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米国中間選挙直前 トランプ氏が“弱腰発言”「下院敗北はあり得る」「投石されても米軍は撃つ必要はない」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
各地で中間選挙のための遊説をするトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 「それ(下院での民主党の勝利、共和党の敗北)はあり得る。上院では、共和党はとてもうまくやっているが、それはあり得る」

 中間選挙まで秒読み段階に入る中、トランプ氏がまさかの“弱音”を吐いた。米国時間2日(金)、ウエスト・ヴァージニア州で行われた選挙集会で、下院では民主党に敗北する可能性について「あり得る」と吐露したのだ。様々な調査機関が、下院では民主党が勝利すると予測しているが、トランプ氏自身も、それを認めてしまった形となった。

 調査機関ギャラップの調査によると、1946年以降、中間選挙では、現職大統領の支持政党は、下院では平均25議席を失っている。その数は、トランプ氏のように、支持率が50%を切るとさらに増え、平均37議席を失っている。今回、共和党は、下院で23議席を失えば負けることになるので、これまでの統計にならえば、共和党は下院では負ける可能性が確かに高い。

支持率が50%以下の現職大統領が支持する政党は、中間選挙では、下院で平均37議席を失っている。表は、左から、中間選挙年、大統領名/大統領の支持政党、中間選挙時の大統領支持率、中間選挙後の大統領の支持政党の下院での議席増減数。(Gallupより)
支持率が50%以下の現職大統領が支持する政党は、中間選挙では、下院で平均37議席を失っている。表は、左から、中間選挙年、大統領名/大統領の支持政党、中間選挙時の大統領支持率、中間選挙後の大統領の支持政党の下院での議席増減数。(Gallupより)

2つの狂気が勢いを止めた

 選挙直前に起きた様々な事件が、トランプ氏に“弱腰発言”をさせたのは明らかだ。

 大統領を批判する著名人たちがパイプ爆弾で脅迫された事件とピッツバーグのユダヤ教礼拝所で11人の死者を出す銃乱射事件という2つの事件について、トランプ氏はミズーリ州で行われた選挙集会で、こうコメントしているからだ。

「共和党はものすごい勢いがあったのに、2つの狂気が勢いを止めてしまったよ。7日間、誰も、選挙のことを話題にしなったからね」

 また、今回の中間選挙では、トランプ氏は不法移民問題を最重要課題に掲げているが、中米からアメリカ国境に向かっている移民キャラバンについても、発言をトーン・ダウンした。数日前は「メキシコ国境に駐留している米軍は近づいている移民たちをある条件下では撃つかもしれない。彼らがメキシコの軍隊や警察に対して石を投げたように、米軍に石を投げてきたら、石はライフルだとみなせと私は言っている」と投石に対しては”応戦発言”をしていたのだが、2日は、打って変わり、米軍に石を投げてきても「米軍は撃つ必要はない。投石した人々は長期間、拘留されることになる」と“弱腰な姿勢”になった。

恐怖心を煽る最悪な状態に

 その一方で、“弱い犬ほどよく吠える”心理状態になのか、強い態度に出れるメディアに対しては、“最後の吠え”を繰り広げている。

 ホワイトハウスで、ある記者が、パイプ爆弾での脅迫事件のような暴力について「大統領のレトリックが暴力を生み出しているのではないかと考えている人もいます」と指摘をすると、トランプ氏はこう吠えて、暴力の責任をメディアの方になすりつけたという。

「わかってる? 君たちが、暴力を生み出しているんだ。フェイクニュースが暴力を生み出しているんだ。メディアが正しく公正なことを書けば、この国の暴力はずっと少なくなるんだよ」

 トランプ氏の“責任のなすりつけ”はメディアに対して行われているだけではない。アメリカでは、投票直前になると、ネガティブ・キャンペーンが盛んに行われるが、以下の人種差別的なネガティブ広告が、今、大バッシングされている。

 2014年にカリフォルニア州で、あるメキシコ人不法移民が2人の警察官を殺害するという殺人事件が起きたが、そのネガティブ広告は、“民主党がそのメキシコ人をアメリカに入れて、不法滞在させた”と事件の責任を証拠もなしに民主党になすりつけているからだ。そして、最後には、今、アメリカに向かっている移民キャラバンの画像を映し出し、「民主党は他に誰を入国させるのか?」と疑問をぶつけている。

 問題は、誰が作ったのかも明らかにされていない、共和党議員の間からも批判の声が上がっている根も葉もないネガティブ広告を、トランプ氏自身もツイートし、「民主党が我が国にしていることはとんでもないことだ。共和党に投票せよ」とつぶやいて支持したこと。

 民主党全国委員会の委員長トム・ペレス氏はそんなトランプ氏について「中間選挙を前に人々の恐怖心を煽っている。最悪の状態だ」と言って非難した。しかし、裏を返せば、最悪な状態に追い込まれるほど、トランプ氏は弱腰になっているとも言えるだろう。

若者の投票率が高まる

 中間選挙では通常は低い投票率だが、今回は、すでに、期日前投票者率が非常に高く、特に、若者層やマイノリティー層の期日前投票数が多くなっていることもトランプ氏を追い込んでいるのかもしれない。

 調査機関ターゲットスマートの調査によると、150万人を超える30歳以下の若者がすでに期日前投票を行なった。この数は4年前の同時期の約56万人という数と比べると3倍近い。投票日6日の30歳以下の若者の投票者数も記録的な数になると予測されている。

 ハーバード大学の調査でも、18〜29歳の有権者の40%が「必ず投票をする」と回答している。

 通常、若者層やマイノリティー層は、白人の高齢者層と比べた場合、民主党支持者が多いことを考えると、この動きは民主党に有利に働く可能性がある。

 しかし、支持率や様々な調査結果がどれだけあてになるかもまた疑問ではある。様々な調査で当選が確実視されていたクリントン候補が敗北した2016年の大統領選を思い出してほしい。今回の中間選挙も、蓋も開けてみなければどんな結果になるかはわからない。トランプ氏は今回不法移民問題に焦点を当てているものの、結局は、雇用率と賃金の上昇に裏打ちされたアメリカ経済の好景気が、トランプ氏に対する様々な逆風を払拭し、共和党を両院で勝利に導く可能性もあるかもしれない。

 中間選挙により、トランプ氏のこの2年間の仕事ぶりが審判にかけられるわけだが、果たして、米国民は、トランプ氏にどんな判定を下すのだろうか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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