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米カリフォルニア州は大惨事映画そのもの セレブ居住の高級住宅地でも山火事発生 加速される温暖化

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
セレブが居住する地域で発生した山火事。写真:nbclosangeles.com

 28日朝(米国西海岸時間)、窓を開けると焦げ臭いにおいがした。空もうっすらと霞んでいた。

 テレビをつけると、ロサンゼルス近郊のサンタモニカにある筆者の住まいから約11キロのブレントウッド地区で山火事が発生していることがわかった。また山火事である。先週、住まいから約8キロのパシフィック・パリセーズ地区で火事が起きたばかりだった。

 サンタモニカは海のそばなので山火事とは無縁だと思っていたのだが、ここ数年、そうとは思えない状況になっている。以前は山間部を中心に起きていた山火事が、海に近い地域でも発生するようになっているように感じられるからだ。実際、28日早朝は、サンタモニカの一部にも、避難勧告が出されていた。

あちこちで山火事が

 1年でもこのシーズン、南カリフォルニアでは「サンタアナ・ウィンズ」という強風が吹き荒れる。そして、乾燥した空気とインディアン・サマーによる高い気温。火事が発生する条件が揃っているのである。

 「山火事シーズン」真っ只中の今、先週から、カリフォルニア州の各地で山火事が相次いでいる。10月23日夜は、カリフォルニア・ワインの産地として知られる北カリフォルニアのソノマ郡で大規模な山火事が発生し、約20万人に避難命令が出された。この山火事では、これまでに125の建物が被害を受け、今も15%しか消火されていない。

 南カリフォルニアのサンタ・クラリタでも10月24日、山火事が発生し、5万人が避難に追い込まれた。

 サンフランシスコ・クロニクル紙のカリフォルニア・ファイアー・トラッカーによると、山火事の発生状況がわかる。オレンジの炎が現在も燃えている火事のオリジン、グレイの炎が消火した火事のオリジンだ。

カリフォルニア・ファイアー・トラッカー 出典:San Francisco Chronicle
カリフォルニア・ファイアー・トラッカー 出典:San Francisco Chronicle

シュワちゃんも避難

 そして、28日未明(米国西海岸時間)にはブレントウッド地区で山火事が発生した。ブレントウッド地区は山火事が頻発する山々に近いエリアではなく、名門大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のあるウエストウッドやビーチ・リゾートで知られる観光地サンタモニカに隣接してある高級住宅地で、セレブたちの豪邸も数多い。山火事は、この地区にあるジャン・ポール・ゲティー・ミュージアムという有名美術館の近くで発生したため、「ゲティー・ファイアー」と呼ばれている。美術館は被害を受けなかったものの、少なくとも8軒の豪邸が焼け落ち、5軒が被害を受けた。まだ5%しか消火されていない状況だ。

 この地区に住む約1万戸にも避難命令が出され、ロサンゼルス・レイカーズのバスケットボールプレイヤー・レブロン・ジェームズ氏や元カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏も、深夜、避難に追い込まれた。

 2017年に2300万ドルで購入した8寝室ある豪邸に住むレブロン・ジェームズ氏は、

「ロスの山火事はただ事じゃない。クレイジーな夜だ」

と午前4時頃ツイートして、家族とともに避難。

 シュワルツェネッガー氏も、

「もし、避難地域にいるなら、グズグズするな。逃げろ」

とツイートで警告した。ちなみに、今日プレミアが予定されていた同氏主演の新作映画「ターミネーター:ダーク・フェイト」も山火事のためキャンセルされてしまった。

 「セックス・アンド・ザ・シティー」でシャーロット役を演じたクリスティン・デイビスさんも家の裏で起きた火事で目覚めたと、インスタグラムに投稿している。

瞬く間に山火事に発展

 前の投稿でも書いたが、カリフォルニア州では近年、気候変動の影響もあり、大規模な被害を出す山火事が頻発している。冷たく、乾燥し、比較的低速だった風が、温暖化により、暖かく、カラカラに乾いた、時速160キロにもなるような高速の風となって、すでに乾燥している木々からさらに湿気を奪うからだ。そのため、草木で起きた小さな火事でも瞬く間に大きな山火事へと発展してしまうという。

 また、カリフォルニア大学サンディエゴ校のジャニン・グズマン-モラレス博士の研究によると、温暖化により、降雨パターンが変わることが予想されるため、カリフォルニア州の山火事シーズンは秋から冬へとシフトし、年末でも、長期間にわたる大規模な山火事が起こりやすくなるという。

 山火事シーズンが冬へとずれこんでいることの表れだろうか、今年は、山火事シーズンがすぐには終わらないようだ。世界中の天気予報を提供する米国企業アキュウェザーCEOのジョエル・メイヤーズ博士は、

「昨年、カリフォルニア州では恐ろしい山火事が起きましたが、山火事シーズンは早く終わりました。今年は、通常より山火事シーズンが終わるのが遅くなる見込みです」

と話している。

山火事が温暖化を加速

 気候変動により起きる山火事はまた温暖化を加速する原因にもなっている。二酸化炭素が大量に放出されるからだ。昨年、カリフォルニア州で発生した山火事は約68ミリオントンもの温暖化ガス=二酸化炭素を放出したが、これは、カリフォルニア州に電気を供給するために1年の間に生み出される二酸化炭素量に匹敵する量だったという。

 また、山火事で焼けた木々は二酸化炭素以外のガスも放出。その1つに“ブラック・カーボン”と呼ばれるガスがあるが、このガスも二酸化炭素に次いで、気候変動に影響を与えている。

 USA Today 紙が「荒れ狂う山火事、強風、停電で、カリフォルニア州は大惨事映画そのものだ。これは“ニュー・ノーマル”なのか?」という見出しで、カリフォルニア州の惨状を報じているが、気候変動により、山火事は常態化しつつあるのかもしれない。

 南カリフォルニアでは、30日からまた、時速128キロにも及ぶ「サンタアナ・ウィンズ」が吹くと予測されている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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