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米・コロナ禍の感謝祭「5千万人の大移動」に「許せない。新型コロナ地獄になる」の声 日本はどうなる?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
コロナ禍にもかかわらず、感謝祭を家族と過ごすため「アメリカ人の大移動」が起きた。(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカは、感謝祭の大型連休に突入した。

 感謝祭というと、アメリカでは、一年の中でも、家族が集まる最大のイベントと言っていい。そのため、コロナ禍にもかかわらず、11月26日の感謝祭を家族や友人と過ごそうと、多くの人々が移動した。

 アメリカ国土安全保障省によると、感謝祭に先駆け、11月20日以降飛行機を利用して移動した人々の数は約500万人にも上った。これほど多くの人々が飛行機に搭乗したのは、米国各地で緊急非常事態宣言が出された3月半ば以来のことだったという。

 車や電車で移動した人々も数多い。感謝祭のホリデーで移動するアメリカ人の数は5,000万人と推定されていた。

 アメリカでは、11月半ば1日の新規感染者数が17万人を突破、11月24日には1日の死者数が2,000人を超えた。“感染爆発”が起きる中、「アメリカ人の大移動」はなぜ起きてしまったのか?

CDCの警告が遅れた

 その理由として指摘されているのが、CDC(米疾病予防管理センター)の警告が遅れたことだ。

 CDCは「旅行は新型コロナウイルスに感染したり、感染を拡大したりする可能性を高める。感謝祭の旅行計画をキャンセルすることが自分や他の人々を守る最善の方法だ」とウェブページで警告したが、この警告が出されたのは、人々の移動開始の前日11月19日のことだった。多くの人々は、とっくの前に飛行機の予約をしていたのだ。

 そのため、「人々はCDCの発表を移動の前日に知った。CDCは何週間も前から、警告すべきだった」という声が人々からあがった。明らかに、CDCの警告は遅きに失したのである。

 同様に、先週末の「勤労感謝の日」の連休に対し、日本政府が国民に対して行なった感染対策の呼びかけも遅きに失したようだ。加藤官房長官が感染対策を呼びかけたのは連休直前の18日午後のことだったからだ。しかも、感染者数が増加していたにもかかわらず、「旅行者や観光事業者が感染拡大の防止対策をしっかり実施すれば、移動による感染リスクを低く抑えることができるのは、これまでの“GoToトラベル”の実績から確認できる」と言及したに止め、旅行の自粛まで呼びかけることはなかった。「我慢の3連休にしてほしい」と自粛を呼び掛けたのは、日本医師会の中川俊男会長だった。行政側からの早期の呼びかけがない結果、多くの人々が前からGoToトラベルで予約していたツアーを取りやめず旅行に出かけたわけである。

人々のコロナ疲れ

 また、アメリカで人々が感謝祭の大移動をした理由について、コロナ禍の心の問題も指摘されている。

「人々は“コロナ疲れ”してしまっているのでしょう。“移動するという行動が新型コロナウイルスを拡散する可能性がある”という現実を受け入れず、自分がしたいことを正当化しているのです」

とバッファロー大学教授のトーマス・ルソー氏は話している。

 移動すれば感染が拡大する可能性はあるが、コロナ禍、長い間会うことができていない家族には会いたい。十分に感染予防すれば、きっと感染しないし、人にも感染させないだろう。そんな何の保証もない、あやふやな推測の下、人々は感謝祭を理由にして移動することを正当化してしまったのだ。

“新型コロナ地獄”になる

 しかし、5,000万人もの人々の大移動によって、“十分な感染予防”からはほど遠い状況が生じてしまった。

 以下の動画は、CDCが感謝祭の旅行をキャンセルするよう警告を出した翌日のアリゾナ州フェニックスのスカイ・ハーバー空港の様子。

 密極まりないこの動画の光景に対し、多くの批判のツイートがあがった。

「まさにこのような人々がいるから、1,000人以上の医師や看護師が新型コロナウイルスで亡くなったのよ。ユタ州では、もう、集中治療室のベッドは空いていません。ここにいる人々は自分が特別だと思っているのかしら。彼らは特別ではないわ。許せない」

「医療関係者たちがとても気の毒だわ」

「2週間後のアメリカが想像できないわ。“新型コロナ地獄”になっていることでしょう。このような人々のためにね」

 専門家の中からは、感謝祭の大移動や家族との集まりでスーパー・スプレッダー・イベントが起き、感謝祭の数週間後には、現在すでに起きている“感染爆発”にさらに拍車をかけるのではないかという懸念の声があがっている。

 CDCの遅過ぎた“旅行キャンセル警告”と人々の“コロナ疲れ”で起きた「5,000万人のアメリカ人の大移動」。

 日本では、家族が集まる最大のイベントはお正月だ。多くの日本人が年末年始、大移動することだろう。

 そのお正月まであと1ヶ月余り。冬に入り、日本でも感染者数が激増している。行政側は、CDCのように後手にならぬよう、今から、年末年始の移動を控えるよう警告を出す必要があるのではないか? 

 そして、人々も“コロナ疲れ”に負けることなく、お正月を理由にして移動を正当化していいのか自問すべき時ではないだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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