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「ポリティカリー・コレクトで退屈」トランプ氏、アカデミー賞をこき下ろすも、自身の求心力も低下

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
共和党支持者の間でも求心力が低下しているトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 退任してから100日。

 トランプ氏が、視聴者数が985万人と昨年の2360万人から58.3%も激減した第93回アカデミー賞授賞式について苦言を呈した。

 同氏は、トランプ氏のオフィスが出した声明の中で、今回のアカデミー賞をこうこき下ろしている。

 「かつてはアカデミー賞と呼ばれた今でいうオスカー=はるかに重要でもエレガントでもない名前は、史上最低の視聴率で、昨年の視聴率よりもはるかに低く、記録的低さを打ち立てた。もしこの馬鹿げたフォーミュラを続けていけば、そのフォーミュラが可能ならだが、悪くなっていくばかりだ。15年前に戻って、当時のフォーミュラを見て、名前をアカデミー賞に変えるんだ。ポリティカリー・コレクトで退屈なショーになってはだめだ。正しくやるんだ。それに、素晴らしい司会者を呼び戻そう。テレビ界の人々は民主党の宣伝方法を考えてばかりいるが、それが国を滅ぼし、保守派や共和党支持者をキャンセルしている。そんなフォーミュラはもちろんアカデミー賞ではあまりうまく行ってこなかった」

トランプ氏の求心力低下

 しかし、トランプ氏はアカデミー賞の視聴率の低下より、自身の人気や支持率の低下を懸念した方がいいのではないか。

 NBCニュースが、4月17日〜20日に、1000人に行った最新の世論調査によると、トランプ氏は好ましくないと答えた回答者は55%。今年1月に有権者を対象に行われた世論調査や昨年大統領選挙前に有権者を対象に行われた世論調査では、それぞれ53%、52%が、トランプ氏は好ましくないと回答していたので、トランプ人気がじょじょに低下していることがわかる。

 しかも、トランプ氏は有権者の間だけではなく、共和党支持者の間でも求心力を失いつつある。

「トランプ氏よりも共和党をより支持している」と回答した共和党支持者は50%と「共和党よりもトランプ氏をより支持している」と回答した共和党支持者の44%を上回ったからだ。共和党をトランプ氏よりも支持するという状況になったのは、2019年7月以来のことだという。

分断が続くアメリカ

 一方、就任100日目を迎えたバイデン大統領に対しては、53%が支持しており、支持しないは39%だった。

 バイデン大統領の政策の中でも、特に、新型コロナ対策が支持されており、69%の回答者が高評価している。経済政策も52%が評価しており、バイデン大統領が3月に署名した、1.9兆ドル(約200兆円) の新型コロナ経済対策法案は46%が支持。道路や橋、ブロードバンドアクセスのアップグレードなどのインフラ政策も59%が支持している。

 一方、対中政策は35%、銃対策は34%、国境の安全と移民政策は33%と回答者にあまり評価されていない。

NBCニュースが行なった世論調査では、回答者の53%がバイデン大統領の最初の100日間の仕事ぶりを評価。出典:NBC NEWS
NBCニュースが行なった世論調査では、回答者の53%がバイデン大統領の最初の100日間の仕事ぶりを評価。出典:NBC NEWS

 バイデン氏が大統領に就任してから「アメリカは正しい方向に向かっている」と考えている人々の割合は、1月時点での21%から現在は36%に増加。しかしそれでも、56%は「アメリカは間違った方向に向かっている」と回答している。

 実際、バイデン大統領はアメリカを1つにすると公約したものの、実現への道のりは険しい。この調査でも、82%の回答者がアメリカは今も分断されていると回答している。

 保守系とリベラル系では、バイデン大統領に対する支持率に大きな差もある。保守系メディアの視聴者の場合、46%がトランプ氏に対して今もポジティブな見方をしており、62%がバイデン氏を支持していないと回答。一方、リベラル系メディアの視聴者の場合、トランプ氏に対してポジティブな見方をしている人は8%しかおらず、バイデン氏を支持していないと回答した人も12%と少数だった。

通常のアメリカに戻したバイデン氏

 ハネムーン期間(新政権の最初の100日間のこと)だったこともあって仕事ぶりを高評価されたバイデン大統領だが(ハネムーン期間中、新政権は一般的に高い支持率を示す傾向にある)、大改革を行っているとは思われていないようだ。55%が「バイデン大統領は、これまでの大統領たちが統治してきた通常の道筋にアメリカを戻した」と回答している。

 米NBCニュースに対して、ある男性がした以下のコメントは、バイデン大統領に対する米国民の見方を代弁しているように思えた。

「僕は、バイデン氏が毎日何をしているかなど考える必要がない。バイデン氏の1番良いところは、彼のことを考える必要がないということだ」

 米国民はトランプ氏の一挙手一投足にハラハラさせられっ放しだった。これまでの大統領たち(トランプ氏を除く)と変わらない、よくある統治を行っているバイデン大統領はトランプ氏のようにエキサイティングとはいえないものの、気にかける必要がない安心できる存在ということか。

 静けさを取り戻した、荒波去りし後のアメリカの海。ハネムーン期間を終えたバイデン大統領に、米国民は安堵の眼差しを注ぎ続けるのだろうか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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