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「トランプ大統領はリンカーン以来最も偉大な大統領」とオスカー受賞俳優 日米首脳、歴史的偉人を目指す?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ゴルフや相撲に興じたトランプ氏は、民主党とのバトルから逃れたひと時を過ごした。(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ氏の訪日が終わった。

 アメリカのメディアは観光客のように過ごしたとトランプ氏の訪日を皮肉り、日本のメディアは目前に控えている選挙を計算にいれた安倍首相の“おもてなし外交”を揶揄している。

 予想されてはいたことだが、日米首脳会談では具体的なことは何も決まらず、すでに強固な日米同盟を改めて確認したに終わった。

 いったい、トランプ氏は莫大な税金をはたいて訪日する必要があったのだろうか? また、安倍首相も莫大な税金をはたいてトランプ氏を大歓待する必要があったのか? そう感じているアメリカ人や日本人は多いのではないか。

激バトル直後の訪日

 しかし、トランプ氏にとっては、さぞかしリラックスできた4日間だったことだろう。

 訪日直前、トランプ氏は政敵である下院議長(民主党)のナンシー・ペロシ氏と壮絶なバトルを繰り広げていたからだ。

 訪日を控えた5月22日、トランプ氏は、“ロシアとの共謀疑惑および司法妨害疑惑の捜査で隠蔽に関与した”と非難するペロシ氏に腹を立て、民主党側としていた協議を突如打ち切ってしまうという大人気ない態度を晒していた。そして、「自分が議会から調査される限り、インフラなどアメリカが抱えている課題には取り組まない」と子供のように“だだをこねた”。まるで、大統領の職務を遂行しないと脅したも同然だ。昨年末、「国境の壁」問題で、民主党が建設予算を認めない限り、政府を閉鎖し続けると脅した時と似た状況が再現されていたのである。

 子供じみたトランプ氏の言動にあきれたペロシ氏は「アメリカの大統領のために祈るわ。アメリカのために祈るわ」と嫌味発言。

 トランプ氏はそんなペロシ氏のことを「狂ったナンシー」と罵倒。

 ペロシ氏も「非常に安定した天才(トランプ氏のこと)がもっと大統領らしく行動し始めたら、喜んで、彼と一緒にインフラや貿易などの諸問題に取り組むわ」と反撃した。

 ペロシ氏との激しいバトルの直後訪ねた日本。待っていたのは、ブロマンスの相手、安倍首相からの歓待だった。そのもてなしに、ペロシ氏をはじめとする民主党の対応との大きな温度差を感じたのだろう、トランプ氏はこんな嫌味なツイートをした。

「日本の政府関係者が私にこう言った。民主党は、私や共和党が成功する姿より、アメリカが失墜する姿を見たいんでしょう」

 そんな民主党とのバトルから逃れて、日本でほっとするひと時を過ごしたトランプ氏だった。

 安倍首相とて、ほっとしたのは同じだろう。大事な選挙を前に、トランプ氏を最大限におもてなしすることで、“日米貿易不均衡解消”と吠えまくる“猛犬”を大人しくすることができたからだ。もっとも、大人しいのは束の間だろう。選挙後にはまたビジネスライクな“猛犬”に戻るに違いない。

歴史的な偉人を目指す

 ところで、トランプ氏が今回の訪日を決意したのは、先月の日米首脳会談の際、安倍首相に、新天皇と会うことが「スーパーボウルより100倍大きい行事だ」と言われたことが一因だ。令和初の国賓として訪日し、200年ぶりに譲位した新天皇と面会することは歴史的な行事になるとトランプ氏は踏んだのだろう。

 トランプ氏はおそらく「歴史的」という事柄に弱い。

 ワシントン・ポスト紙シニア・エディターで、『トランプ』の著者マーク・フィッシャー氏に「トランプ氏が最終的に目指すものは何だと思いますか?」ときいた時、フィッシャー氏はこう答えた。

