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誰がジョージ・フロイドを殺したのか? 元連邦検事が分析 米黒人暴行死、その後

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
フロイドさんが暴行死した後も、黒人男性に対する警官の暴力は続いている。(写真:ロイター/アフロ)

 ジョージ・フロイドさんが警官らによる暴行で亡くなって3ヶ月。その後、フロイドさん暴行死事件はどうなっているのか?

 注目されたのは、英『デイリーメール』が独占入手して公開した以下のビデオだ。起訴された警官が携行していたボディカメラで撮られたビデオで、警官たちがフロイドさんをパトカーに押し込もうとする様子とそれに抵抗するフロイドさんの姿が映し出されている。

 以前の投稿で、ボディカメラの会話の記録が公表されたことについて書いたが、その会話の記録の元となったビデオである。

 このビデオは議論を呼んだ。フロイドさんが激しく抵抗しているからだ。そのため、Twitterでは「警官の指示に大人しく従っていれば、死ぬことにはならなかったのではないか」という声や「ドラッグでトリップしている」と指摘する声もあがった。

すでに「息ができない」と言っていた

 そんな中、このボディカメラの映像や薬物検査報告を分析した元連邦検事及び元州検事のジョージ・パリー氏が、保守系の雑誌『アメリカン・スペクテーター』で、起訴された警官たちは無実だと主張している。

 パリー氏は1978年から1983年まで、フィラデルフィア州検察局“警官の暴力”ユニットのチーフとして、警官の暴力を調査し、警官を起訴していた。

 そのパリー氏がこんな結論を出した。

「誰がジョージ・フロイドを殺したのか? 彼自身だ」

 つまり、フロイドさん自身が自身を死に追いやったというのだ。

 その根拠として、パリー氏は以下の主張を行っている。

・ボディカメラの映像によると、警官がフロイドさんの首に膝を押しつけるよりも前から、フロイドさんは繰り返し「息ができない」と何度も訴えていた。つまり、誰もフロイドさんの首や背中や胸に圧力を加えていないにもかかわらず、彼は「息ができない」とすでに訴えていた。

・なぜ「息ができない」と訴えていたのか? 答えはフロイドさんの検死報告と薬物検査報告の中にある。報告によると、フロイドさんは、首や背中への圧迫ではなく、血中にあった致死量の3倍を超えるフェンタニルによって呼吸困難に陥っている。致死的なフェンタニルの血中濃度は最低3ng/mLだが、彼の血中にはそれが11ng/mLもあった。フェンタニルは重篤な呼吸障害、発作、低血圧、昏睡、死を引き起こす可能性がある。

・CDC(米疾病予防管理センター)によると、フェンタニルの過剰摂取で最もよく見られる症状として、口の泡、混乱、異様な振る舞いとその後に起きる無反応がある。

・フロイドさんの血中には、幻覚症状やアグレッシブな行動、支離滅裂な反応、混乱、循環虚脱、痙攣、パラノイア、呼吸困難、昏睡、死を引き起こすメサンフェタミンも含まれていた。

・ボディカメラの映像によると、抵抗を続けたフロイドさんは支離滅裂の異様な行動を見せており、警官の指示に従わず、口にはフェンタニルを摂取したことを示す泡がついていた。歩いたり立ち上がったりすることも思うようにできず、横になりたがっていた。また、座っている時も立っている時も地面に横になっている時も「息ができない」と訴えていた。

・検死結果によると、死を引き起こすような肉体的外傷は見られなかった。

・フロイドさんの口の泡、支離滅裂な態度、肉体的にうまく動けない状態、指示に従わない態度、呼吸困難、迅速に無意識に陥っていく様、そして死は、彼が危険なメサンフェタミンが混合された致死量のフェンタニルを摂取していたという薬物的証拠で十分に説明がつく。

