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マイケル・ムーア監督が警告「トランプが2020年の大統領選で勝ってしまうぞ」 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ再選を警告するムーア氏。写真:hollywoodreporter.com

 「みんな、今回は、僕の言うことをきいてよ。トランプが2020年の大統領選で勝ってしまうぞ」

 こう警告するのは、“突撃取材”で知られるドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏。ムーア氏がアメリカの人気トークショー「リアル・タイム・ウィズ・ビル・マー」(6月29日放送)に出演した際に放った一言だ。

 ムーア氏は、2016年の大統領選の際も、トランプ氏が大統領になると警告、トランプ氏当選を阻止すべく、大統領選挙寸前に、映画「マイケル・ムーア・イン・トランプランド」を公開して、有権者に、ヒラリー候補に投票するよう呼びかけた。しかし、そんな呼びかけも虚しく、トランプ氏が当選してしまった。まさかトランプ氏が当選するはずがない。多くの人々がそうたかをくくっていたからだ。

アメリカ人の大多数はリベラル

 今回、ムーア氏は、そのリベンジを果たすべく、現在編集中のドキュメンタリー映画「華氏11/9」(米国で9月21日公開予定)を通して、再び、反トランプ派の有権者に投票に行くよう呼びかけようとしている。トークショーで、ムーア氏は力説した。

「映画は中間選挙の前に公開する。たくさんの人々に投票に行ってもらいたいからだ」

 “反トランプ”のリベラルな有権者は、保守派の有権者と比べると、積極的に投票に行かない傾向がある。ムーア氏はそんなリベラルな有権者たちの重い尻を叩きたいのである。アメリカ人の大半を占めるというリベラル派が進んで投票に行けば、秋の中間選挙で民主党が勝利すると感じているからだ。

 ムーア氏は言う。

「アメリカ人の大多数はとてもリベラルなんだ。民主党大統領候補は、一般投票では、過去7つの大統領選中6つの大統領選で勝ってきた。1988年以降、一般投票で勝った共和党大統領候補は、2004年に当選したブッシュだけだ。この国の人々は、共和党の大統領を欲していないんだ」

トランプ氏の別荘に“突撃”

 「華氏11/9」は、ムーア氏がアメリカ同時多発テロ事件の顛末について取材したドキュメンタリー映画「華氏9/11」を意識したタイトルだ。11/9は、トランプ氏が大統領選の勝利宣言をした2016年11月9日の11/9からとったものである。

 ムーア氏は映画の詳細については明かしてくれなかったが、「我々がなぜ今のような状況に陥り、それから脱するためにはどうしたらいいかを描いた映画だ」という。

 トークショー「ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア」(6月28日放送)で流された映画の短いクリップを見ると、ムーア氏は、フロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の別荘マールアラーゴに“突撃取材”を敢行。“南のホワイトハウス”がどんなところかチェックしたいからだという。

 前述の映画「マイケル・ムーア・イン・トランプランド」で、ムーア氏は、トランプ氏はマールアラーゴで執務を行うと予測していたが、まさにその通りとなり、トランプ氏は執務の3分の1をマールアラーゴで行なっている状況だ。 

 クリップは、邸宅のエントランスと思われるところに到着したムーア氏が、

「シークレットサービスにここに来るように言われた。上がって、ドナルド・トランプ氏と話がしたい。私が来ていると伝えてほしい」

と言って、終わっている。

 ムーア氏はマールアラーゴに「計11分半いた」という。摘み出されはしなかったというが、当然ながら、歓迎は受けなかったようだ。

ムーア氏の新作「華氏11/9」のクリップが紹介されているトークショー

終身大統領にさせるな

 「華氏11/9」の背景には、トランプ氏が終身大統領として居座り続けるのではないかというムーア氏の危惧がある。トークショーで彼は訴えた。

「今回は僕の言うことをきいてよ。トランプが2020年の大統領選で勝ってしまうぞ。誰かがトランプを終わらせないと、彼は2期目後も居座り続けるだろう。この男は、終身大統領でいるのを良しとしてるんだ。数週間前、彼は言っていた。ルーズベルトは4期大統領を務めたから、私もできるだろう?と。彼は習氏や金氏のことも大好きだ。彼は独裁者が大好きなんだ」

 確かに、トランプ氏は、今年3月「習氏は終身国家首席だ。彼はそれを可能にした。素晴らしい。私たちもいつか終身大統領制を試してみたらいい」と発言していた。

手遅れになる前に立ち上がれ!

 ムーア氏は、さらに、こう警鐘を鳴らした。

「みんな、今、この状況を終わらせることができなかったら、このショーで「侍女の物語」について話したなあ(ショーの中で、ムーア氏は「侍女の物語」について触れていた)と、将来思い出すことになってしまうよ」

 「侍女の物語」とはカナダの作家マーガレット・アトウッド氏が書いたディストピア小説で、キリスト教原理主義者が作ったギレアデ共和国という宗教国家が舞台となっている。ギレアデ共和国では、有色人種が迫害され、他の宗教も認められておらず、女性は“侍女”と呼ばれて生殖に奉仕するよう強要されている。アメリカでは、ストリーミングサービスを行うHULUがテレビドラマ化して配信し、昨年、エミー賞を総なめしたが、ムーア氏は、ギレアデ共和国に現在のアメリカを見ているのだ。

 ムーア氏は、このドラマを解説しつつ、ファシズムに言及する。

「このドラマの一番いいところは、主人公のオブフレッドに扮するエリザベス・モスが、どの時点で手遅れになったのかしら、どの時点で立ち上がればよかったのかしらと回想するシーンなんだ。ファシズムは、少しずつ進んでいくものなんだ」 

 確かに、気づかないうちにじょじょに進行して行くのがファシズムなのかもしれない。そして、気づいた時はそのシステムを変えるにはすでに手遅れになっているのかもしれない。

 手遅れになる前に、立ち上がろうとムーア氏は人々を急き立てる。

「みんないつカウチから起き上がるんだい? 我々はいつ立ち上がるんだ?」

 ムーア氏は、新作「華氏11/9 」を通じて、民主党を中間選挙で勝利へと導き、2020年のトランプ再選に歯止めをかけることができるのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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