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菅・バイデン会談「バイデン氏は中国を怒らせた」英紙 過去には「中国が米国に勝つ?まさか」発言も

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
中国が固有の領土と主張する尖閣諸島に日米安保条約を適用すると宣言したバイデン氏。(写真:ロイター/アフロ)

 「バイデン氏が勝利すれば、この国は中国に乗っ取られ、中国が勝利することになる」

 大統領選の際、しきりにこう訴えていたトランプ氏。

 バイデン次期大統領は中国に対してどんな対応をするのか? トランプ氏同様、強硬路線をとるのか? それとも、トランプ氏の予言通り、弱腰になるのか? 

中国が米国に勝つ?まさか

 バイデン氏の中国に対する過去発言を振り返ってみる。

 例えば、2017年11月、同氏はシカゴ・グローバル評議会で演説をした際、こう発言している。

「中国には成功してもらいたい。中国が我が国に勝つって? 彼らには十分なエネルギーもないし、十分な水もない」

 また、2019年5月、アイオワ州で行われた選挙集会でもバイデン氏は類似の発言をした。中国に貿易戦争を仕掛けたトランプ氏の関税政策を批判した際、以下のように述べたのだ。

「中国が我々に勝つって? まさかだよ。彼らは、シナ海地域と西側山間部の間に生じている大きな分断にどう対処したらいいかさえわかっていない。彼らは、システム内にある腐敗にどう対処したらいいかわかっていない。彼らは悪い人たちではない。我々の競争相手にはならない」

 まるで、中国の脅威を軽視した、中国は無能だとでもいわんばかりの発言は、共和党議員だけではなく民主党議員の反感も買った。

 民主党大統領候補の中では同氏の最大のライバルだったバーニー・サンダース氏も「私が反対票を投じた中国との貿易協定以降、アメリカは300万以上の製造職を失った。“中国は経済競争の大きな相手ではない”と偽ることは間違っている」と言って批判した。

 元来、民主党は共和党と比べて対中政策が弱腰であると考えられてはいるものの、昨年、民主党大統領候補に出馬した候補者たちの中でも、バイデン氏は中国に対して最も弱腰だったと言われている。フォーブス誌は「ジョー・バイデンは、2020年、中国を救う唯一の男だ」という皮肉まで述べている。

 反中姿勢は超党派的に強くなっているアメリカである。バイデン氏の発言はあまりにも無知な発言に聞こえてしまったようだ。

同盟国に対中強硬路線を示す

 しかし、そんな過去の対中発言に対する批判を払拭するかのような姿勢を、次期大統領となったバイデン氏は示した。菅首相との初の電話会談で、日米安保条約を日中の係争地である尖閣諸島にも適用すると宣言したのだ。

 この宣言に対し、英紙「ファイナンシャル・タイムズ」が、「バイデン、日米安保条約を係争地尖閣諸島に適用と発言」というタイトルで、“バイデン氏は、中国政府に対して強硬路線を取ろうとしているとする初期信号を同盟国に送っている”と報じている。

 ちなみに、日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域に対して武力攻撃が起きた場合、アメリカは日本を防衛すると確約している。

 そもそも、2014年、尖閣諸島は日米安保条約の適用対象であると、アメリカの大統領として初めて明言したのは当時大統領だったオバマ氏だが、バイデン氏は今回の発言で、オバマ氏の判断を踏襲したことになる。

 オバマ氏についてトランプ氏は「中国は、特にオバマ政権時代、我が国につけこんだ。米国は中国と非常に大きな競争をしている」と言って、オバマ氏の対中融和政策を批判していたが、失敗とも見られていたオバマ氏の対中融和政策を繰り返さぬためにも、バイデン氏は最初から対中強硬路線を示して見せたのかもしれない。

 また、バイデン氏のアジア地域アドバイザーのジェフ・プレスコット氏が、10月、「習近平氏は中国をより独裁主義的な方向に向かわせており、次期大統領は中国との関係を修正する必要がある」と言及していたことも、今回のバイデン氏の対中強硬路線発言に繋がったと思われる。

中国は怒り、尖閣の権利を主張

 当然のことながら、中国側はバイデン氏の発言に怒った。

 前述の「ファイナンシャル・タイムズ」は「日本に対して(オバマ氏がした安保条約の)確約を再び行うということで、バイデン氏は中国を怒らせ、中国はますます権利を主張した」と指摘している。

 実際、中国側は「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国固有の領土だ。日米安保条約は冷戦の産物で、地域の平和と安定を損なうべきではない」と批判して、尖閣諸島に対する中国の権利を主張した。

中国に対する配慮か

 もっとも、バイデン氏の対中強硬路線は同盟国向けのパフォーマンスに過ぎないかもしれない。中国を怒らせないような配慮もなされているからだ。

 メディアに対して出した菅氏との電話会談内容の要約(政権移行チームのホームページにも掲載されている)では、バイデン氏の政権移行チームは「次期大統領は、日本の防衛と日米安保条約第5条下でのアメリカの公約に深くコミットすると強調した」と記すに止め、尖閣諸島という具体名については言及していないのである。

 同盟国に対しては中国に対する強硬姿勢も見せつつも、トランプ氏が引き起こした米中貿易戦争を平和裡に解決するためには中国を怒らせないよう顔色をうかがわなければならないバイデン氏。同盟国と中国の板挟みになったバイデン氏が、中国に対してどんな舵取りをするのか注目されるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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