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正代だけじゃない秋場所を盛り上げた力士たち。千代の国の十両優勝と業師・宇良の復活劇

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

復帰の千代の国が十両優勝

27日に幕を閉じた大相撲秋場所。幕内の土俵は正代の初優勝で大いに盛り上がったが、その前の十両・幕下で活躍した力士たちにもスポットを当てたい。

今場所を語るに当たり欠かせないのは、堂々の14勝1敗で自身三度目の十両優勝をした千代の国と、西幕下5枚目の地位で6勝1敗の好成績を挙げ、来場所の再十両が見込まれる宇良の二人。両者ともにケガに泣き、復活の一途を辿ってきた。

二度目の関取陥落から復帰し、十両11枚目で臨んだ千代の国。左膝複合靱帯の損傷から約1年半。今場所の千代の国は、ケガの苦労やつらかったであろう日々を微塵も思わせないほどに土俵上で暴れた。あの強かった千代の国が、十両の土俵を鳴らしていた。

十四日目の若元春戦では、相手の立ち合い変化にも動じず冷静に対処し、突き落としで勝利。これにより、千秋楽を待たずして十両優勝を決めていた。そして迎えた千秋楽。この日も、持ち前の前に出る強い圧力を発揮し、相手の大翔丸をあっという間に押し倒し。最後まで高い集中力を保ち、優勝を白星で飾って花を添えた。

優勝が決まっても、その後の相撲で気を抜かないどころか、自身の全力をぶつけて力を出し切ったこと。ただただ、頭が下がるばかりだ。さらには、14勝1敗という好成績により、来場所は再入幕にも期待がかかる。鋭いスピードと力強さ、そして気迫あふれる元気いっぱいな相撲で、来場所の幕内の土俵を沸かせてほしい。

宇良が再十両濃厚か

一方、幕下の宇良も、連日低く素早い相撲で館内を沸かせていた。5勝1敗と勝ち越しの成績で迎えた千秋楽は、十両の大翔鵬と対戦。2017年の秋場所で膝を痛め、以来休場が続いて一時は序二段にまで落ちた宇良。対戦相手が十両の力士なので、この日久しぶりに大銀杏を結った。

勝負はあっという間だった。低い姿勢でぶつかり、そのまま一気に押し出し。6勝目を挙げたことで、約3年ぶりの十両復帰を、ほぼ手中に収めた。

レスリングの経験を生かし、小兵ながらトリッキーな動きと巧みな技で人気を博した宇良が、長いトンネルを抜けてまた戻ってきてくれた。リハビリの日々はまだ続いているそうだが、ケガ以前よりも見違えて体は大きくなっている。力をつけて這い上がってきた業師に、期待に胸を膨らませて、ファンはいまも待っている。

納谷、待望の新十両なるか

十両では、千代の国のほかに、35歳のベテラン・明瀬山や、伊勢ヶ濱部屋の小兵・翠富士の大活躍が話題となった(二人とも10枚目で11勝4敗の二桁勝利)。また、幕下上位は宇良のほかに、筆頭で4勝を挙げた貴源治と常幸龍、2枚目で4勝の千代の海の再十両が確実だとされているが、加えて注目が集まっているのは、4枚目の納谷だ。あの大横綱・大鵬の孫として入門時から注目を浴びていたが、同期の豊昇龍や琴勝峰からは一歩遅れを取っている。

今場所は西4枚目の地位で、5勝の成績。新十両への望みはつながっている。あとは、どれだけ上から落ちるかといった、周りの状況との兼ね合いのみ。実力は十分にある。予定通りであれば、来場所の番付発表は10月26日。祈るような気持ちで待ちたい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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