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亡きマケイン氏をめぐって一騒動 トランプ氏「葬儀をアレンジしたのに“ありがとう”がなかった」と嘆く!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
3月20日、オハイオ州リマの陸軍戦車工場で、労働者を前に演説するトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 オハイオ州リマにあるリマ陸軍戦車工場。

 3月20日(米国時間)、この工場で、労働者を前に演説を行なったトランプ氏から発せられた以下の一言に、その場は静まり返った。

「大統領として承認を出し、彼(マケイン氏)が望んだ葬儀になるようアレンジしたんだ。それはどうでもいい。“ありがとう”がなかった」

 トランプ氏がここで言及しているアレンジとは、マケイン氏の遺体を葬儀が行われる首都ワシントンDCに運ぶために、エアフォース2を出すことを承認したことだと考えられる。

 「葬儀をアレンジしたのに感謝されなかった」とぼやいたトランプ氏。

 トランプ氏と亡きマケイン氏が犬猿の仲だったことは周知の事実だ。トランプ氏は大統領選の際、「戦争のヒーロー」として讃えられているマケイン氏のことを「捕虜になった臆病者だ。ヒーローではない」と言って批判、昨年8月に脳腫瘍で他界したマケイン氏の葬儀にも招かれなかった。

亡きマケイン氏を攻撃

 トランプ氏が「感謝されなかった」と演説でぼやいたのは、先週末、トランプ氏とマケイン家の間で一騒動が起き、アメリカで大きな話題となっていたということが背景にある。

 一騒動の発端は、先週公開された裁判所の書類。その書類により、マケイン氏が、イギリス人スパイ・クリストファー・スティールが書いた文書(メモ)のコピーを当時FBI長官だったジェームズ・コミー氏に渡していたことがわかったのだ。「スティール文書」と呼ばれるその文書には、ロシア疑惑につながるようなトランプ陣営とロシア側との関係が記されていると言われている。例えば、プーチン氏がトランプ氏を支援していることや、ロシア側がトランプ氏を恐喝できるような弱みを握っていることなどが書かれていると指摘されている。

 マケイン氏が「スティール文書」に関与していたことを知ったトランプ氏は、先週末、激怒してツイート。マケイン氏がオバマケア廃止法案に賛成の票を投じなかったことまで持ち出して批判した。

「(マケイン氏が)フェイクで全然信じられない文書を広めたことは、マケインにとっては非常に大きな汚点だ。彼はオバマケア廃止を訴えるキャンペーンをしていたのに、廃止には賛成票を投じなかった」

 マケイン氏が賛成票を投じなかったことが法案否決につながったと、トランプ氏は未だに根に持っているのだ。

海軍学校時代の成績も暴露

 加えて、トランプ氏は、マケイン氏の海軍学校時代の成績もあげつらった。

「彼の成績はもちろんクラスでビリだよ。FBIとメディアにフェイクの文書を送ったマケインは、大統領選挙の前に記事にされたらいいなと思っていたんだろう。マケインと民主党は共謀したが、例によって失敗したんだ。フェイクニュースでさえこのゴミ(文書のこと)は受けつけなかったよ」

 実際、マケイン氏は、1958年、クラスでは最後から5番目という成績で海軍学校を卒業しているが、トランプ氏の主張には問題がある。マケイン氏は調査の必要ありと考えてFBIに文書を渡したことを自身の著書で認めてはいるが、彼自身はメディアへのリークは否定しており、その証拠もないからだ。

マケイン氏の娘が反撃

 トランプ氏の先週末のツイート攻撃に立ち向かったのは、マケイン氏の娘のメーガンさんだ。ツイッターやテレビで反撃を繰り広げた。

「誰も、人々が父を愛したようにはあなたを愛さないわ。父とはもっと土曜日を一緒に過ごすことができていたらな。父のツイートばかりしないで、あなたは土曜日を家族と過ごしたら? 父のことばかり考えているのね」

「トランプ氏は偉大な男(マケイン氏のこと)に悩まされる週末を送っているけど、それは自分が偉大な男になれないことがわかっているからよ」

 そんな反撃にトランプ支持者も黙っていなかった。マケイン氏の妻シンディーさんのところには、あるトランプ支持者からヘイト・メッセージが届いた。それは、

「あなたのご主人は戦争屋で裏切り者よ。死んで嬉しいわ。豚のようなあなたのお嬢さんが、ハンバーガーで窒息死すればいいわ」

という非常に悪質なメッセージだった。

トランプ氏は謝れ

 先週末、アメリカで話題を振りまいたトランプ氏vsマケイン家のバトル。

 そのバトルの言い訳でもするかのように、トランプ氏は、冒頭の20日の演説でこう説明した。

「たくさんの人がマケイン氏をどう思っているのかと私に聞くんだよ。正直に言わねばならないが、彼のことはあまり好きではなかった。それには理由がある。マケイン氏はフェイクの文書を受け取ったが、それを私に知らせず、私を危機に陥れようとFBIに渡したんだ。それはいいことじゃない。それに、マケイン氏は、ブッシュの中東侵攻を支援した。戦争ために7兆ドルがかかり、多くの人々が亡くなった。今、我々がその状況を好転させようとしているが、戦争はアメリカに災いをもたらしてきたんだよ」

 しかし、そんなトランプ氏のマケイン氏攻撃を共和党議員たちは苦々しい思いで見ている。日頃、トランプ氏の強き味方となっているリンジー・グラハム上院議員でさえ、

「マケイン氏は、国のために進んで命を危険にさらし、困難な状況下で尽力し、史上最も重要な上院議員となった人物の一人だ。彼が貢献したことは変わることがない事実だ」

とツイートして、マケイン氏を擁護した。

 民主党上院議員のクリス・クーンズ氏は“トランプ氏は謝れ”と主張。

「トランプ氏のマケイン氏に対する個人攻撃はとても忌々しいと前から思ってきた。トランプ氏はマケイン氏を攻撃し続けていることを謝罪すべきだ」

父は滑稽に思っている

 トランプ氏がマケイン氏批判に強く出たのは、世論調査で有権者の約半数がトランプ氏はロシア疑惑捜査という「魔女狩り」の犠牲者だとみなしているという結果が出たこと、62%の有権者が大統領弾劾の動きに反対していること、“「ロシア疑惑」の捜査はトランプ氏が当選するとは思っていなかったFBIが、万一トランプ氏が当選した場合、国家機密がロシア側に漏れることを恐れて、大統領選挙中から取り掛かっていた”という証言が出てきたことなど、トランプ氏に有利に働く状況が最近になって表出してきたからかもしれない。

 しかし、他界から7ヶ月を経た今も、死者に鞭打つようなトランプ氏のパーソナリティーに、多くの米国民があきれている。誰よりあきれているのは、亡きマケイン氏だろう。娘メーガンさんは、20日、自身が司会の一人を務めるテレビのトークショーで、

「父は、トランプ大統領が自分に嫉妬し、死んでもなお自分が大きなニュースになっている状況を滑稽だと思っているでしょうね」

と話している。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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