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“人種差別大統領”トランプ氏も絶賛する黒人カリスマ司会者オプラが、“思いやり大統領”になる日

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
2020年、オプラ・ウィンフリー大統領が誕生するのか?(写真:ロイター/アフロ)

 就任以来、世界から孤立するような政策や“お金持ち優遇税制”を取って批判を浴び続けているトランプ大統領。今年に入ってからも、話題作りに事欠かない。発売されたばかりの暴露本『炎と怒り』では本性が暴かれ「大統領には不適任」という烙印が押された(詳しくは、トランプ大統領の暴露本は、トランプ政権への“爆弾”となるのか?をお読み下さい)さらには、アフリカや中米の国々を「便所のような国」と侮蔑し、”人種差別大統領”という名を不動のものにしてしまった。日本に関していうなら、昨年11月に歴訪したアジアの国々の指導者たちを、ジェスチャーを交えて人種差別したことも、日本の人々には、改めて伝えておきたい(詳しくは、トランプ大統領、“人種差別的モノマネ”をしてアジアの指導者たちを嘲るをお読み下さい)

世界で最も影響力があるカリスマ司会者

  トランプ大統領を再選させるな! そんな声が高まる中、今、アメリカでは、2020年の大統領選に向け「オプラ・ウィンフリー大統領待望論」が盛り上がっている。

 オプラ・ウィンフリーは、日本ではあまり知られていないが、アメリカでは1986年から25年に渡り、自身の名を冠すトーク番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」の司会を務めたカリスマ司会者だ。タイム誌をはじめ、数々のメディアから“世界で最も影響力がある人物の一人”に選ばれており、”オプラ効果”という名前が生まれたほど、強い影響力を与える黒人女性として知られている。”オプラ効果”で、オプラが推した本はベストセラーとなったり、大統領選にも影響を与えたりした。ある調査によると、2008年の大統領選の際、オプラがオバマ氏支持を表明したことで、オバマ氏は、民主党予備選で、得票数を100万票以上延ばすことができたという。

 待望論の発端は、先日のゴールデングローブ賞の受賞式で、オプラが、功労賞である“セシル・B・デミル賞”を受賞した際にしたスピーチ。「真実を語ることは私たちの最強の手段。長い間、女性たちは無視されてきた。女性たちを虐げるような行為はもうおしまい。女性たちには、新しい夜明けが近づいている」とセクハラを告発した女性たちの勇気を讃えたことが人々の心を打ち、ツイッターでは、#Oprah2020や#OprahForPresident などのハッシュタグが登場、「オプラを次期大統領に」という声が瞬く間に広がったのだ。

オプラだったら話せる

 女優のメリル・ストリープなどハリウッドのセレブたちもオプラを大統領に押し始めている。ハリウッドの重鎮で、自身の作品『カラー・パープル』にオプラを起用したスティーブン・スピルバーグ監督も、英カーディアン紙のインタビューで「オプラは絶対に素晴らしい大統領になるよ。応援する」と太鼓判を押した。

 スピルバーグ監督は、その理由について、こう話した。

「オプラは“思いやり大使”だ。今の大統領に、大統領のスキルがあるだろうか? ホワイトハウスには人々を理解し、自分の権力を強化することより人々のことを先に考える、思いやりのある人物が必要なんだ。オプラは無私無欲の人物だ。キャリアのある政治家よりも、オプラのような人を応援するよ。次期大統領は”人々のための大統領”になってほしいからね」

 オプラにある大統領としての資質”思いやり”は、彼女の生育環境から培われたと思われる。1954年、シングルマザーの下、ミシシッピ州に産まれ、貧しい子供時代を送ったオプラは、9歳の頃から、従兄弟や叔父などの身内にレイプされるなどの性的虐待を受け、13歳の時家出、14歳で妊娠し、出産した子供は間もなく亡くなるという経験をしている。

 しかし、オプラはそんな辛苦に屈することはなかった。スピーチコンテストで勝つほど得意なトークをいかし、ナッシュビルの地方局では、史上最年少かつ初の黒人女性ニュースキャスターとなる。その後、シカゴの地方局のトーク番組の司会者に抜擢されるが、この番組が評判を呼び、1986年から『オプラ・ウィンフリー・ショー』として全国放送され、国民的人気番組となった。オプラは“お茶の間の顔”として愛されてきたのだ。

