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死刑よりも終身刑を支持するアメリカ 獄中の高校銃撃犯は訴えた「目を覚ませ! 手錠の僕がここにいる」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
死刑制度に反対するカリフォルニアの人々(www.scpr.comより)。

 さらに6人、サリン事件に加担したオウム真理教幹部たちの死刑が執行された。

 1ヶ月で13人の死刑を執行。アメリカのメディアは、“日本は、今年、アメリカが死刑執行した数(14人)とほぼ同数の死刑を執行した”という見出しを載せて、その数の多さに驚いている。他にも、“1年に10人以上の死刑はほとんどない。1ヶ月のうちに2回の死刑が行われた”とその頻度を問題視しているメディアもある。

 日本は世界に、“死刑大国日本”と言う印象を与えてしまった感が否めない。

 保守派も死刑廃止を訴えるアメリカ「政府に自国民の命を奪う死刑制度の運営は任せられない」被害者遺族も死刑廃止を訴えるアメリカ 我が子を殺された親は、犯人に“驚愕の一言”をかけたに続き、今回は、アメリカの高校銃撃犯の声を紹介できたらと思う。

 死刑制度に反対する理由の一つとしてよくあげられるのが、犯罪者から更生の機会が奪われてしまうということ。実際、死刑に処された13人のオウム真理教幹部の中には、更生して償おうとする姿勢を見せていた者もいるようだ。例えば、岡崎一明元死刑囚は被害者や遺族に償うために水墨画や色紙を描いていた。中川智正元死刑囚は化学の専門誌にサリンを製造した過程を振り返る手記を寄せたり、化学兵器の専門家の聞き取り調査に応じて情報発信したりしていた。また、広瀬健一元死刑囚は子供たちのために数学の参考書作りをしていたという。彼らがそんな活動を行なっていたのは、事件を犯した後、洗脳から目覚めたからだろう。(参考記事:オウム真理教事件 死刑執行オウム13人死刑執行 サリン事件の解釈を「拒絶」した日本社会

目を覚ませ!

 目を覚ませ! 拙著『そしてぼくは銃口を向けた』(草思社刊)で取材した高校銃撃犯のジャコブ・デイビスは、獄中からそう呼びかけていた。事件時、ジャコブは目を覚ましていなかった、気づいていなかったからである。

 ジャコブは、1998年5月、テネシー州の高校で、三角関係に巻き込まれた末に恋敵を銃撃し、死に至らしめた。亡くなったのは、つきあっていたガールフレンドが二股をかけていた男子生徒である。

 裁判では、ジャコブが、事件時、現実から乖離していた状態だったかどうかが争点になった。弁護側からの証人として出廷した犯罪心理学者はこう訴えた。

「ジャコブは幼少期に産みの母から捨てられました。そんな喪失体験をしたため、ジャコブは喪失ということに過度に敏感になっていた。大きな喪失を体験した人は、体験していない人よりも、何かを失った場合、ずっと深く苦しむのです。彼は愛する恋人を喪失して苦しみ、手首を切るほど重度の鬱病になり、怒りという激情に心が乗っ取られて、現実乖離に至ってしまったのです」

 しかし、検察側は、ジャコブは現実乖離をするほどの深刻な鬱病ではなかったと主張。陪審員たちは、弁護側が求めた精神障害という理由での減刑を認めず、ジャコブの犯した犯罪は第1級殺人に相当すると判断、彼には終身刑が科された。

気づかぬうちに抱えている心の病気

 

 ジャコブは、当時の気持ちをこう話してくれた。

「ガールフレンドは二股をかけているけど、自分は大丈夫だと思っていたんです。健康状態が悪化し、心はズタズタになっていることはわかっていたけど、まだ大丈夫だと。自分の心の傷が銃撃を犯してしまうほどひどくなっていたとは、撃つまで気づかなかったんです」

 撃ったことには自分自身が一番驚いているというジャコブは、獄中から、大都市に住む、犯罪に走りそうな子供たちに手紙を送っていた。子供たちの中には、本当は精神状態が全然大丈夫ではないのに、大丈夫だと思い込んでいる犯罪者予備軍がたくさんいるのではないか。そう考えたからだ。

「僕のように、知らず知らずのうちに心の病気を抱えている人々は世界中にたくさんいるはずなんです。しかし、彼らは自分が何かを犯すまで気づかない。彼らの周囲の人々もその人が何かを犯すまで気づかない。手遅れの事態が生じるまで、自分の本当の心の状態に気づかない人が多いと思うんです。僕自身がそうであったように。だから、気づけと、目を覚ませと訴えているんです。目覚めない限り、僕が犯したような事件は永遠に起こり続けると思います。自分がどこかおかしいと気づいたら、話を聞いてくれる人を見つけてほしい。誰かに助けを求めてほしい。そうしないと、こんなふうになってしまうからです」

 そう言って、重たい手錠がかけられた自分の手首を強く揺すぶったジャコブ。その姿が昨日のことのように脳裏に蘇る。

 生き続けることができれば、ジャコブのように、自分の体験を語り、目を覚ませと世に訴え続けることができるのだ。生き続けることができていれば、岡崎元死刑囚や中川元死刑囚や広瀬元死刑囚も、獄中から外部に思いや情報を発信することで、社会に貢献し続けることができたかもしれない。

 今年、クィニピアック大学が有権者を対象に実施した調査では、“殺人犯は死刑にすべきか、執行猶予なしの終身刑にすべきか”という問いに対して、死刑を支持した人々の割合は37%、執行猶予なしの終身刑を支持した人々の割合は51%と、大多数の人々が終身刑を支持した。

 13人という“大量死刑”が行われた今、日本は、犯罪者たちが生き続けることの意義に気づくべきではないか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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