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照ノ富士はすでに立派な横綱 ”漢”妙義龍ら秋場所を盛り上げた力士たちの活躍を振り返る

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

大相撲秋場所は、新横綱・照ノ富士の優勝で幕を閉じた。師匠である伊勢ヶ濱親方から受け取った優勝旗。復活後はもう4回目であるが、その重み、感慨深さは、何度でも色あせないものに違いない。

”品格・力量抜群”を体現する新横綱

3敗で追いかけていた妙義龍が敗れ、その時点で照ノ富士の優勝が決定した。しかし、目の前の一番へ臨む姿勢は、他人の結果いかんにかかわらない。大関・正代と当たった結びの一番。立ち合いで力強く左の前みつを引き、そのまま深く差すと、正代に何もさせずに一気に寄っていった。まさに横綱相撲。優勝に白星を添える結果となった。

取組後のインタビューでは、四方に向かってそれぞれ丁寧に頭を下げてマイクに向かう。

「自分一人ではここまで活躍できないので、師匠・おかみさんをはじめ、後援会の皆さん、家族、ここに足を運んでくださる皆さんのおかげで、ここに立っていることをありがたいと思って、来場所に臨んでいきたい」

周囲への感謝を述べ、淡々と落ち着いて答える姿に、胸打たれた。

横綱という地位は、「品格・力量抜群により」認められる。照ノ富士は、土俵上での強さと土俵外での姿勢で、それを自分なりに体現しようとしているのが見て取れる。新横綱ながら、慣れない土俵入りも痛むひざで堂々と務め、すでに立派な横綱だと、多くの人が認めているだろう。言わずもがな、筆者も彼を尊敬する一人である。

土俵を沸かせた力士たち

そして、最後まで土俵を沸かせてくれたのは、まさに”漢(おとこ)”という言葉が似合う、いぶし銀の妙義龍。千秋楽こそ、勝ち越しのかかっていた明生に敗れてしまったが、今場所における彼の功績は大きい。

しかし、ここで立ち止まらないのが彼の本当のカッコよさである。「勝った相撲も負けた相撲も自分らしかった」と今場所を振り返りながらも、「まだまだやれるとわかったので、しっかりケアして次につなげます」と、彼の眼はすでに前を向いていた。

優勝した照ノ富士に土をつけた大栄翔・明生の活躍はもちろん、十四日目まで優勝戦線に食い込んでいた相撲巧者の遠藤や隠岐の海も、今場所を沸かせた力士たちである。独走状態だった照ノ富士をなんとか攻略しようと、多くの力士が奮闘し、場所を盛り上げてくれた。

「終わってみれば照ノ富士」。しかし、そこに彩を加えたさまざまな力士がいたことを、こうして最後に記しておきたい。

力士の皆さん、関係者の皆さん、そしてファンの皆さんも、今場所もお疲れさまでした。1年を締めくくる11月の九州場所を、いまから楽しみにしています。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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