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米暴動 75歳男性を突き飛ばした警官2人を重暴行罪で起訴 警察の暴力問題 1日3人が警官に撃たれ死亡

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
デモでは、人種差別とともに「警察の暴力」に抗議する声も多い。(写真:ロイター/アフロ)

 ジョージ・フロイドさんの暴行死を引き金に、全米で続く抗議デモ。デモ参加者たちは、人種差別とともにPolice Brutality=警察の不当な暴力に対して抗議の声をあげている。

 市民を守るべき警察が市民に暴力をふるう不正義に、米国民の怒りは収まらない。

拡散される「警察の暴力」動画

 そんな中、今、ツイッターでは、「警察の暴力」動画が多数拡散されている。

 特に、#hes75(彼は75だ)というハッシュタグでトレンディングとなり、米国時間6月6日までに7,900万回以上も視聴されたのが、米国時間6月4日、抗議デモが起きたニューヨーク州バッファロー市で撮影された以下の動画(上)。

 警官隊に近づき、声をかけた75歳の男性(デモに参加していた平和運動の活動家)が、2人の警官に突き飛ばされて転倒している。しかし、警官たちは仰向きに倒れた男性を気遣う様子もなく、通り過ぎて行く。「警察の暴力」というだけではなく、これでは高齢者虐待だ。

 75歳の男性は耳から出血するほどの重傷を負い、救急車で搬送された。突き飛ばした2人の警官はすぐに停職処分となったが、米国時間6月6日、第2級暴行罪という重罪(有罪となった場合、最長7年の懲役)で起訴された。

 しかし、恐るべきことに、起訴された2人の警官は、罪状認否で無罪を申し立てた後、裁判所前に集まった人々から大きな拍手をもらったのだ(下の動画)。その中にはアメリカの国旗を手にしている者もいたという。

 これに対してツイッターでは、「なぜ暴力を働いた警官たちに拍手を送るのか」「むかつく」「アメリカは死んだ」「悲しい」と非難の声が多数あがっている。

 米ニューヨークタイムズによると、拍手を送った人々は、2人の警官を支援する警官や消防士たちだった。2人の警官が停職処分になった後、緊急対応チームの57人の警官たちが彼らへの対応はアンフェアだと怒って抗議の辞任をしたが、この日、彼らの起訴に反対する支援者たちが集まったのだ。

 一方、支援者たちに抗議する人々も現れ、「悪い警官ではなく、いい警官を支援しろ」とメガホンを持って叫んだという。

 ハリウッドでも「警察の暴力」が問題となった。8人の警官が女性を押さえ込んでいる以下の動画が拡散され、ロサンゼルス・タイムズが取り上げた。女性は警官らに取り囲まれ、通りに横たえられているように見える。テーザー銃のブブブと言う音も聞こえる。その光景を見た市民が「止めて」と大声で叫んでいる。警官は自分たちを撮影している市民に、ゴム弾を発射したという。

 フィラデルフィアでは、警官たちがデモ参加者を警棒で過剰に殴打したことを多数のメディアが報じた。その光景は、警官をギャングと呼ぶつぶやき「今日、フィラデルフィアでは、自転車ギャングがデモ参加者を殴打した」とともに拡散されている。

 その他にも、警官に身体を蹴られたり、放たれた猛犬に足を噛まれている動画が拡散されている。ちなみに、トランプ大統領は先日、暴徒化したデモ隊に対して猛犬を放つ可能性もあると言及した。

 スマホとSNSの普及で、長い間、人の目にはさらされることのなかった「警察の暴力」が、今、次々露呈されている。

1日3人が警官に撃たれて死亡

 アメリカでは、毎年、警官に撃たれて死亡する人々も数多い。

 米ワシントンポストは、FBIが警官から撃たれて死亡した人の数を半数以上も過少報告していることを疑問視、独自調査に乗り出した。同紙の調査によると、警官から撃たれて死亡した人の総数は、調査を開始した2015年1月1日からから米国時間6月5日まで5,389人。毎年約1,000人が警官に撃たれて亡くなっているという。

 ちなみに、2019年はその数が1042人だった。平均すると、アメリカでは、1日約3人が警官に撃たれて死亡していることになる。

黒人が警官に撃たれて死亡する割合は、白人の2倍以上。出典:washingtonpost.com
黒人が警官に撃たれて死亡する割合は、白人の2倍以上。出典:washingtonpost.com

 また、黒人市民の人口はアメリカの全人口の13%以下だが、警官に撃たれて死亡する黒人市民の数は100万人中31人と、白人市民の100万人中12人の2倍以上にも上っている。

黒人の死亡リスクは白人の2.5倍

 ラトガース大学の社会学者フランク・エドワーズ氏の研究によると「警察の暴力」による被害を最も受けているのは黒人男性だ。生涯のうちに、黒人男性の1,000人に1人が「警察の暴力」で死亡するリスクがあるという。この割合は、白人男性の2.5倍だ。

 特に、25〜29歳の黒人男性の場合、10万人中3.4人が「警察の暴力」のため死亡している。そのリスクは、以下の表が示しているように、インフルエンザや肺炎よりも高いのだ。

25歳〜29歳の黒人男性の場合、10万人あたり3.4人が「警察の暴力」により死亡している。出典:CDC
25歳〜29歳の黒人男性の場合、10万人あたり3.4人が「警察の暴力」により死亡している。出典:CDC

 「警察の暴力」というパンデミックも蔓延するアメリカ。

 フロイドさん事件が、人種差別問題とともに、このパンデミックを解決へと導く、大きな契機になってくれたらと願う。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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