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「廃炉には100年かかる」米原子炉専門家に聞く 3号機3つの懸念 福島原発事故10年 #あれから私は

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
福島第一原発3号機のトップ部分。(写真:ロイター/アフロ)

 福島第一原発事故から10年。

 この間、福島第一の問題と原発の危険性を声高に訴えてきた人物がいる。米“フェアウィンズ・アソシエイツ”でチーフ・エンジニアを務める原子炉の専門家で、著書に『福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)』があるアーニー・ガンダーセン氏だ。

 長年にわたって、原子炉の設計、運営、廃炉に携わって来た同氏はスリーマイル島の原発事故を研究したことで知られ、福島原発事故後も日本を訪問して独立調査を行っている。2016年に福島を訪問した際は、同地で再汚染が起きている可能性について調査した。

 事故直後、筆者は、バーモント州にあるガンダーセン氏のオフィスを訪ねてインタビューを行い、その後も、折に触れ、何度も話を伺ってきた。

 そのガンダーセン氏は、日本テレビが2月12日に公開した、リマスターされた福島第一3号機の爆発ビデオとビデオ内で紹介されている原子力規制委員会の報告を見て3つの懸念を見出している。いったい、どんな懸念なのか話をきいた。

ーーリマスターされた爆発ビデオについて、どのように分析されますか?

 まず最初に、10年前にあの爆発映像を撮った日本テレビの勇気に感謝します。また、今回、リマスタリングされたことも科学者にとっては喜ばしいことです。しかし、私はこの映像を見て、3つの懸念を抱きました。

 第1に、爆発原因に関するTEPCO(東京電力)の技術的な解釈に大きな懸念を感じています。

 爆発には大きく爆燃と爆轟の2つがあります。前者は福島第一1号機や私が研究したスリーマイル島の原発事故で発生した爆発で、600マイル/時(965キロ/時)の速度で起きました。後者は福島第一3号機で発生した、非常に破壊的な超音速での爆発です。映像を見ると、最初に明るい赤い閃光が起きていることがわかるでしょう? 我々がその赤い閃光の速度をその近くにあるタワーの高さをベースにして測定したところ、900マイル/時(1448キロ/時)という超音速だったのです。

 2011年に私がこのことを発表すると、爆発専門のエンジニアたちがコンタクトしてきて、爆轟だとする私の分析に同意しました。

 爆轟に耐えられる格納容器など世界中のどこにもありません。そのため、原発産業は、爆轟の発生を認めることができないのです。格納容器が爆轟で破壊されるものであることを認めてしまったら、その中に、肝心の核燃料を入れられなくなりますから。

 3号機については、この爆轟がどのようにして起きたかまだ解明されていません。水素は室温では爆轟を引き起こさないからです。

 私としては、爆轟がどのようにして起きたかについて解明されるまでは、いかなる原発も稼働されるべきではないと考えています。そうしないと、福島第一の悲劇が繰り返されることになるからです。

 第2に、TEPCOが、格納容器の上部で新たに見つかったと指摘している致死的な放射線量の原因を爆発に見出していることに懸念を感じています。

 というのは、私の分析では、放射能は爆発前からリークしていたからです。1号機と3号機は3月12日の朝までにはリークを始めていたはずです。ベントするために作業員が送り込まれましたが、放射線量は作業員が来る前から高まっていました。ベントの時はすでにリークが始まっていたのです。リークが始まったのは、冷却水がストップして、格納容器内の温度が高まり、プレッシャーが急上昇したからです。

 第3に、TEPCOが最初の爆発の3秒後に、2回目の爆発が起きた可能性について議論していないことを懸念しています。

 リマスターされた日本テレビの爆発映像は2回の爆発が起きたことを示しています。大きな黒煙が垂直に舞い上がった直後、白い煙が北の方角に水平に流れたのが見て取れます。これも、何が起きたかまだわかっていません。

ガンダーセン氏は、最初の爆発で黒煙があがった(赤いサークル)後に2回目の爆発(黄色いサークル)が起きた可能性があると考えている。写真:fairewinds.orgからキャプチャー。
ガンダーセン氏は、最初の爆発で黒煙があがった(赤いサークル)後に2回目の爆発(黄色いサークル)が起きた可能性があると考えている。写真:fairewinds.orgからキャプチャー。

ーー解明されていないことがたくさんあるわけですね。

 特に、3号機にはミステリーが多いのです。2号機もはっきりとは目に見えないものの、私の分析では爆発が起きていました。3つの原子炉はいずれも爆発していたのです。

ーー2月にも福島沖で大きな地震が起きましたが、原子炉への影響をどうお考えになりますか?

 1号機は水位を維持することができなくなっているようですね。それは、地震により、格納容器の割れ目から水が漏れ出していることを示唆していると思います。水が漏れ出ているため、水位が低下し、注水量を増やさなくてはならなくなっているのでしょう。また、その汚染水が地下水になったり、太平洋に流れ出したりすることも懸念しています。

ーーさらなる調査が必要になりますね?

 何度かお会いした菅元首相が、私にこう言いました。

「TEPCOとMETI(経済産業省)から受け取った情報は、タイムリーではなかったし、正確でもありませんでした」

 IAEA(国際原子力機関)やTEPCO、METIなどと繋がりがない、例えば、大学の研究機関などが独立調査を行う必要があると思います。

ーー廃炉にもまだまだ時間を要するのでしょうか?

 福島第一は2050年までに廃炉すると言っていますが、あと30年で廃炉できるとは思いません。私は事故から100年かかるとみています。スリーマイルの原発事故の場合は、炉心は原子炉内に留まっていましたが、福島第一の場合、溶融した放射性炉心がどこにあるのかさえ見つけることができていない状況なのですから。

 また、TEPCOが炉心をどのように取り除き、その炉心をどうするのかもわかりません。

 それに今、高放射線量の土壌と水が福島第一の下にあります。それをクリーンナップするのにまた30年かかるでしょう。廃炉まで100年かかる問題なのです。廃炉のコストも最低でも5,000億ドル(約54兆円)はかかると予測しています。

ーー社会にかかるコストは大きいということですね。

 菅元首相は「原発事故が起きると、人々が苦しみ、国も危険に晒される」とお話されていましたし、ゴルバチョフ元大統領も回顧録の中で「ペレストロイカではなくチェルノブイリがソ連を崩壊させた」と述べています。

 私たちは原発は国を崩壊させる可能性があるものなのだと認識する必要があると思います。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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