 オプラの人気の秘密は、スピルバーグ監督が指摘したように、その”思いやり”にあった。番組には、エリザベス・テーラーやマイケル・ジャクソンなど旬のセレブがゲストとして登場したが、彼らの心を開かせたのは、相手の気持ちになって耳を傾けるオプラの思いやりだった。1993年、マイケル・ジャクソンが、幼少期、父親からベルトで殴られるなどの虐待を受けていたことを激白したのも、インタビュアーがオプラだったからだ。オプラだったら話せる。オプラは人々にそう感じさせる共感力があるのだ。それは、幼少期、社会的弱者であった自身の経験から育まれたものだろう。トーク番組では、様々な社会問題もテーマになったが、自身の辛い経験を曝け出しながら、常に、弱者目線で問題を見つめるオプラの思いやりに、視聴者は癒しを見出し、涙した。

トランプ氏はアメリカ国民のために変わったのか?

 そんなオプラの対極にあるのが、トランプ大統領と言ってもいいかもしれない。裕福な家庭で何不自由なく育ち、勝ち続けてきたトランプ大統領は明らかに思いやりに欠ける。数々の暴言や人種差別発言も、思いやりの欠如が、その根底にあることは間違いないだろう。

 思いやりの欠如については、自身も認めるような発言をしている。筆者が、ワシントンポスト紙のシニアエディター、マーク・フィッシャー氏にインタビューした際、フィッシャー氏は、トランプ氏と交わしたこんなやりとりを話してくれた。

「私がトランプ氏に『あなたは、長い間、競争相手を傷つけたり、建設業者から訴えられたりしてきました。あなたの成功の陰には、たくさんの傷ついた人々がいるのです』と言うと、彼は答えたのです。『彼らは関係ないよ。すべてドナルド・トランプのためにやってきたことだからね』と。『では、そんなあなたは、どうやって国民の代表になろうというのでしょうか?』ときくと『私は変わらなければならないな。これまでドナルド・トランプのためにしてきたことを、これからは、アメリカ国民のためにするよ』と言ったのです」

 しかし、トランプ大統領がアメリカ国民のために変わったかは、見ての通りだ。

オプラを副大統領候補に

 トランプ大統領は、沸き上がった”オプラ・ウィンフリー大統領待望論”について「私はオプラに勝てる」と豪語したが、皮肉なことに、彼はオプラを副大統領候補にと支持していた。”オプラ効果”にあやかりたかったのか、1999年に大統領選に出馬した際、主演したトーク番組で、「彼女が副大統領になったら素晴らしい。彼女は人気者だし、頭もいい。素晴らしい女性だ」と絶賛、オプラにラブコールを送っていたのだ。

 さらには、2015年にも、ABCのインタビューで「僕らは簡単に勝てると思うよ。オプラのことは好きだし、悪いことじゃないだろう?」と再びオプラにラブコールを送ったが、2016年の大統領選中、あるトーク番組に出演したオプラに「ドナルド、私は彼女(ヒラリー・クリントンのこと)を応援しているのよ」と言われて、あっけなく振られてしまった。

 政治スタンスがリベラルなオプラが、トランプ氏とタッグを組むはずはなかった。オプラはジェンダーの平等を訴え、男女間の給料差を問題視し、担当の女性プロデューサーが昇給されなければ、トークショーを降板するとまで言い放ったこともある。また、ゲイの権利を支持し、銃規制問題では厳格な身元調査の重要性を主張、移民問題では不法移民を市民権取得へと導く道筋を作る必要性を訴えた。イラク侵攻の際は、「戦争だけが解決策なのか?」というシリーズを企画し、戦争に反対した。

 ”オプラ・ウィンフリー大統領待望論”が盛り上がる中、オプラに政治経験がないことを問題視する声もあるが、トランプ大統領にも政治経験はなかった。しかし、大統領になることができた。アメリカ国民が、大統領に、政治経験よりも、国民感情の理解を求めているとしたら、オプラに十分な勝ち目はあるだろう。

 オプラは出馬を否定しているが、トランプ大統領に勝てる可能性が高い強力な対抗馬として、アメリカ国民からのラブコールはこれからも続きそうだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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