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有終の美か、驚異の大記録か――「白鵬対照ノ富士」がもつ、歴史的な意義とは

飯塚さきスポーツライター
写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

大相撲名古屋場所は、十一日目を終え、早くも「千秋楽の直接対決」への期待が高まっている。横綱・白鵬と、綱取りをかける大関・照ノ富士の両者が、ここまでなんと11戦全勝。互いに盤石な相撲で、相手を寄せ付けない強さを見せつけ続けているためだ。

両者ともに魅せる盤石の相撲

十一日目。照ノ富士と対戦したのは、自身も大関の座を狙って久しい御嶽海。照ノ富士との直近1年間は、1勝5敗と分がよくはなかったが、上位陣に対して強さを見せることがある「ダークホース」としても知られる。

しかし、そんな淡い期待は、常に上を目指し続ける大関の強さに、いとも簡単に跳ね飛ばされた。立ち合いから踏み込むと同時に左を差し、そのまま一気の出足で寄り切り。まさに「電車道」のお手本のような相撲だった。

続く白鵬。初顔合わせとなる新三役の若隆景を迎え撃ったが、残念ながら若隆景の立ち合いがうまく合わなかった。これによって白鵬はさらに落ち着いた様子で組み止め、右をしっかりと差したまま寄り倒し。危なげない一番だった。

ここまで全勝街道まっしぐらの二人。直接対決は千秋楽に組まれることが予想されるが、この両者の対戦にはどんな意義があるのか。

最後に笑うのはどちらか――”世紀の大決戦”の意義

これまでの戦績は、白鵬の9勝4敗。しかし、これは照ノ富士の最初の大関までの時代の結果で、照ノ富士復帰後は初の対戦となる。4年前の照ノ富士は、その若さと勢いに乗って、力に任せた豪快な相撲を取っていたが、いまは違う。まさに「横綱相撲」ともいえる、非常に落ち着いた取り口で、ひざに負担をかけないよう、力任せにもっていく場面はむしろ少ない。さらに、洗練された技術まで身につけてきた。心身共に、一段も二段も強くなってよみがえった照ノ富士なのである。この”新生・照ノ富士”を、横綱がどう迎え撃つのか。

一方、場所前は「進退をかけて臨む」としていた横綱・白鵬。日を追うごとに相撲勘が戻り、安定感が増しての11連勝だ。現在の彼の胸中には、何があるのだろうか。

先月、同じく元横綱の鶴竜親方に話を伺った際、「本当は、もう一度優勝して辞めたかった」と口にしていた。いま、白鵬はまさに同じ気持ちで、それを体現しようとしているのだろうか――。そんな考えがよぎってしまう。

もしも、このまま両者に土がつかないまま、あるいは土がついても、同星か1差で千秋楽に優勝を争うのであれば、間違いなく相撲史に残る一番となる。白鵬が優勝したら、本当にこれを有終の美として土俵に別れを告げてしまうかもしれない。照ノ富士が優勝すれば、驚異の関脇から3場所連続優勝。誰も成し遂げなかった大記録と共に、文句なしの横綱昇進となるだろう。

人気力士の不在に肩を落とすファンも多い今場所。しかし、世代交代ともとれるこの”世紀の大決戦”がある限り、千秋楽まで片時も目が離せない場所なのである。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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