Yahoo!ニュース

米「国家非常事態宣言」で官民連携 すぐにバレたトランプ氏の“嘘”

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「国家非常事態宣言」を行うトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 オール・アメリカ態勢だ。

 トランプ氏が新型コロナウイルスの感染拡大と闘うために「国家非常事態宣言」を行う様子をテレビで観ながら、そう思った。

 なぜなら、トランプ氏の背後には、ウォルマート、ターゲットといった大手小売チェーンやウォルグリーン、CVSといったドラッグチェーンの幹部たちが控えており、彼らは、トランプ氏の紹介を受けて、トランプ政権の新型コロナ対策にどう貢献していくか表明したからだ。

 スイスの製薬企業ロシュの幹部も登場した。今行われているウイルス検査では結果が出るまで2〜3日を要しているが、同社は3.5時間で検査結果が出るキットを開発し、FDA(米食品医薬品局)にスピード認可された。このキットでは、24時間で4128の検査結果を得ることができる。

 トランプ政権は大企業を巻き込み、「官民連携」で、新型コロナに対抗していく決意表明をしたのである。ペンス副大統領は「歴史的な官民連携だ」とまで明言した。

 その歴史的な官民連携に投入される連邦資金は50ビリオンドル(約5兆4000億円)。

背景にある検査キット不足

 宣言の背景には、トランプ政権が米国民やメディア、専門家から与えられている大きなプレッシャーがある。

 最初に作られた検査キットの試薬には不備があり、正確な判定を下すのが困難だったし、検査対象も当初“武漢縛り”という制限が設けられていた。また、医師がウイルスに感染していると疑われる患者のウイルス検査をしたいと思っても、検査キット自体が不足しているため検査できない状況があり、それは今も続いている。ワシントン州の介護施設で集団感染が起きたのも、発端は、感染が疑わしい患者のウイルス検査を医師がしたくてもできなかったことにあったのだ。

 米メディアは、韓国の検査数の多さと比較しながら、アメリカの検査数の少なさを批判、検査を多く行わない限り、アメリカでどれだけ感染が拡大しているのかわからないと訴えていた。

 トランプ政権の新型コロナ対策に助言している国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長も、議会で、新型コロナについて「インフルエンザの10倍の致死率だ」と警鐘を鳴らした。

 そんなプレッシャーに押され、感染拡大を軽視していたトランプ大統領もやっと重たい腰をあげたと言える。

 もっとも、記者会見でそのことを追及されたトランプ氏は「検査の遅れは私の責任ではない」と責任を回避する姿勢を見せた。

 また、何より、ここ数日、株価が大暴落していたことも背景にはある。トランプ氏は午後3時に「国家非常事態宣言」を行うよう設定していたが、その時間にしたのは、株式市場が閉まる前に株価を上げる狙いがあったからだと指摘されている。実際、会見の最中、株価はみるみる上昇、ダウ平均株価は終値で2000ドル近い過去最大の上げ幅を記録した。

ドライブスルーの検査場所

 様々な対策が発表されたが、トランプ氏が目玉として言及したのが、ウイルス検査場所を紹介する専用のスクリーニング・ウェブサイトの立ち上げ。現在、グーグルの1700人のエンジニアがそのウェブサイトを開発中だと胸を張った。このウェブサイトで症状があって検査が必要だと判断されれば、最寄りのドライブスルーの検査場で容易に検査を受けられるようになるというのだ。検査の流れを示すフローチャートも紹介された。

 そのフローチャートによると、検査を受けたい人は、まず、専用のスクリーニング・ウェブサイトに行く。そこでは最初に、様々な質問をされて症状があるかどうかスクリーニングされる。症状があり要検査と判断された場合は、最寄りのドライブ・スルーの検査場所が紹介され、そこで検査を受ける。その後、検体はラボに送られ、検査結果は24〜36時間後にスクリーニング・ウェブサイトで確認することができるという手順だ。ウォルマートやターゲット、ウォルグリーンなどの駐車場がドライブスルーの検査場所になる。

 「グーグルに感謝したい。ウェブサイトはとても早くできるよ。たくさんの場所で検査ができる。この国を広くカバーする。実際どのロケーションのストアでも検査できるようにする。グーグルでは、1700人のエンジニアがこのウェブサイトに取り組んでいるんだ。彼らの仕事は大きく前進している」と豪語したトランプ氏。

グーグルではなかった

 しかし、これはすぐに“嘘”であることが判明した。トランプ氏お得意の“ホラ”だったのか、それとも、単なる勘違いだったのかはわからない。

 TechCrunchによると、そもそも、ウェブサイトはグーグルではなく、グーグルの親会社であるアルファベット社傘下のヴェリリー社が開発しているという。しかも、トランプ氏が豪語したように、ウェブサイトがすぐに立ち上げられて全米で利用可能になるわけでもないようだ。

 ヴェリリー社はトランプ氏の記者会見後、トランプ氏の間違いを訂正するかのように、以下の声明文を発表。グーグルのコミュニケーション部はこの声明文をツイートした。

「ヴェリリーは、個人をCOVID-19の検査場所へとトリアージするツールを開発中です。我々は開発の初期段階にあり、ベイエリア(サンフランシスコやシリコンバレーを中心にした地域)でテストをする計画をしていますが、じょじょに地域を拡大して行けたらと思います。政府や業界パートナーの支援に感謝し、そして、取り組みの一助となっているグーグルのエンジニアに感謝しています」 

 つまり、正確にいうなら、グーグルのエンジニアが、ヴェリリー社が開発しているスクリーニング・ウェブサイト作りに一部協力しているということになるのだろう。また、ツールはまだ開発の初期段階で、このツールで検査ができる対象地域は全米ではなく、当初はベイエリアということになる。

きっと検査を受けるよ

 記者会見で気になったのは、トランプ氏が入国禁止対象国を追加する可能性を示唆したこと。

 トランプ氏はイギリス以外のヨーロッパの国々からの入国を30日間禁止にしたが、イギリスでも感染者が急増していることから、同国も入国禁止の対象国に加える可能性を示唆した。さらには「他の国々も加えるかもしれない」とも言及。その国々の中に、日本が含まれる可能性もあるのではないか。

 しかし、何より米国民を驚かせたのは、トランプ氏が、

「きっと検査を受けるよ。スケジュールを考えているところだ」

とこれまでの姿勢を変えたことだ。

 トランプ氏は、先週、ブラジルのボルソナロ大統領と首脳会談を行ったが、その際に、一緒に記念撮影をしたブラジル政府高官の感染が判明した。そのため、トランプ氏の感染も懸念されているのだが、トランプ氏は「症状が出ていない」という理由で検査を受けないと言い張っていた。

 「国家非常事態宣言」でアメリカの検査態勢が大きく改善されるか注目されるところだが、トランプ氏の検査結果も大いに気になるところだ。

 トランプ氏の“嘘”はバレたものの、それでも、官民連携のオール・アメリカで新型コロナと闘う意志表示をしたアメリカ政府。日本政府はオール・ジャパンで闘えているだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事