所を、最後に制するのは誰か。可能性のある全力士に期待したい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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