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「陰の主役」朝乃山のあまりの強さに凍りついた。史上初・初日3連敗からの逆転Vなるか

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

2敗守った翔猿と正代

大相撲秋場所十三日目。十二日目までは、2敗が貴景勝・正代・翔猿の3名、3敗が朝乃山・若隆景・阿武咲の3名と拮抗する展開であったが、この日に番狂わせが起こった。今場所絶好調の翔猿が、前頭筆頭の隆の勝に勝利し、2敗を守ったのだ。これまでの対戦では、隆の勝に5戦全敗だった翔猿。また、隆の勝自身もすでに今場所は勝ち越しを決めており、連日非常に力強い相撲を見せていただけに、この結果には正直身を乗り出して驚いてしまった。

立ち合いでは、ふわっと中途半端に立ってしまった翔猿。「待った」だと思ったそうだが、軍配は返っている。ただ、ここからの対応力が高かった。攻め込んできた相手の右へ回り込みながら相手をいなし、そのまま横に動きながら送り出し。あっという間の出来事だった。

さらに、2敗同士の貴景勝と正代の対戦では、これまた調子を上げている正代が大関を下した。立ち合いは五分に見えたが、正代が左から貴景勝の体を起こしたのがポイントだったように思える。その後、貴景勝は回り込んで攻めようとするが、正代が右からいなし、さらにこらえて向かってきた貴景勝を、今度は逆から突き落として、これが決まった。こうして、2敗は正代と翔猿の二人に絞られた。

陰の主役は朝乃山?

2敗を守った二人の力士の勢いには、本当に素晴らしいものがある。しかし、10連勝で3敗キープの大関・朝乃山の存在を忘れてはいないだろうか。十三日目の結びの一番を見て武者震いしたのは、筆者だけではないはずだ。

対戦したのは、今場所“優勝争いの鍵になる”といわれている、関脇・御嶽海。彼自身に優勝の可能性があるということではなく、強い相手に対して驚くほどの力を発揮することがあるため、優勝争いに絡んでいる力士に土をつけるかもしれない、という意味でそういわれている。

しかし、勝負は一瞬だった。立ち合い、朝乃山は右肩でぶつかると同時に右を差し、左上手を取った。いったん前に出て相手に大きな圧力をかけると、次の瞬間、左からの豪快な上手投げ。あまりの強さに、背筋が凍った。

もっといえば、十一日目の隠岐の海戦でも、左からの力強い上手投げを決めているし、十二日目は突き押しの大栄翔に突き押しで応戦し、押し倒しで勝利した。今場所後半の朝乃山の相撲は、初日からどう3連敗したのかを忘れさせるほどに強い。

賜杯に一歩近づくのは誰か?

翔猿は、割が崩されて大関・貴景勝と、そして正代は、この盤石すぎるほどに盤石な朝乃山と、今日対戦する。同じく3敗で追う若隆景は、“優勝争いの鍵”御嶽海との対戦だ。もしも、両大関が勝つようなことがあれば、2敗の力士が消え、朝乃山と貴景勝にもチャンスが巡ってくる。もし、これで最後に朝乃山が賜杯をかっさらう結果になると、初日から3連敗した力士が優勝を勝ち取るのは、15日制になって以来史上初になるのだそうだ(ちなみに、1勝2敗から優勝した例も、過去に4人しかいない)。

今日がどのような勝負結果になろうと、優勝の決定は千秋楽まで持ち越しとなるが、本日最後の取組3番からは、決して目を離すことはできない。

―今日最後の取組3番―

若隆景(3敗)-御嶽海

朝乃山(3敗)-正代(2敗)

翔猿(2敗)-貴景勝(3敗)

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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