「長い間、リッチでポピュラーなセレブだったトランプ氏です。究極的には、“歴史的な偉業を成し遂げた大統領だ”と人々の記憶に残る歴史的な偉人になりたいのでしょう」

 確かに、トランプ氏は「歴史的な偉人になる」という野心を満たすべく動いているように見える。

 昨年は、史上初の米朝首脳会談という「歴史的な会談」を実現させた。経済的には、半世紀以上ぶりの最低失業率という「歴史的な数字」を達成させた。不法移民対策のためにメキシコ国境に壁を作れば、これもまた「歴史的な壁」になるのは間違いない。

 如才ない安倍首相はトランプ氏のそんな野心を感じ取り、いかにその野心を満たしたらいいか考えたのではないか。そして、トランプ氏を200年ぶりに譲位した新天皇に面会する令和初の国賓として日本に招待することは、トランプ氏への「歴史的な行事」という大きな贈り物になると思ったのかもしれない。

 また、今回、国技である相撲に初めて「アメリカ大統領杯」という賞が新設された。トランプ氏の訪日を記念して「歴史的な賞」が作られたわけだ。トランプ氏の野心はまた満たされたに違いない。

 安倍首相にもまた「歴史的な偉人になる」という野心が垣間見える。例えば、好景気が続いている状況について安倍政権は「戦後最長の景気拡大」と自負した。戦後最長。まるで「歴史的な出来事」でもあるかに思わせるような表現だ。

 また、安倍首相は、トランプ氏というバンドワゴンに乗ることで、自身もまた歴史的な偉業を成し遂げる首相になるという野心を抱いているのではないか。有人火星探査を計画しているトランプ氏は今回、「米国の宇宙飛行士を宇宙に送るミッションに日本が参加する」と記者会見で表明したが、安倍首相がトランプ氏に協力して初の有人火星探査を成功させれば、安倍首相もまた「歴史に名を残すこと」ができるだろう。

リンカーン以来最も偉大な大統領?

 ところで、歴史的に偉大な大統領というと、リンカーン大統領だと考える人は少なくない。女優アンジェリーナ・ジョリーの父親であり、映画「真夜中のカウボーイ」で注目され、映画「帰郷」でアカデミー主演男優賞を受賞したジョン・ヴォイト氏もそう考えていたのだろう、先週末、リンカーン大統領の名前を持ち出し、

「トランプ大統領はエイブラハム・リンカーン以来最も偉大な大統領だ」

と動画つきツイートで明言し、波紋を呼んだ。

 ヴォイト氏曰く、

「大統領の仕事は簡単ではない。トランプ氏は左派と彼らの破壊的で馬鹿馬鹿しい発言と闘っている。我が国は先祖からの確固たる基盤の上に構築され、リンカーン大統領から受け継がれてきた義務という道徳律がある。我が国はトランプ大統領のおかげで強く、安全になり、雇用を増やすこともできた。我々はそんな勝利を目撃している国の国民なのだから、政治的左派にだまされるな。トランプ大統領はエイブラハム・リンカーン以来最も偉大な大統領なのだ。この事実のために立ち上がろう」

 訪日中、トランプ氏は「ありがとう」というコメントとともに、ヴォイト氏の動画をリツイートした。

 しかし、トランプ氏は、どこからどう見ても、リンカーン大統領とは正反対だ。リンカーン大統領は「人民の人民による人民のための政治」を標榜したが、トランプ氏のこれまでの言動を考えれば、多くの人々の目には彼が「トランプのトランプによるトランプのための政治」を行なっているようにしか映らないだろう。

 それは、前記したように、訪日直前、ペロシ氏と子供じみたバトルを展開し、「議会に調査される限り、課題には取り組まない」と解決すべき課題を抱えている人民よりも自分のエゴを優先させたことからも明らかだ。

 そして、そんなトランプ氏と一蓮托生の安倍首相。

 安倍首相もまた“歴史的に偉大な首相”として名を残すべく、「安倍首相の安倍首相による安倍首相のための政治」を行い続けるのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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