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米NY・新型コロナか不明の死者8千人超「在宅死した人が多数いる」闘うNY市議

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
在宅死問題と闘うNY市議のレヴィン氏。写真:jewishinsider.com

 「ニューヨーク市の調整で全死者数は10,367人というとても大きな数になったが、それでもまだ過小にカウントされている。先月、(ニューヨーク市には)新型コロナとの関連が不明な死者が通常より3,017人も多くいた。この増加は、パンデミックには直接的な犠牲者と間接的な犠牲者がいるということで、説明がつく」

 米国時間4月15日、ニューヨーク市議で、同市保健委員会委員長を務めるマーク・レヴィン氏がそんなツイートを載せた。レヴィン氏は、ツイッターで市民と対話しながら、ニューヨークの状況を包み隠さず伝え、市民を励ましている。

ニューヨーク市の死者数はまだ過小にカウントされていると訴えるニューヨーク市議のマーク・レヴィン氏。
ニューヨーク市の死者数はまだ過小にカウントされていると訴えるニューヨーク市議のマーク・レヴィン氏。

 ニューヨーク市はこれまで、検査により感染が確認されて死亡した人だけを新型コロナの死者と認定してきたが、4月14日、検査で陽性となっていたかは不明だが“新型コロナで死亡した可能性がある人”も死者として加えるという調整を行なった。その結果、同市の3月11日〜4月13日までの公式死者数6,589人に、新たに3,778人の死者が加わり、同市の公式死者数は、一気に、57%増の10,367人に膨れ上がった。

 今回、新型コロナの公式死者数に加えられた3,778人の死亡した場所を見ると、在宅死した市民が22%もいる。

 レヴィン氏は、在宅死している人が激増し、彼らが新型コロナの死者としてカウントされていない状況をツイッターで嘆いていた。

「通常、ニューヨークでは、1日20~25人が在宅死している。今はそれが毎日200~215人だ。増加人数のほとんどすべてが、新型コロナの感染者であることは確かだ。しかし、増加した人数がすべてが新型コロナの死者数としてカウントされているわけではない。そんなわけで、すでに高いニューヨーク市の公式死者数は、確かに少なくカウントされている」(レヴィン氏の4月5日のツイートより)

 そのため、レヴィン氏は、今回、“新型コロナで死亡した可能性がある人”が公式死者数に加わったことは良しとはしているものの、冒頭のように、その死者数は今もまだ過小にカウントされていると主張している。

新型コロナか不明の死者が8184人も

 ニューヨーク市の報告書 Confirmed and Probable COVID-19 Deaths Daily Reportによると、新型コロナか不明な死者が8,184人もいるからだ。

 報告書は、死者について、3つのカテゴリーに分類している。

1.新型コロナであると確認されて亡くなった人。つまり、検査を受けて陽性判定が出て、死亡した人。

2.新型コロナで亡くなった可能性がある人。つまり、検査を受けて陽性となっていたかは不明だが、死亡証明書に死因は新型コロナかそれに等しいと記載されている人。

3.新型コロナと確認されていたか不明な死者、あるいは、新型コロナの可能性があったか不明な死者。検査を受けて陽性となっていたか不明で、死亡証明書に死因は新型コロナかそれに等しいと記載されていない人。

 今回、1.の数に2.の数が加えられる形で死者数が調整されたが、3.に当たる人々が8,184人(3月11日〜4月13日の集計)、1日平均にすると248人もおり、レヴィン氏は248人という数は通常より100人以上多いと説明している。

「新しいデータは、新型コロナと確認されて死亡した人や新型コロナで死亡した可能性がある人以外にも、毎日248人が死亡していたことを示している。平均すると、通常より1日100人以上も多くの人々がなくなっていたことになる。彼らも、このパンデミックの犠牲者だ」(レヴィン氏の4月14日のツイートより)

 そして、通常よりも1日100人以上多い死者の中には、レヴィン氏が問題視してきた在宅死している人も含まれていると説明している。

「新しく加えられた“新型コロナで死亡した可能性のある人”のうち、約22%が在宅死していた。しかし、今回加えられていない人の多くも在宅死したことは疑いようがない」

今回、公式死者数に新たに加えられた“新型コロナで死亡した可能性のある人”のうち22%が在宅死していたが、レヴィン氏は、今回加えられなかった死者の中にも在宅死しているが多数いるという。
今回、公式死者数に新たに加えられた“新型コロナで死亡した可能性のある人”のうち22%が在宅死していたが、レヴィン氏は、今回加えられなかった死者の中にも在宅死しているが多数いるという。

