Yahoo!ニュース

懲りないトランプ氏「記者がまた無礼に振る舞ったら、追い出すか会見をやめる」進むアメリカの二極化 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
自分とは意見が違うCNNの記者の質問に耳を傾けず、遮ったトランプ大統領。(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ氏はまだ懲りていないようだ。くだんのCNNのアコスタ記者についてである。

 先日、記者会見中にトランプ氏と“バトル”となったアコスタ記者の記者証が取り上げられたことが大問題となった。この件について、CNNがトランプ氏を提訴した結果、裁判所は記者証をアコスタ記者に返還するようホワイトハウスに命じたのである。“トランプ氏、CNNに敗北の巻”となったのだ。

 この件について、トランプ氏は、米国時間で18日(日曜)放送予定の“フォックス・ニュース・サンデー”のインタビューで、、

「(返還を命じられたことは)たいしたことじゃない。アコスタが次回無礼な振る舞いをしたら、彼を追い出すか、記者会見をやめるよ」

と、懲りることなく豪語していることがわかった。

 このインタビューの中で、トランプ氏はアコスタ記者の記者証を没収した理由について「部屋にはたくさんの記者たちがいた。彼が大声で質問をし続けるから、他の記者たちが質問できなかったんだよ」と説明しているのだが、“バトル”時のやりとりを考えると、それは逃げ口上にしか聞こえない。

 トランプ氏が“米国への侵略だ”と考えているところの移民キャラバンに関して、アコスタ記者は「移民キャラバンは侵略しようとしているのではない。彼らを悪者に仕立て上げているのではないか」と挑戦的な質問をし、トランプ氏は「あなたと私とでは意見が違う」と遮っていたからだ。

 自分と違う意見は聞きたくない。そんな気持ちが、トランプ氏の中にはあるのかもしれない。そして、そんな気持ちが、今、アメリカで二極化を生み出しているのかもしれない。

トランプ氏の意見が二極化を引き出した

 アメリカでは、1990年代から、政治的二極化が進んでいる。トランプ氏が大統領に就任してからは、二極化にいっそう拍車がかけられた感がある。保守派もリベラル派も、様々な課題において、共通点を見出すことができず、相容れない状況がある。“アメリカは分断されている”と今、声高に叫ばれているゆえんだ。

 ピューリサーチセンターのアレック・タイソン氏が、14日に発表したビデオ(How polarizing is Donald Trump?)で、二極化の実態を指摘をしている。同氏によると、トランプ大統領ほど、民主党支持者と共和党支持者で支持率のギャップが大きかった大統領は過去にはいなかったという。トランプ大統領の支持率は、民主党支持者の間では極端に低く(7%)、共和党支持者の間では極端に高い(84%)からだ。

共和党支持者と民主党支持者の間では、10の政治的価値観において、ギャップが広がっている。出典:Pew Research Center
共和党支持者と民主党支持者の間では、10の政治的価値観において、ギャップが広がっている。出典:Pew Research Center

 また、上のグラフからわかるように、10の政治的価値観において保守的な立場をとる人々の割合は、1994年時は共和党支持者と民主党支持者でギャップは15ポイントだったが、2017年には36ポイントと2倍以上に広がっている。

移民に対する考え方についても、ギャップが広がっている。出典:Pew Research Center
移民に対する考え方についても、ギャップが広がっている。出典:Pew Research Center

 例えば、政治的価値観の一つである、移民に対する考え方を見てみよう。上のグラフが示しているように、1994年時は、共和党支持者と民主党支持者は移民に対する考え方にあまり差異はなかった。どちらも、移民は国を強化するというより国の負担になると考えていた。それが、時とともに、民主党支持者は移民は国の強化に貢献しているという見方をするようになった。一方、共和党支持者は移民が国に貢献しているかについては懐疑的な見方のままだ。

 タイソン氏は、トランプ氏の意見が政治的分断を生み出し、二極化をいっそう引き出した可能性があると指摘している。

スマホで強化された“Me Network”

 そんな政治的二極化について、南カリフォルニア大学及びカリフォルニア大学バークレー校で教授を務め、ジョン・マケイン氏が大統領選に出馬した際はコミュニケーション・ディレクターを務めた、政治戦略家として知られるダン・シュナー氏が、UCLAで行われた講演で、スマホとイヤホンを掲げながら、こう訴えた。

「二極化を防ぐには、イヤホンを外してほしいんです」

 

 どういうことか。

「昔は、友人と車でどこかに出かける時は、行きは自分が聞きたいラジオ局に合わせて、その音楽を一緒に聴き、帰りは友人が聞きたい局に合わせて、その音楽を一緒に聴いていました。友人の好きな曲に自分が晒されることで、自分の“コンフォート・ゾーン”から出る状況がありました。しかし、今は、スマホに繋がったイヤホンを耳に入れさえすれば、各人が自分の好きな音楽だけを聴くことができます。外の世界に晒されたり、自分の“コンフォート・ゾーン”から出たりすることがなくなったんです。つまり、スマホが、“Me”という存在を強化したのです」

 外の世界に晒されることがなくなった“Me”が自分の好きな音楽だけを聴くように、”Me”は、政治的な課題においても、自分が好む、自分と同じ考え方にだけに耳を傾けているという。その結果、”Me" は自分と同じ考え方を持つ人たちだけとネットワークを作ることで繋がる状況が起きているというのだ。

「”Me Network”ができてしまっているんです」

とシュナー氏は言う。

 “Me Network”。日本語で言えば、“私繋がり”とでも言ったらいいのか。確かに、“堕胎に対する賛否”や“銃規制に対する賛否”など、アメリカでよく議論される課題においては、この“Me Network”があると思う。"Me Network”がさらに拡大したものが、一つは保守派であり、一つはリベラル派ということになるのだろう。

 そして、両者が相容れることが難しいほど二極化してしまった現状を打破するには「自分とは異なる考え方に晒されることが重要だ」とシュナー氏は訴える。「イヤホンを外そう」と同氏が主張しているのは、“自分とは異なる意見に耳を傾けよう”ということなのだ。シュナー氏自身も、政治戦略家として政治活動に携わった際は、対立する人々の声に耳を傾けてきたという。

賢人は異なる意見を聞く

 そんなシュナー氏の主張を聞きながら、筆者は、誰より、トランプ氏にイヤホンを外してほしいと思った。トランプ氏もまた、“Me Network”の中で完結しているのではないか。側近を、自分と同じ考え方の人たちだけで固めていることはもちろん、CNNのアコスタ記者に対する態度からも、そのことは明らかだ。

 また、日本の記者がアクセントまじりの英語で質問しようものなら「何を言っているのかわからない」と差別的とも取れるような姿勢を見せたことからも明らかである。

 トランプ氏がそんな態度をとったのは、「“私”はあなたとは意見が異なる。だから、そんな質問は聞きたくない」からであり、「“私”はあなたの英語がわからない」からだろう。そこにあるのは、Me、Me、Meでしかない。つまり、CNNのアコスタ記者も、日本の記者も、トランプ氏の“Me Network”には入っていないわけである。

 大統領は国民のロール・モデルであるべき存在だ。そんな大統領が“Me Network”の中で完結しているのだから、米国民が”Me Network”の中で二極化していくのは無理もないことだ。

 シュナー氏は言う。

「賢人は、自分とは異なる意見にも耳を傾けるものです」

 トランプ大統領にイヤホンを外してほしいと切に願う。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事