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2メートルの「ソーシャル・ディスタンス」が十分ではないこれだけの理由 ランニングは横並びで!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「ソーシャル・ディスタンス」は2メートルで十分なのか?(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、今や「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」をとることが世界的にニュー・ノーマルになった。アメリカでは6フィート(約1.8メートル) 、日本では2メートルと言われている「ソーシャル・ディスタンス」。しかし、この距離で十分なのか?

 今、この疑問に対して、“ノー”の声や不十分であると示唆する研究報告があがっている。

飛沫は後ろに広がる

 まずは、以下の動画を見てほしい。

 シュミレーション技術を提供するAnsys社が作ったシュミレーション動画で、2人のランナーが横並びで走る場合と縦列で走る場合では、飛沫がそれぞれどう広がるかが検証されている。

 動画からわかるように、ランニングしている人から放たれたくしゃみや咳などの飛沫は、後ろに向かって、6フィート以上に渡って広がっている。

 「前のランナーから出た咳の飛沫は、6フィートの距離ではまだ地面に落ちず空気中に留まっているので、後ろを走るランナーはその飛沫の中へと走っていくことになる」

と同社のエンジニアは話している。

 つまり、縦列でランニングする場合、6フィートの「ソーシャル・ディスタンス」は、ランナーを感染リスクから十分に守ることはできないというのだ。

 また、このシュミレーションは、縦列で走るよりも、横並びで走る方が感染リスクが低いことを示している。

10秒の間をあける

 6フィートの「ソーシャル・ディスタンス」を問題視する声は、エアゾール研究者たちからもあがっている。

 エアゾールを研究しているポートランド州立大学のリチャード・コルシ博士は「屋外にいる時でも、人とは20フィート(約6メートル)離れる必要がある」と訴えている。

 コルシ博士は、他にも以下のアドバイスをしている。

・他の人が歩いたところを横切る場合は、10秒の間をあけること。

・ランニングしている人は特に息が荒いことから、空気中に多くのウイルスを放出している可能性があり、警戒すること。

・幅の狭いハイキングコースを歩く時は前方からやってくるハイカーに気をつけること。そのハイカーが自分とすれ違う前に咳をした場合、空中にとどまっているウイルスの中を歩くことになるからだ。また、ハイキングコースでは、ハイカー同士がすれ違う際、「ハロー」と挨拶することが多いが、これも避けるべきだという。「ハロー」と発するだけでも、空気中にウイルスが出る可能性があるからだという。

 また、室内では、屋外以上に感染リスクが格段に高まるため「食品の買い出しなども本当に必要な時だけしか行くべきでない」と警告している。

「ソーシャル・ディスタンス」の厳格化を

 「ソーシャル・ディスタンス」を厳格化するようWHO(世界保健機関)に訴えている研究者たちは以下のように主張している。

「6フィートの距離は十分ではない。すれ違う人はみなタバコを吸っていると仮定し、煙の匂いが漂ってこないような距離を取りたいものだ。特に室内にいる時や風がある時、向かい風が吹いて来る時は大きな距離を開ける必要がある。個人的には、屋外では、少なくとも25フィート(約7.6メートル)の距離を開けるようにしている」(コロラド大学化学学部教授ジョゼ・ジメンズ氏)

「空気は屋外、特にビーチでは停滞せずに流れている。そのため、エアゾールは6フィート以上運ばれることになる。人口密度が高い地域では6フィートという距離では安心できない」(カリフォルニア大学サンディエゴ校環境化学部教授、キンバリー・プラサー氏)

「ランナーの息遣いが荒い場合、ウイルスはより遠くまで飛ぶ可能性がある。ランナーは大きな距離をあけて走ったらいいと思う。屋外にいる人は、10フィート(約3メートル)の距離を維持してほしい」(ヴァージニア工科大学環境工学教授、リンゼー・マー氏)

室内では最大8メートルも飛ぶ

 エアゾール研究者たちの主張は、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究報告が裏づけている。

 咳やくしゃみのダイナミクスを長年に渡り研究してきた、MIT准教授のリディア・ボーロウイバ氏が出した最新研究報告によると、くしゃみや咳、息を吐き出すことにより放たれる大小様々なサイズの飛沫が含まれる「ガス状の雲」は、室内では、秒速10メートル~100メートルで、7〜8メートル(23〜27フィート)先まで飛ぶというのだ。

 中国の報告によると、新型コロナウイルスの粒子は患者の病室の換気システムの中からも見つかっている。つまり、患者から放たれた新型コロナウイルスを含む「ガス状の雲」が換気システムに入ったことを示しているという。

 同氏は、現在医療用に使用されているN95マスクはまだ「ガス状の雲」に対する有効性がテストされていないことを問題視しており、医療従事者を感染から守るためにも、CDCは感染防護品のガイドラインを改訂することが急務だと訴えている。

 ところで、なぜ、CDCは「ソーシャル・ディスタンス」を6フィートとしたガイドラインを出しているのか? 

 それについて同氏は、CDCが、ウイルス感染は大きな飛沫によって引き起こされるという考え方をベースにした、1930年代の古い感染モデルを採用しているからだと説明している。

空気感染の可能性も示唆

 新型コロナはエアゾール中に長時間残存することも報告されている。

 医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンは、新型コロナウイルスは、エアゾール中に、最大3時間残存すると報告している。

 ネブラスカ大学医療センター(UNMC)、ネブラスカ大学国家戦略研究所などが行なった共同研究は、空気感染の可能性も示唆している。

 

 研究者が、新型コロナに感染した11人の患者の部屋の中と外の空気サンプルを採取したところ、患者が部屋から出て時間が経った後も部屋の中からウイルスの遺伝物質が検出されただけではなく、医療従事者が行き交う部屋の外の廊下からもウイルスの遺伝物質が検出されたからだ。

 研究者らは、空気感染が確認されたわけではないものの、

「ウイルスが環境中に広く拡散しており、空気感染の可能性があることを示す限定的な証拠だ」

とし、

「この発見は、ウイルスが直接的な接触(飛沫感染やヒトヒト感染)と間接的な接触(汚染された物体や空気感染)の両方によって広がる可能性があることを示しており、空気感染による隔離の予防策が適切であることを示唆している。軽症の患者が放ったウイルスが含まれているエアゾールも物体の表面を汚染し、感染リスクを引き起こすかもしれない」

と結論づけている。

 筆者は今、屋外を歩く時は、2メートル以上のできるだけ長い距離をあけて歩くようにしている。向かいから誰か来ているのが見えたら、早目に違う方角に行くようにいる。まるで「人避けゲーム」でもしているかのように歩いている。息荒くランニングしている人には特に注意している。

 2メートルの「ソーシャル・ディスタンス」を保つことは今必須だ。しかし、2メートルはミニマムと考え、周囲の状況が許すなら、できるだけ長い距離をあけたいものである。

 今となっては懐かしささえ感じる、すれ違う人たちと「ハーイ」と声をかけあっていた日々。あの日々が少しでも早く戻ってくることを願っている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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