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トランプ氏の「国境の壁」はのこぎりで切断可能! “黒塗りの報告書”があかす壁の脆弱性とは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
メキシコとの国境を訪問して壁の必要性を訴えたトランプ氏だが、壁は破壊可能なのだ。(写真:ロイター/アフロ)

 メキシコとの国境を訪問して「国境の壁」の必要性を力説したトランプ氏。トランプ氏は壁建設のための予算の承認を得るため、公約していたコンクリートの壁ではなく、鋼鉄製の壁でも受け入れると譲歩する姿勢も示した。しかし、2017年に行った、プロトタイプの壁のテストで、鋼鉄製の壁はのこぎりで簡単に切断できていたことが判明し、波紋を呼んでいる。

切断された鋼鉄製の壁

 以下の画像を見てほしい。

 1月10日(米国時間)アメリカ3大ネットワークの一つであるNBCが独占公開したものだ。画像には、無残に切断された鋼鉄製の細長い柱が映し出されている。この柱は、トランプ政権が設計したプロトタイプの「国境の壁」に使用されたものだ。

プロトタイプの壁に使われた鋼鉄製の柱は、のこぎりで切断可能であることがわかった。(写真:nbcnews.com)
プロトタイプの壁に使われた鋼鉄製の柱は、のこぎりで切断可能であることがわかった。(写真:nbcnews.com)

 トランプ氏は、切断された鋼鉄製の柱について「それは前政権が設計して使っていたものだ」といって弁明した。しかし、この弁明には無理がある。この柱は、確かに前政権が使っていたものではあるが、トランプ政権がつくったプロトタイプの壁にも、この柱が使われていたからだ。

ある破壊技術で壁は壊れる

 プロトタイプの壁の脆弱性については、昨年9月、サンディエゴの公共放送局KPBSが入手した、米国税関・国境警備局の報告書(https://www.documentcloud.org/documents/4891728-Border-Wall-Mock-Up-and-Prototype-Test-Final.html#document/p26/a454445)で指摘されていた。見てわかる通り、この報告書は黒く塗られて隠蔽されている箇所が多い、いわば、“黒塗りの報告書”だ。

 トランプ政権は、2017年、約500万ドルをかけて、プロトタイプの壁をつくり、約60ものツールを使って破壊可能かテストを行ったが、”黒塗りの報告書”にはそのテスト結果が記載されている。

 しかし、結果は芳しくなかったようだ。テストされたモックアップの8つの壁は鋼鉄製のものもあればコンクリート製のものもあるが、“黒塗りの報告書”は、ある破壊技術を採用すればこの8つの壁を破壊できることを以下のように指摘しているからだ。

「(黒塗りされている)破壊技術は各モックアップには最後にテストするようリスケされた。というのは、その技術はモックアップの構造的統合性にインパクトを与える可能性があったからだ」

 これについて、専門家は、「壁をテストしたチームは、テストの際、その破壊技術がモックアップに大きなダメージを与えることに気づいたのでしょう。そのため、その技術でのテストは最後に行うよう延期したんです。(その技術を使って最初にテストしたら)モックアップが壊れてしまうと懸念したのでしょう」と解釈している。

 つまり、その破壊技術をもってすれば、壁は壊れる可能性があるのだ。報告書に黒塗り部分が多いのは、その事実を隠蔽したいからだろう。

8つのプロトタイプの壁が作られたが、“黒塗りの報告書”は、ある技術でこれらの壁が破壊できることを指摘している。写真:kpbs.org
8つのプロトタイプの壁が作られたが、“黒塗りの報告書”は、ある技術でこれらの壁が破壊できることを指摘している。写真:kpbs.org

黒塗りされた写真

 問題となった破壊技術が具体的にどんな技術であるかは、黒塗りされているため不明だ。しかし、報告書内にある黒塗りされた写真の説明から、推測はできるかもしれない。

 例えば、プラズマ・カッターのセクションにある黒塗りされた写真の下には”破壊中”という記述があり、のこぎりのセクションにある黒塗りされた写真の下には”破壊された”という記述がある。つまり、そこには、のこぎりで切られたプロトタイプの壁の写真が黒塗りされていると推測される。報告書には、黒塗りされた写真が13枚あり、下には“破壊された”という記述があるという。

“黒塗りの報告書”ののこぎりのセクションに掲載されている写真の下には、Breached(破壊された)と記されている。(写真:documentcloud.org)
“黒塗りの報告書”ののこぎりのセクションに掲載されている写真の下には、Breached(破壊された)と記されている。(写真:documentcloud.org)

 今回、NBCが独占公開した写真が、この黒塗りされた写真の中の一枚であるかは不明だが、写真は壁のテストが行われたメキシコとの国境近くにあるカリフォルニア州ポゴ・ロウで撮影されたものだ。

 アメリカとメキシコの国境2000マイルのうち653マイルに作られている現在のフェンスは、斧や点火棒、切削ツールなどで切られた跡が多数ある。

 米国税関・国境警備局によると、この5年で、フェンスは9000回以上も壊されたという。その修理費も含めた、フェンスのこの20年間の維持費用は1ビリオンドルを超えている。 

 つまり、壁はつくったとしても何らかの技術で破壊される可能性が高く、破壊された壁の修理費も莫大なのだ。また、壁をどんなに高くしたところで、それ以上に高い梯子を使ってよじ登る人も出てくると言われている。

 のこぎりで切れるような壁をつくる意味があるのか? トランプ氏は壁の必要性を訴える以前に、壁が国境警備に貢献する、建設する価値があるものなのか十分に検証する必要があるのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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