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スーパー台風19号が発生したワケ「強大なストームはもっと強大化し、もっと頻繁に起きる」米気象学者

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
スーパー台風19号が近づき、不気味な色に変わった空を撮影する人々。(写真:ロイター/アフロ)

 日本を襲った超大型の台風19号はアメリカでも大きく注目された。

 なぜ、台風19号のような“スーパー台風”が生じたのか?

急速に発達してスーパー台風に

 台風19号で、特に注目されたのは、台風が急速に勢力を拡大したことだ。台風19号は、18時間で、最大瞬間風速が秒速27メートルから67メートルへと40メートルも急速に強まった。

 コロラド州立大学の気象学者フィリップ・クロズバック氏もこの速さに驚き、こうツイートしている。

「ハギビス(台風19号)は、最大瞬間風速が18時間で40メートルも強まり、熱帯低気圧からスーパー台風になった。北太平洋西部で、18時間でここまで急速に発達した熱帯低気圧は、18時間で風速が40メートル強まった1996年の台風イェーツ以来だ」

 最大瞬間風速が24時間で約15.6メートル強まった時、熱帯低気圧は急速に発達したと公式には判断されているというから、18時間で40メートルも強まったのは確かに速い。

 さらに、クロズバック氏は、台風19号が、スーパー台風として長時間存在し続けたことも指摘。

「ハギビス(台風19号)は、北太平洋西部では、この台風シーズンでは最長の連続36時間、スーパー台風(瞬間最大風速が時速150マイル以上(秒速では67メートル以上))として存在している」

 なぜ、台風19号は、急速に勢力を拡大したのか?

 それは、地球温暖化が熱帯低気圧に与えている影響によるところが大きいようだ。

 米商務省の機関の1つ、アメリカ海洋大気庁国立環境情報センターの気象学者ジェームズ・コッシン氏によると、温暖化により、海面だけではなく、深海も暖められているために海洋熱が増えていることが、近年、台風を急速に発達させているという。海洋熱が熱帯低気圧にとっては燃料のような役割を果たし、燃料の増加により、発達する速度が早まっているというのだ。

台風の移動速度は減速化

 地球温暖化が熱帯低気圧に与える影響は他にもある。

 近年、熱帯低気圧の移動速度が減速化しているが、コッシン氏は、これも温暖化の影響だと指摘している。

 ネイチャー誌に掲載されたコッシン氏の科学論文によると、1949年から2016年の間では、熱帯低気圧の移動速度は世界的に10%減速している。陸地の場合、熱帯低気圧の移動速度は、北大西洋では20%、北太平洋では30%も減速化しているという。この減速化は、熱帯低気圧が生じる、北インド洋以外のすべての海域で観測されている。特に、今回の19号のようなスーパー台風が生じる太平洋西部では、20%と最も減速化している。

 温暖化のため、夏の大気の循環が世界的に減速化していることが、ハリケーンや台風の移動速度も減速化させているという。移動速度が減速化すると、台風は同じ地域に長時間留まり、長時間風雨をもたらすことになる。

ストームは強大化、頻発化

 また、コッシン氏は、温暖化で海洋に加えられる熱により、「強大なストームはもっと強大化し、もっと頻繁に起きる」という。

 今回の台風19号では、多摩川や千曲川など多くの河川が氾濫し、箱根町では1000ミリという観測史上最大の降雨量が記録されたが、温暖化により、降雨量も増加している。暖かい大気はより多くの水蒸気を含んでいるが、大気の気温が1度上昇すると、大気中の水蒸気量は7%増加し、それが雨となって降り注ぐことになるからだ。

 また、強大なストームが引き起こす風と海面上昇により、危険な高潮が発生する可能性も高まる。国連の気候変動政府間パネルは、海面の高さは、今世紀末の2100年までに、最低30〜60センチは上昇すると予測している。

白熱電球の方がルックス良く見える

 ところで、日本が台風19号に襲われている時、米カリフォルニア州ロサンゼルス郊外の山間部では火の手が広がっていた。

 温暖化のため、カリフォルニア州では、近年、山火事が頻発化している。カリフォルニア州が今年4月に発表した「山火事と気候変動」という報告書によると、これまで同州で起きた最も破壊的な山火事20件のうち、15件が2000年以降に発生していた。また、20件のうち10件は、2015年以降に起きたものだった。

10月10日夜(米国時間)、ロサンゼルス郊外シルマーで発生した山火事。温暖化の影響で、2015年以降、カリフォルニア州では大規模な山火事が頻発している。出典:www.nbclosangeles.com
10月10日夜(米国時間)、ロサンゼルス郊外シルマーで発生した山火事。温暖化の影響で、2015年以降、カリフォルニア州では大規模な山火事が頻発している。出典:www.nbclosangeles.com

 しかし、それにもかかわらず、本来ならば温暖化対策をリードすべき国であるアメリカの指導者は、変わらず、温暖化対策には無頓着だ。それどころか、10月9日(米国時間)、トランプ大統領は、温暖化対策を逆行させる発言をして物議を醸した。

「白熱電球の方が人がルックス良く見えるよ。反対に、省エネ電球はルックス良く見えず、値段もずっと高い」

とオバマ元大統領が温暖化を減速化させるために標準化した省エネ電球を批判し、省エネ効果のない通常の白熱電球を支持する発言をしたのだ。

                   

 温暖化問題は世界が1つになって取り組む必要がある大きな課題だからこそ、各国の指導者の姿勢が重要になる。

 ある人物を指導者として支持する理由は、様々あるだろう。医療費や税金を軽減してくれるとか、雇用を増やしてくれるなど、自分の目の前にある問題を解決に導いてくれる人を支持する有権者は少なくないと思う。誰だって今痛いところをすぐに治してほしい。前述の白熱電球の例をとっても、安価な白熱電球は消費者の経済的負担をすぐに軽減してくれるかもしれない。だが、長期的に見た場合、人類に与えるコストはどうなるだろうか。

 指導者が国民の目の前にある問題を解決することは重要だ。しかし、地球の抱えている問題を長期的視野に立って解決する対策を講じることもまた重要なのだ。それに、スーパー台風に大規模な山火事にと、温暖化の影響は、すでに人々の目の前に差し迫っている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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