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明瀬山、初の三賞逃すも功績は大きい 大栄翔の優勝に沸いた初場所で称えたい力士たち

飯塚さきスポーツライター
写真:毎日新聞社/アフロ

大栄翔の初優勝に世間が(特に埼玉県が)沸き、幕を閉じた大相撲初場所。これで、初場所は6年連続で初優勝力士の優勝となった。

次の番付編成も気になるところ。大栄翔は、西前頭筆頭で、13勝2敗で優勝した。今回、休場のなかった三役も全員勝ち越してはいるが、おそらく関脇までには上がるだろう。そうすると、来場所は「大関取り」の場所にもなる。調子を下げずに飛躍の場所にできるか。今後も目が離せない。

本稿では、大栄翔以外にも、場所を盛り上げた力士たちについて振り返る。

照ノ富士と翠富士が技能賞を受賞

今場所の三賞は、殊勲賞に大栄翔が、技能賞には大栄翔に加えて関脇・照ノ富士と新入幕の翠富士が輝いた。三役全員を撃破したこと、鋭い突き押しの技術が光ったことで、ダブル受賞となった大栄翔。優勝に花を添えた。

関脇で11勝を挙げた照ノ富士は、両膝が痛むなかでもそれを感じさせない強さを連日見せつけた。来場所は大関昇進をかけて臨む。仮に昇進が決まると、実に3年半ぶりの大関復帰となる。昨年の復活優勝から丸1年。こうしているいまも、すでに大関の姿を容易に思い描くことができるが、はたして。

新入幕と同時にうれしい技能賞受賞となった翠富士は、照ノ富士と同じ伊勢ヶ濱部屋の力士。小柄ながら大きな相手にもまっすぐ向かっていく気持ちのいい相撲で、自身の代名詞となりつつある得意技「肩透かし」を武器に、今場所も戦ってきた。勝てば技能賞の千秋楽も、見事肩透かしで勝利。今場所は、なんと5回も肩透かしで白星を勝ち取った。

「肩透かしだけと思われないようにしたい」と語ったのが印象的だった受賞後インタビュー。その高い志を胸に、角界を沸かせる小兵力士の一人として、今後も幕内の土俵で活躍してほしい。

敢闘賞逃すも明瀬山の功績は大きい

敢闘賞には、「千秋楽で勝てば」の条件付きで琴ノ若と明瀬山の名前が挙がっていたものの、両者とも敗れてしまったため、残念ながら受賞には至らず。特に、今場所の明瀬山は、土俵上での活躍に加え、マスコットキャラクター的な存在として、多くの相撲ファンを魅了した。数多くいる関取のなかで、「明瀬山タオル」が真っ先に完売するなど、ちょっとしたフィーバーも起こったほどだ。

初日から怒涛の6連勝。勝利後のインタビューはいつもニコニコで、その笑顔に癒されるファンが続出した。自身の名前を売っただけでなく、コロナの影響で暗い影を落とす初場所に、明るい話題を多く届けてくれたこと。やはり、今場所の明瀬山の功績は非常に大きい。

23歳の琴ノ若と35歳の明瀬山。若手とベテランの両者が幕内下位で奮闘していただけに、どちらにも受賞してもらいたい気持ちでいっぱいだったが、この悔しい気持ちをばねに、来場所でさらなる活躍を見せていただきたい。

見る者を引き込んだ力士たちの活躍

ほかにも、最後まで大栄翔と優勝を争った正代や、千秋楽の大関対決を制して11勝を挙げた朝乃山、照ノ富士に負けじと復活の一途を辿って大関復帰を目指す高安など、上位陣がしっかりと結果を残したこと。大栄翔と同部屋の剣翔が十両優勝し、追手風部屋の“ダブル優勝”に貢献したこと。出場者が少なく寂しかった十両の土俵を、連日アクロバットな相撲で宇良が沸かせたこと。ここには書き切れないさまざまな要因が重なって、多くの人が純粋に相撲を楽しめる場所となった。ここにきてもなお、開催への賛否はあるだろう。それでも、15日間死力を尽くして戦い、結果として見る者を元気づけてくれた力士の皆さんに、心から敬意と感謝の気持ちをお伝えしたい。

そして、今場所も拙著にお付き合いいただきありがとうございました。2021年もどうぞよろしくお願いいたします。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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