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聖火リレーがスタートした福島の再汚染を示唆する2枚の写真 米原子炉専門家はどうみるか #これから私は

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
福島の森林地帯は県土の7割を占め、限定的にしか除染されていない。(写真:ロイター/アフロ)

 東京五輪の聖火リレーが始まった。 

 そのルートには、福島第一原発事故の被災地が含まれているが、ここに、懸念を感じさせる2枚の写真(以下)がある。

南相馬市役所の屋上にあったダスト(2016年2月29日採取)からは、45,000bq/kgの放射能が検出された。写真提供:Fairewinds Associates
南相馬市役所の屋上にあったダスト(2016年2月29日採取)からは、45,000bq/kgの放射能が検出された。写真提供:Fairewinds Associates

ビニール袋には南相馬市役所の屋上で採取したダストが入れられている。写真提供:Fairewinds Associates
ビニール袋には南相馬市役所の屋上で採取したダストが入れられている。写真提供:Fairewinds Associates

 この2枚の写真は、今から遡ること5年前の2016年、前の投稿「廃炉には100年かかる」米原子炉専門家に聞く 3号機3つの懸念 福島原発事故10年 #あれから私は」で紹介した、アメリカの原子炉専門家のアーニー・ガンダーセン氏が訪日した際に、調査チームとともに4階建の南相馬市役所の屋上で撮影したものだ。黒いダストが映し出されているのがわかる。

 ガンダーセン氏は、このダストから採取した放射性物質の量を見て驚愕した。その数値は45,000bq/kgと、放射性廃棄物を安全に処理するための基準値である8000bq/kgをはるかに超えていたからである。

 ちなみに、南相馬市役所の屋上は2014年に除染されていた。それにもかかわらず、2年後の2016年には、同じ屋上から採取したダストから高い放射能量が検出されたのだ。ガンダーセン氏は放射性物質が再び運ばれてきたことから、高い数値が出た可能性があると指摘している。

居住地域の再汚染を示唆

 その放射性物質はどこから運ばれてきたのか? 同氏は、福島原発事故から10年という節目に寄稿した記事"Japan Hasn’t Recovered 10 Years After Fukushima Meltdown"(福島のメルトダウンから10年、日本は復興していない)の中で、それについてにこう言及している。

「南相馬市役所は除染されました。2011年のメルトダウン後には、新しいエポキシ樹脂のルーフも設置されました。我々は2016年と2017年に、すでに除染されていた屋上のダストを採取しましたが、そのダストからは高レベルのアルファ放射線が検出されたのです。これは、除染されていない地域から風で運ばれてきた汚染物質が、居住可能とされている地域を再汚染していることを示唆しています」

 除染されていない地域の中でも、特にガンダーセン氏が懸念しているのが、山林の汚染だ。

「山岳地帯が多い福島県では、県土の70%が除染されることはないでしょう。日本政府は、メルトダウン後に住民が避難した居住区の除染だけにフォーカスしました。我々は居住区と非居住区、また、福島県で聖火リレーが行われる地域の土壌やダストも調査しました。その結果、道路から10メートル以内の地点では除染により汚染レベルは比較的低かったものの、同じロケーションで、30メートル森林に入ったところから採取したサンプルでは汚染度が5倍高かったのです」

 つまり、除染されていない山岳地帯に堆積している放射性物質が、風雨により、居住可能な市街地に運ばれてきている可能性があるというのである。冒頭の、高数値の放射能量が検出された南相馬市役所の屋上のダストも、山岳地帯から、風雨で運ばれてきたものかもしれない。

 森林除染については、福島民報も、除染が生活圏から20メートル以内の範囲で限定的に行われているだけで、その範囲外の森林は除染がほぼ手つかずになっている状況を問題視している。

デンバーの自然放射線量より低い

 一方で、2018年10月、筆者がある仕事で福島に同行したアメリカの物理学者は、被災地の諸所に立てられているモニタリング・ポストが示す空間放射線量の数値に驚いて、こう言った。

「多くの場所で、空間放射線量は“デンバー・ドス”よりも低い」

 “デンバー・ドス”とは、自然放射線量が比較的高い米コロラド州デンバーの線量のことを指す。彼は、被災地の線量はデンバーの自然放射線量より低いと指摘したのである。ちなみに、デンバーの年間の自然放射線量は4ミリシーベルト。比較までに、日本を含む世界の自然放射線量の平均値は年間2.4ミリシーベルト、ブラジルの最も高いところでは年間10ミリシーベルトとなっている。

 彼はデンバーの自然放射線量よりも線量が低い被災地が朽ち果てたゴーストタウンとなっている様を目の当たりにして、こう話した。

「私が(原発事故前に)この地に住んでいたとしたなら、戻りたい。線量が非常に高い地域では癌になるリスクが1〜2%高まるかもしれないが、癌になるリスクが25%から26%〜27%に高まることになったとしても、戻りたい。帰還が許されていないとしたら、それは悲劇です」

 彼は被災地の空間放射線量には問題を見出さず、自分だったら戻ってくると明言した。

福島Jヴィレッジのモニタリングポストが示した空間線量は、2018年10月の訪問時、0.13マイクロシーベルト/時だった。筆者撮影。
福島Jヴィレッジのモニタリングポストが示した空間線量は、2018年10月の訪問時、0.13マイクロシーベルト/時だった。筆者撮影。

富岡町のモニタリンングポストが示した空間線量は、2018年10月の訪問時、0.086マイクロシーベルト/時だった。筆者撮影。
富岡町のモニタリンングポストが示した空間線量は、2018年10月の訪問時、0.086マイクロシーベルト/時だった。筆者撮影。

問題は高放射性粒子か?

 しかし、ガンダーセン氏は地表1メートルで測定される空間放射線量ではなく、放射性物質に含まれる高放射性粒子を懸念している。除染されていない森林地帯にある高放射性粒子が風雨によって市街地に運ばれ、人がそれを吸い込んだり、食べ物を通して人体に取り込んだりすることで、健康被害を引き起こす可能性があるというのである。

 グリーンピース・ジャパンも、大雨が引き起こす再汚染のリスクや一度除染が行われた場所であっても再汚染が起きていることを問題視している。

 ガンダーセン氏は、五輪に出場するアスリートや北日本を訪問する人々が身につけている靴ひものダストの放射性物質を分析する計画をしているという。それにより、居住地域の再汚染状況を把握しようとしているのだ。

 これからも、ガンダーセン氏の独立調査は続く。

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(参考記事)

Japan Hasn’t Recovered 10 Years After Fukushima Meltdown

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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