・つまり、フロイドさんは、警官に捕まった時はすでに死を目前にしていた。

 以上の分析から、パリー氏はこんな結論を出したのである。

「ジョージ・フロイドを殺したのは彼自身だ」

 そしてこう訴える。

「被告人らは無実だ」

 また、フロイドさんの死後、各地で暴動が起きたことから、こんな疑問を投げかけている。

「被告人たちは公正な裁きを受けられるだろうか?」

 起訴された警官の1人、レーン容疑者の弁護士アール・グレー氏も、米紙『ロサンゼルス・タイムズ』で、パリー氏と同様の考えを述べ、裁判での戦略に言及している。

「どの警官も、ショービン容疑者も、実際、フロイドさんを殺していない。彼は自ら自身を死に追いやったんだ。フロイドさんは、強いオピオイド系フェンタニルの過剰摂取と心疾患という基礎疾患があったために死んだと(裁判で)主張するつもりだ。私のクライアントや他の警官たちは、自分の職務を遂行していたことを証明する」

9分30秒間も圧迫されていた

 フロイドさんはフェンタニルという危険なドラッグを致死量の3倍以上も摂取していたために死んだと主張する検察側。

 しかし、コロンビア大学の神経科学者カール・ハート氏はこれに反論する。

「向精神薬に対する人間の反応は非常に複雑で、フェンタニルの濃度だけを根拠に結論を引き出すことはできない。濃度は素早く変動し、薬が体内で崩壊するために死後増加するからだ。警官が首を膝で押しつけなかったら、フロイドさんは今生きている可能性は高い」

 確かにビデオを見ると、フロイドさんは地面に押さえつけられる前から「息ができない」と何度も訴えている。ドラッグも摂取していた。心臓の基礎疾患もあった。しかし、ドラッグや基礎疾患により、ビデオの中のフロイドさんと同じような行動をとる人はいるだろうし、同じような行動をとる人々が死ぬとは限らない。ハート氏が指摘したように、フロイドさんの命に止めを刺したのは首への長時間にわたる圧迫だったのだ。

 しかも、公開されたビデオによると、ショービン容疑者がフロイドさんの首に膝を押しつけていた時間は、検察側が当初考えていたより44秒も長い、9分30秒間だったこともわかった。

 また、死因は警官に拘束された間に起きた心肺停止とされているし、フロイド一家の依頼で行れた検死でも死因は窒息死だった。

殺意はあったのか?

 ショービン容疑者は殺人罪で、他の3人の警官たちも共犯として起訴されたが、裁判では、警官に殺意があったかどうかも争点になると言われている。

 前述のグレー氏は警官らに殺意はなく、警官らはフロイドさんのことを心配していたと主張している。彼らは、パトカーにフロイドさんを押し込もうとした時にフロイドさんの口にできた擦り傷から血が出ているのを見て、救急車を呼んだという。「警官が彼を殺したり、傷つけたりする意図を持っていたとしたら、なぜ彼らは救急車を呼んだんだ?」とグレー氏は話している。

 殺意を証明するのは難しい。しかし、検察側はショービン容疑者の殺意を必ずしも証明する必要はないようだ。法律の専門家は、彼が重暴行の過程でフロイドさんを死に至らしめたことを証明すればいいと指摘している。

 ショービン容疑者の重暴行は確かに無謀なものだった。精神錯乱状態に陥っていたフロイドさんを懸念し、フロイドさんの身体を動かそうと言ったレーン容疑者の提案をショービン容疑者は拒否し、「そのままにしておけ」と言い放った。ショービン容疑者はフロイドさんが死ぬ可能性を見出せなかったのか。

 警官らの無謀な重暴行による殺人。しかし、警官が、職務中に人を殺したために有罪になることはめったにないことも指摘されている。

 それでも、警官の暴力に対する世論の追及は高まっている。8月23日、ウィスコンシン州では、黒人男性が警官に撃たれる事件が発生し、男性の下半身にまひが残る可能性があることが明らかになった。事件に抗議する市民が暴徒化し、建物に火を放つ事態も起きている。

 4人の警官の裁判は来年3月に始まる予定だが、警官の暴力に対する非難が高まる中、果たして彼らにどんな刑罰が下されるのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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