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テキサス州高校銃乱射事件 銃撃犯は日本の軍歌を流し、撃つ度に「また誰か殺られるぞ」と口ずさんでいた

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
テキサス州高校銃乱射事件の犠牲者たちの十字架が立てられた。(写真:ロイター/アフロ)

「誰かを撃つ度に、彼はこう言ったんです。”また誰か殺られるぞ”(another one bites the dust)」

 ABC放送のモーニングショー「グッド・モーニング・アメリカ」でこう話したのは、テキサス州サンタフェ高校銃乱射事件の現場となった美術教室で、乱射を目撃した同校生徒のトレントン・ビーゼリー君だ。

 

 銃規制が進まないアメリカではもはや“ニュー・ノーマル”となってしまったが、今年22件目となる学校銃乱射事件が起きてしまった。

 銃撃犯とされるディミトリオス・パゴーチェス容疑者は、5月18日、32度という暑さにもかかわらず、今や“高校銃撃犯のユニホーム”となった感さえある黒いトレンチコートに身を包んで、乱射に及んだ。8人の生徒と2人の教師が亡くなり、13人が負傷、パゴーチェス容疑者は逮捕された。

日本の軍歌が大音量で流されていた

 

 当日、現場となった美術教室にいたトレントン君は、1発目の銃声を聞いた時、誰かの教科書が床に落ちた音かと思ったという。しかし、その後、2発の銃声が続いた。教室にいた生徒たちが逃げ始めたのはその後だったという。

 トレントン君は、乱射中のパゴーチェス容疑者の様子をこう話した。

「彼は音楽を流し、ジョークを飛ばして、スローガンと歌を口にし続けていたんです。誰かを撃つ度に、彼はこう言ったんです。”また誰か殺られるぞ”(another one bites the dust)」

 トレントン君が言及した音楽とは、ニューヨークポスト紙で指摘されているが、犯行時、パゴーチェス容疑者の携帯から大音量で流されていたという日本の軍歌だ。同じ軍歌は、現在は削除されているものの、彼のユーチューブ・ページにも投稿されていたようだ。

 また、パゴーチェス容疑者は美術教室の隣のクローゼットに逃げ込んだ生徒たちに向けてこう叫び、クローゼットの扉を撃ったという。

「驚いたか、くそったれ!」

 この銃撃でクローゼットに避難していた生徒のうち、少なくとも二人が亡くなった。また、この銃撃のあと、パゴーチェス容疑者は、

「死んだか?」

とクローゼットに避難した生徒たちに声をかけて、嘲笑ったという。

 乱射を面白がっているようにしか見えないパゴーチェス容疑者の様子は、コロンバイン高校銃撃事件を彷彿させた。黒いトレンチコートに身を包んだエリックとディランという二人の銃撃犯は、「次は誰かな」と怖がらせながら、また、「なんて面白いんだ」と叫びながら、テーブルの下に隠れていた生徒に次々と銃口を向けて行ったからだ。

事件の1週間前、教室で公然とふられていた

 パゴーチェス容疑者はもの静かな、ごく普通の生徒で、フットボールに打ち込んでいたという。周囲の人々が気にするような危険信号は出していなかったようだ。

 銃撃の動機はまだ解明されていないが、銃撃で最初に撃たれたと言われている女子生徒シャナ・フィッシャーさんの母親は、シャナさんが事件の一週間前、パゴーチェス容疑者をふったことが犯行の理由ではないかと指摘している。シャナさんは、4ヶ月前から、パゴーチェス容疑者に交際を迫られており、断ったものの、彼の態度はどんどん執拗になっていたという。嫌気がさしたシャナさんは、生徒たちがいる教室で、公然と彼との交際を断ったというのだ。みんなの前で恥をかかされたことに怒りを感じたために、パゴーチェス容疑者は犯行に及んだのではないかと、シャナさんの母親は考えている。

 現場となった教室にいた女子生徒は、パゴーチェス容疑者について、

「彼は教室に入ってくると、ある人物に銃口を向けて、“殺すぞ”と宣言して、発砲したの。それから残りの生徒たちに、“動いたら撃つぞ”と言ったの」

 と話している。ある人物というのがシャナさんだったのかもしれない。

地獄へ道連れか、神風特攻隊か

 高校銃撃犯たちの共通点の一つに「犯行の計画性」というのがあるが、パゴーチェス容疑者も日記に、“銃撃をして、自殺する“という犯行計画のようなものも記していたという。好きだったシャナさんを撃ち、自らも命を絶つという計画だったのだろうか?

 ところで、パゴーチェス容疑者が、撃つ度に口ずさんでいたという、“また誰か殺られるぞ (Another One Bites the Dust)”というのは、日本では「地獄へ道連れ」と意訳されている、イギリスのロックバンド、クィーンのヒット曲の曲名で、歌詞の中でも繰り返されるフレーズだ。歌詞を見ると、“また誰か殺られたぞ、なあ、おまえも殺ってやろうか“と、男性をすぐに捨てる女性に対して放っているように取れるフレーズも登場する。この歌詞は、パゴーチェス容疑者の気持ちを代弁しているものゆえ、彼は犯行時に口ずさんでいたのだろうか?

 あるいは、美術教室に突撃して、自死することで、“神風特攻隊”のようになろうとしたのかもしれない。すでに、削除されたが、パゴーチェス容疑者は以前、フェイスブックで、旭日旗つきの黒いトレンチコートを着ていることを自慢し、旭日旗は「神風特攻隊の戦略」を表していると説明していたという。神風特攻隊に憧れを感じていたと思われる。

 しかし、計画したようには自分の命を絶つことはできなかった。バゴーチェス容疑者によると「勇気がなかったために自殺ができなかった」からである。

 また、警察の記録によると、パゴーチェス容疑者は「自分サイドのストーリーを話してもらうために、好きな生徒たちは撃たなかった」とも話している。つまり、彼が置かれていた状況を把握している生徒もいるということかもしれない。

 17歳の若者の心に何が起きたのか。明確な動機の解明が待たれるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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