 また、この通常よりも1日100人以上多い死者の中には、新型コロナ患者の救急対応で病院が崩壊状態だったため、心臓発作や脳卒中など他の原因で救急搬送されたものの、救急治療が間に合わずに亡くなった人も含まれている可能性があるという。

 ちなみに、報告書の最後には「新たな情報が出てきたら、“新型コロナで死亡した可能性がある人”や感染していたか不明な死者の中からも、新型コロナ感染が確認された死者として分類される人が出てくる可能性がある」と記されている。

検査で感染が確認されて死亡した人と、陽性の検査結果を得ていたかは不明だが“新型コロナで死亡した可能性がある人”の年齢別、性別、居住地区別の内訳。出典:Confirmed and Probable COVID-19 Deaths Daily Report
検査で感染が確認されて死亡した人と、陽性の検査結果を得ていたかは不明だが“新型コロナで死亡した可能性がある人”の年齢別、性別、居住地区別の内訳。出典:Confirmed and Probable COVID-19 Deaths Daily Report
検査で感染が確認されて死亡した人(オレンジ)と、陽性の検査結果を得ていたかは不明だが“新型コロナで死亡した可能性がある人”(グレイ)の数の推移を示す棒グラフ。出典:Confirmed and Probable COVID-19 Deaths Daily Report
検査で感染が確認されて死亡した人(オレンジ)と、陽性の検査結果を得ていたかは不明だが“新型コロナで死亡した可能性がある人”(グレイ)の数の推移を示す棒グラフ。出典:Confirmed and Probable COVID-19 Deaths Daily Report

検査キャパが不足していた

 ところで、なぜ、新型コロナの死者としてカウントされていなかった人がこんなにも多いのか? 

 1つには、検査の結果、陽性判定されて死亡した人しか新型コロナの死者として認定されていなかったという理由があるが、レヴィン氏は検査キャパの不足に大きな原因を見出している。

「新型コロナ危機の最初の頃は、在宅死した人に新型コロナの検査することが可能だったので、感染しているかどうか知ることができていた。しかし、そんな日々はとうに終わってしまった。我々は、在宅死している多数の人たちを検査するキャパが、ただないのである」(レヴィン氏の4月6日のツイートより)

 つまり、検査キット不足や医療従事者の不足で、急速に起きた感染拡大に検査が追いつかなかったのである。

すべてがすべて過小報告

 過小報告されているのは死者の数だけではない。レヴィン氏は、すべての数が過小報告されていると嘆く。

「このパンデミックでは、すべてがすべて、過小報告されている。確認された感染者数? 検査不足のため歪められている。入院患者数? 緊急治療室がいっぱいで家に送り返されている患者が多数いるので歪められている。死者数? 在宅死が起きているため大きく過小報告されている」(レヴィン氏の4月8日のツイートより)

 では、検査不足という問題を解決するにはどうすればいいのか? レヴィン氏は大規模検査の必要性を強く訴える。

「大規模検査をしないことには、我々はノーマルな生活には戻れない。連邦政府は、検査キットの製造拡大や検査する人材を雇用するためのプログラムの策定、多数の検査センターの新設、民間検査機関に対する規制緩和を行う必要がある。これらをみな実現するためにファイトだ」

(レヴィン氏の4月10日のツイートより)

僕らは強い800万人

 ニューヨーク州のクオモ知事の新型コロナ対応は高く評価され、脚光を浴びている。

 しかし、その影には、レヴィン氏のように、市民の声に真摯に耳を傾けながら、現場レベルで闘っている政治家の存在があることも忘れてはならない。

 レヴィン氏は今日もニューヨーク市民を励ます。

 僕らは世界大恐慌を生き抜いた。

 僕らは70年代の金融危機を生き抜いた。

 僕らは9/11を生き抜いた。

 僕らはスーパーストーム、サンディーを生き抜いた。

 その度に、僕らは強くなって戻ってきた。

 僕らは強い800万人だ、地球のどこから見ても。

 僕らは頑張るぞ。

 僕らは復活するんだ。

 レヴィン氏の新型コロナとの闘いはこれからも続く。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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