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吉田栄作インタビュー(第3回)人間関係を語る「SNSはしません。“古い人間”で上等!」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ライヴでは、白いTシャツを欠かさない。(写真提供:ワタナベエンターテインメント)

 麻雀ドラマ「天」で、雀神アカギ役を演じている吉田栄作。今回は、人間関係で大切にしていること、そして、来年から始まる“人生のチャプター3”について伺った。

 第1回は、吉田栄作インタビュー(第1回)麻雀ドラマ「天」を語る「全人生を賭けて“男が惚れる男”に」(ネタバレ)

 第2回は、吉田栄作インタビュー(第2回)アメリカを語る「違いや個性がリスペクトされる母国にならないものか」

をお読み下さい。

SNSは一切やらない

ーー日本の若者たちは昨今、内向きで、海外離れしているように思われます。栄作さんはどう思われますか?

 僕が若い頃も、海外に出る若者というのはマイノリティーではあったんですが、テクノロジーが発達して、日本にいても海外の情報が入り、世界が近くなったから、海外から足が遠のいているのかもしれませんね。

 でも、地に足をつけて、五感で感じる方が絶対にいいんですけどね。だから、僕は毎年、L.A.に戻って来ているんです。そうしないと、五感で感じ取った感覚を忘れてしまいそうで。

 それに、僕としては、テクノロジーの進化には疑問を感じています。テクノロジーで生活が便利になったのはいいんですが、その分、人間関係が希薄になっている気がするんです。機械上の繋がりで友達関係が構築されている現在の状況は、僕には理解し難いところがあります。だから、SNSは一切やっていません。“Face to Face”で、一緒に何かをしたり、時には喧嘩をしたり、仲直りをしたりするのが友達なのではないでしょうか。僕自身は、生身での触れ合いを大切にしているので、友達とはどんなに遠く離れていても、直接、電話で、声でやりとりするようにしています。古い感覚と思われるかもしれませんが、“古い人間”で上等です。

 来年、元号が変わりますが、生身の人間同士が熱くぶつかりあっていた昭和という時代が、また遠のいてしまうのは寂しいですね。

ーー人との生身の触れ合いに重きを置かれている栄作さんが、人間関係で大切にされているのはどんなことでしょうか?

 自分から差し出すことかもしれません。子供の頃、一緒に風呂に入った親父がこう教えてくれたんです。

 「お湯は自分の方に向かってかくと逃げて行ってしまうが、相手の方に向かってかくと自分に戻ってくる。人間関係も同じで、自分から差し出すと戻ってくるんだよ」

と。しかし、デパートに押されて、親父が経営していた雑貨店に閑古鳥が泣いていた時、親父がお袋に差し出せたのは財布の中に残っていた最後の1枚の5円玉。財布から出てきてクルクルと回り、カランと倒れた5円玉だけでした。でも、そんな親父が、僕も兄貴も大好だった。

 許すことも大事だなと思います。人は誰しも生きていると、誰かを傷つけてしまったり、反対に、傷つけられたりすることがありますよね。誰かを傷つけてしまった自分が許されるにはどうしたらいいか? 今度は、誰かに傷つけられてしまった時に、許せる自分になればいいのではないかと。自分は許さないけど、許されたいというのはおこがましい気がするんです。許さないと、自分も許されないものだと思います。

“転”の一年に

ーーこれから、栄作さんはどんなふうに進化していくのでしょうか?

 来年は、歌手デビュー30周年を迎えます。また、携わった大作映画の公開も予定されています。年明けには50歳になり、来年5月からは元号が変わります。年齢的にもキャリア的にも時代的にも、僕にとって大きな転機の年になると思います。人生に起承転結があるとするなら、まさに“転”ですよね。

 また、渡米前が人生のチャプター1とするなら、1998年に帰国してからの活動がチャプター2、そして、来年からはチャプター3に入るのかな・・・と。チャプター3にふさわしい挑戦をして、良い結果を出したいですね。

 でも、テレビ、映画、舞台、何でもそうですが、始まりはいつも不安なんですよ。体力がもつのかなあに始まり、できるのかな、俺に。始まる時は終わる時の自分が見えていませんからね。でも、終わってみると終わった時の景色がある。どんな景色が待っているかはわかりませんが、一作一作、着実に積み重ねて行けたらと思います。

ーーそして来年もまた、ロサンゼルスに戻ってこられるのですね?

 もちろんです。アメリカに戻ると、自分の立ち位置を客観的に冷静に見ることができるんです。L.A.では車を運転している時間が長いんですが、運転しながら、これまでの自分やこれからの自分のことを考え、自問自答します。フリーウェイで過ごす長い渋滞の時間は決して無駄にはなっていない。L.A.での、僕の大切な“シンキング・タイム”なんです。

 何より、L.A.には、酒を汲み交わしながら語り合える仲間がいます。俳優である前に一人の人間である僕を受け入れてくれる友もいる。彼らと分かち合う時間は、プライスレス、かけがえがありません。(了)

(インタビューを終えて)

 昔、留守番電話に、L.A.でライヴがあることを知らせる栄作さんからのメッセージが残されていたことがありました。心臓が飛び出るほど驚くと同時に、嬉しさで舞い上がってしまい、メッセージを何度も聞き返してしまいました。90年代前半、an anの「抱かれたい男No1」で、天上人のような存在だった栄作さんが、友達のように身近に感じられた瞬間でした。今思えば、それは、アメリカ生活を終えた後から、自ら営業活動を始めるようになったという栄作さんの電話営業だったのかもしれません。

 L.A.では、ガラケーをお使いになっている姿もお見かけしました。SNSに疑問を感じ、肉声でのやりとりを大切にしておられる栄作さんらしいなと感じ、微笑ましかったです。

 来年から始まる栄作さんの“チャプター3”。栄作さんの挑戦と進化を心から楽しみにしています。Good luck!!

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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