Yahoo!ニュース

【新型コロナ】パチンコ店営業問題に「日本の社会的距離戦略に限界」「まったく愚かだ」の声

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
日本の「社会的距離戦略」の実行力に限界か?(写真:ロイター/アフロ)

 日本のパチンコ店が今だに営業していることを伝える英語圏での報道をいくつか目にした。

 例えば、ブルームバーグ通信は「日本のギャンブラーは、安倍氏の無力な緊急事態宣言を無視」というタイトルで、

「東京のパチンコ店の行列は、日本の社会的距離戦略の実行力に限界があることを証明している」

「ギャンブラーは、プレイできる場所を探して遠方から来るため、ウイルス拡散の懸念が高まっている」

と社会的距離戦略が徹底して行われていない状況を問題視している。

 そもそも、コロナ危機の真っ最中、パチンコ店のような、真っ先に閉鎖されるべき遊興施設がオープンしていること自体、世界にとっては信じがたい現象に違いない。

 ツイッターでも驚きの声があがっている。

「パチンコ・パーラーは、休業要請を無視している。客はマスクをつけているが、社会的距離を十分にとっていない」

「安倍氏が税金の無駄使いをして作ったマスクは不良品だし、パチンコ・パーラーには長い列ができている。さて、日本が次にしでかす失敗は何かな?」

「まったく、非常に愚かだ」

「緩い外出自粛令は機能していない」

韓国のコロナ対策が最善

 果たして、どんな対策が新型コロナとの闘いでは最も有効なのだろうか?

 アメリカのメディアで度々コメントしている感染症研究の第1人者、カリフォルニア大学バークレー校疫学教授のアーサー・レインゴールド氏に話をきいた。レインゴールド氏は言い切る。

 「政府は韓国が取った新型コロナ対策を行うべきだと思います」

 レインゴールド氏はその対策について、こう説明した。

「検査を数多くして、感染者を発見し、感染者と接触した人々を追跡して発見し、彼らを隔離して、感染を抑えるのです。当時に、社会的距離戦略も取り続けることです」

 「大規模検査」と「社会的距離戦略」が大きな柱というレインゴール氏。

 レインゴールド氏の説明を聞きながら思った。日本では、どちらも十分に行われていないではないか。

1桁違う100万人当たりの検査数

 まず、今、世界では、どれほどの検査が行われているのか。

 worldometer.infoによると、アメリカがこれまで行なった検査件数は約500万件。検査件数については、トランプ氏はよく「アメリカは世界で1番検査件数が多い」と豪語しているが、米紙ニューヨーク・タイムズはそれを批判してきた。確かに、下記の表が示しているように、数的には検査件数は世界最多となっているが、100万人当たりの検査件数約1万5000件は少なくはないものの、決して多いとも言えないからだ。

 検査件数について、レインゴールド氏は言う。

「アメリカの問題は、今、検査がまだ大規模に行われていないことです。また、感染者と接触した人々の追跡や隔離についても、韓国が行ったようには徹底的に行われていない。そのため、この秋冬に第2波が来るのは必至でしょう」

 約1万5000件で少ないとレインゴールド氏が訴えるアメリカの100万人当たりの検査件数だが、日本の場合、これが、アメリカとは1桁違う、わずか1120件。検査件数を増やすと日本政府は前から述べてはいるものの、相変わらずの少なさには驚かされる。

画像
画像
国別に、感染者数、死者数、検査件数、100万人当たりの検査件数などを示す表。出典:worldometer.info
国別に、感染者数、死者数、検査件数、100万人当たりの検査件数などを示す表。出典:worldometer.info

 山中伸弥教授も、開設した新型コロナのサイトで日本の検査件数の少なさを訴えている。

「検査件数を見ると4月に入って伸び悩んでいます。16日以降のデータには未確定ですが、検査数が増えないと、感染者の増加を見逃す可能性があります」

 実際、感染者は見逃されている。ここ数日、日本では、自宅や路上で亡くなった人々が、死亡後検査された結果、感染していたことが相次ぎ報じられているが、大規模検査で早期に軽症の感染者を見つけることができていたら、そんな悲劇は起こらなかったかもしれない。

中途半端な「社会的距離戦略」

 では、対策のもう一つの柱、「社会的距離戦略」の方はどうか? 

 アメリカでは「社会的距離戦略」に早く取り組んだ州の方が感染者数が少ない状況が見られる。

 例えば、感染者が1人もいないにもかかわらず「非常事態宣言」を出して、感染拡大防止の取り組みをいち早く始めたカリフォルニア州サンフランシスコ市が好例だ。約7000人/平方キロメートルと人口密度が高い都市ながら、人口約88万人中、感染者数は1354人、死者数は22人(米国時間4月25日現在)と、アメリカの他の大都市と比べて圧倒的に少ない。

 感染者数の少なさから、同市はすでに「集団免疫」が達成されているのではないかという声も囁かれているほどで、スタンフォード大学が、その仮説の下、調査を行なっているという報道もある。

 もっとも、集団免疫については、レインゴールド氏は否定的だ。

「サンフランシスコでは集団免疫は獲得されていないと思います。サンフランシスコがニューヨークのようなひどい状況になっていないのは“社会的距離戦略”や“Stay at Home”(外出禁止令)が奏功しているからです」

 「社会的距離戦略」は1週間の開始の遅れであっても、感染者数の増大に繋がると同氏はいう。

 実際、ニューヨーク・タイムズが行なったシミュレーションによると、4月14日時点でアメリカが予測した死者数6万人は、社会的距離戦略が1週間早く実施されていたら2万3000人に、2週間早く実施されていたら6000人に留まったと推定されている。

4月14日時点で、米の死者数は6万人になると予測されていたが、社会的距離戦略が1週間早く行わていたら死者数は2万3000人、2週間早く行われていたら死者数は6000人に留まったと推定された。出典:newyorktimes.com
4月14日時点で、米の死者数は6万人になると予測されていたが、社会的距離戦略が1週間早く行わていたら死者数は2万3000人、2週間早く行われていたら死者数は6000人に留まったと推定された。出典:newyorktimes.com

 日本の場合、「社会的距離戦略」の開始が遅れた上、中途半端な形で実施されていることは、冒頭のパチンコ店問題やスーパーが買い物客でごった返している様子が証明している。密閉空間での社会的距離は2メートルでは十分ではないという研究結果もある。

 

 なぜ、日本政府は、本当に生活に必要不可欠な店以外のすべての店を閉店にしないのか?

 なぜ、スーパーの入店者数制限を徹底して行わないのか?

 「大規模検査」はもちろん、日本政府は徹底した「社会的距離戦略」とそれを実行するための経済的支援体制を整えることが急務だ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事