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世界的投資家ジム・ロジャーズ氏とは何者なのか? シンガポールで見た素顔

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ジム・ロジャーズ氏。シンガポールの邸宅にて。写真:TAKAO HARA

 世界的投資家ジム・ロジャーズ氏。

 ジョージ・ソロス氏、ウォーレン・バフェット氏と並んで「世界三大投資家」の1人として知られる「投資の神様」だ。ソロス氏とはクォンタム・ファンドを共同設立、10年で4200%という驚異的なリターンを叩き出した伝説の投資家でもある。

 ロジャーズ氏とは何者なのか?

 同氏にインタビューするため、2月半ば、私はシンガポールにあるロジャーズ氏の邸宅を訪ねた。

 その時に取材翻訳した『ジム・ロジャーズ 世界的投資家の思考法』(講談社刊)が近日発売となるが、同著では紹介しきれなかったロジャーズ氏のお話を、数回にわたってお届けできたらと思う。

見たままの人

 ロジャーズ氏とは、8年前から、電話やスカイプ取材を通じて交流させていただいている。もう何回、お話をうかがっただろう。そして、その度に感嘆した。

 よくここまで赤裸々に話して下さるなあ!

 様々な雑誌の取材で、多くのアメリカの識者に、日本の政治経済状況に対する見解についてインタビューしてきたが、多くの方が奥歯に物が挟まっているような話し方をする。日本人である私のことを気にしているからか、あるいは、中には、日本の政治経済にアドバイザー的な立場で関わっている人もいるからかもしれない。その度に何か物足りなさを感じているのだが、ロジャーズ氏の場合、そんなことが全然ない。

 そこまで言っちゃっていいんでしょうか、とこちらが心配になってしまうくらいだ。

 今回、お目にかかったロジャーズ氏も、いつもと変わらず、歯に衣着せず、思うところを話して下さった。

 What you see is what you get.

 アメリカ人が人柄を表現する時に、よく口にするフレーズだ。

邦訳すると、「見たまま」が適切だろうか。裏表がないのである。何か隠し事をしているような気配やトリッキーな部分がなく、正直に、思っていることや感じている本音を話し、また、それに従って行動する。

 ジム・ロジャーズ氏は、まさにこの表現がよく当てはまる。とてもオープンな人柄と言っていい。そして、同氏からは、“いつも大歓迎”と感じさせてくれる寛容さも漂う。

 今回、3階建の豪邸の撮影をさせていただいたのだが、「どこを撮ってもいい」と言う。お言葉に甘えて、隅々まで撮影させていただいた。

ロジャーズ氏の邸宅入り口に置かれている2つの巨大な地球儀の前で、ロジャーズ氏と。写真:TAKAO HARA
ロジャーズ氏の邸宅入り口に置かれている2つの巨大な地球儀の前で、ロジャーズ氏と。写真:TAKAO HARA

世界を愛する冒険家

 邸宅はロジャーズ氏の生き方を映し出していた。

 カメラが捉えたのは、邸宅のあちこちに飾られている大小の地球儀や世界地図の数々。ロジャーズ氏は、1度目はバイクで、2度目は車で世界を1周し、その大冒険時代から多くを学んだ。

 1999年から2002年にかけて行った、車による世界1周大冒険では、妻のペイジさんと、カスタムメイドのメルセデスで24万5,000キロ走り、6大陸111カ国を制覇、ギネス記録を達成した。

 ロジャーズ氏は大きな笑顔で言う。

「世界が好きだ。そこにいる人々が好きだ」

伴侶のペイジさんと一緒にした2回目の世界1周大冒険では、ギネス記録を打ち立てた。筆者撮影。
伴侶のペイジさんと一緒にした2回目の世界1周大冒険では、ギネス記録を打ち立てた。筆者撮影。

時間をフル活用

 ロジャーズ氏はまた、時間をフル活用している。多忙ながらも、できるだけ時間を見つけて対応して下さる。

 これまでも「今からエレベーターに乗るので数分お話しできません」「今から病院なので終わったら連絡します」と、こちらが恐縮してしまうくらい、日常生活の隙間隙間でインタビューに対応して下さったこともあった。

 ロジャーズ氏の豪邸には、プールのそばにワークアウト用のスペースがあるが、今回もそこに設置されているエアロバイクをこぎながら、インタビューに応じて下さったりした。ハーハーと息を切らしながらも、丁寧に質問に答え、入って来たメールにも、エアロバイクに設置されているパソコンで、すぐに返事を返す。時間を余すところなく有効に使っている様が見て取れた。

 体力にも驚かされた。齢77ながら、エアロバイクをこぎ続けたこと約1時間。その後は、30分ほどかけてダンベル運動や腹筋もした。ワークアウトは、ロジャーズ氏にとって欠かせない日課だ。

 時間を大切にするロジャーズ氏は、テレビも時間の無駄なので見ないという。

「子供にも時間の浪費をしてほしくないのです。それに、今は、ネットで、KPopでもドラマでも好きなものはなんでも見ることができます。2020年の今、テレビは必要ありません」

送迎とお昼ご飯のひと時

 ロジャーズ氏が何より大切にしているのは、家族と過ごす時間だ。

 取材の日、ロジャーズ氏は、午前5時着の飛行機で韓国からシンガポールに戻ってきたが、家に戻ったその足で、次女のビーさんを学校に送り届けた。ペイジさんが運転する車の中で、ビーさんとおしゃべりする時間は、ロジャーズ氏にとって、かけがえのないひと時だ。

 ビーさんが学校から戻る時間になると、運転手つきのメルセデスでビーさんのお迎えにも行く。そして、帰宅するとメイドさんが作ってくれたお昼ご飯を一緒に食べる。その様子を撮影していた時、ビーさんが可愛いオルゴールを見せてくれた。それはロジャーズ氏からの旅土産だった。

 ロジャーズ氏の1日を見て思った。

 寸暇を惜しんで、一生懸命に生きている。

 そんなひたむきな生き方は、今、世界から失われつつある。

 ロジャーズ氏はそのことを憂う。

「世界からは今、勤勉さというものが失われています。そして、嫉妬という感情が渦巻いています」

 ロジャーズ氏が指摘する勤勉さとは何か? 嫉妬とは何か?

 次回は、それについて、紹介できたらと思う。(次回に続く)

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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